#13

ロイド、ノア部屋から出て扉が閉まる。すぐに奥の扉も開いて閉まる音がする。



ナツミ (あとは…あとは…?ダメだ。さすがキャラとしてみたとき作中最も謎多きキャラ。これ以上は、何も浮かばない、知らない。…あ、“主人公黒幕説”。主人公が不思議の力を持っているのにあまりにも何も出てこなさすぎるから浮かんだ噂…。こんな時に嫌な言葉が浮かんじゃったな。でも、もし、あたしに起こったことも、これから起こることも、全部全部特待生のせいだったら…?あたしを、作品の世界に入れて…あたしの、オリキャラで…)


リベラ 「まったく。心配で泣きそうだったのはどっちなんだか。ノアちゃんとロイドちゃん、最初は寮にも戻らないでクレアちゃんの目が覚めるまでそばにいるって聞かなかったんよ?さすがに説得して帰したけど、本当に仲良しやんな~。…クレアちゃん大丈夫?」


クレア 「あっ…。」



クレア、血の気の引いた真っ青な顔をして冷や汗をかいている。



リベラ 「起きたばかりにはちょっと彼らは元気すぎたかな?放課後までゆっくり休み。」



リベラ、部屋から出ようとする。



クレア 「あの…!何か書くものをいただいてもいいですか…?」


リベラ 「…もちもち!ちょっと待ってな。」



リベラ、ボリュームのある髪からペンと丸められた紙を取り出す。



ナツミ (…リベラ先生の特徴。ボリュームのある髪から物を取り出す…。)


リベラ 「ついでに飴ちゃんもお食べ。落ち着くから。」


クレア 「…。」


リベラ 「あ!?ばっちくないよ!!?これ魔法やから!?そう見せてるだけ!実際に髪から出してるわけじゃないから勘違いせんといてね!!あ、でもちょっと入れてるときあるけど!そっちのほうがおこちゃまとかに受けがよくて喜んでもらえるから!!」



リベラ、クレアが食べ終えたケーキや紅茶の食器類を片付け、代わりに紙とペンと飴を置く。



リベラ 「んじゃ、本当にごゆっくり~。」



リベラ、慌てた様子で部屋から出ていく。

扉が閉まる。



クレア 「…はぁ~!」



ナツミ、大きくため息を吐くとペンを握る。



ナツミ (とりあえず、今の状況や考えをまとめよう。完全にキャパオーバーではあるけど…。)



ナツミ、リベラからもらった紙に書き込みをする。



ナツミ (まず、あたしはなつみ。ごくごく普通の女子高校生、華のJK。それが目が覚めたら知らないベッドの上で眠っていた。どうしてこうなったんだ?その前は…何してたんだっけ?…多分ふつうに…そう“普通”の生活を送っていたはず。今いる場所は病室っぽいけど多分保健室。それもどこの保健室かというと、きっとアルカレッド・フォースト魔導学校の保健室。つまり、ここは『乖離の箱庭』の世界の中。スマホ越しのゲーム画面で何度も見たノアやロイド、リベラ先生がそっくり?いや、そのままいることから間違いないはず。名前呼んで応答があったことから相当たちが悪くない限り本人たちで間違いない。)


クレア 「この時点で既にキャパオーバーなんだけど…。」


ナツミ (夢の可能性もまだあるし、そう願いたいけど、さっき自分を殴った時に痛みを感じたし、いくらリアルな夢でもここまでいかないことから夢である可能性は極めて低い。これはきっと現実なんだろう。…残念だけど。そうなると…百歩譲ってここまでなら、なんかのタイアップの大型ドッキリとかで、乖離の箱庭をすんごい再現したセット作って、超顔の良いコスプレイヤー雇ってあたしを騙し、笑いものにする人間観察系ドッキリ企画とか番組とかが…ものすごく無理はあるけど、現実的、かな…?でもなぁ…)



クレア、左手を見つめ、掲げる。窓から差し込む光を左手で遮ると日の光に透けて血潮が見える。



クレア 「この体は本物なんだよなぁ…。」



ナツミ (ここが一番謎ポイント。あたしが今クレアちゃんになっているってこと。クレアちゃんはあたしが作り出した乖離の箱庭の二次創作で、オリジナルキャラクターに過ぎない。つまり、公式の乖離の箱庭には当然だけどオリキャラであるAエースの女の子たちは一切出て来ない。それなのさっきノアやロイド、リベラ先生は平然とクレアちゃんがいることを受け入れていた。どういうこと?クレアちゃんの存在を知っているのは一緒にヲタ活をしていた、みはる、ちあき、ふゆかだけなのに…。ここは本当にあたしの知っている乖離の箱庭の世界なの…?)



クレア 「っていうか、あたしがここにいるんだったら本物のクレアちゃんはどこに行っちゃったのぉ…?」



ナツミ (どうせ乖離の箱庭の世界でかつAエースの子たちがいる世界線であるのなら、あたしはそんじょ

そこらのモブでいいから傍から女の子たちと乖離の箱庭キャラの絡みを眺めていたかった…!あたしがクレアちゃん本人なんて解釈違いすぎる…。)



ナツミ、クレアの手を開いたり握ったりし、それを見つめる。



ナツミ (!もしかして、リベラ先生の言っていた事故で実はクレアちゃんは死んじゃってその空っぽの器にあたしの魂が入ったとか…。…いや、クレアちゃんは能力によって半不死身だ。あたしが作った設定をそのまま受け継いでいるのならそれはあり得ない。)



ナツミ、ペンを握り自分の考えをまとめる。



1、 あたしが乖離の箱庭の世界に来てしまったこと

2、 乖離の箱庭の世界にオリキャラであるクレアちゃんがいること(他のAエースもいる?)

3、 本物のクレアちゃんはどこにいるのか



ナツミ (こんなもんか…。うーん…。…うん、考えたって正解がわかるわけない、保留!)



やること

1、 本物のクレアちゃんにこの体を返す

2、 元の世界に帰る



ナツミ (うん。仮に元の世界に帰れたり元に戻れる状況になっても、せっかくこの世界に来たんだから本物のクレアちゃんを一度は拝まないと帰るに帰れない。だから本物のクレアちゃんにこの体を返して、元の世界に帰る、この順番が妥当。)



クレア 「帰り方は…。」



ナツミ (まぁ、魔法が存在する世界で大魔法士とかよくわからないくらいすごい人がいるんだから、なんかすごい魔法とかで帰れるんじゃないかな?)



ナツミ、紙に記入する。



『すごい大魔法士にコンタクトをとって魔法で元の世界に返してもらう』



ナツミ (これしかないな。現実問題できるかは知らないけど、まずはこれに賭けてみよう。あとは予備策として異世界転移っていうのかな…?世界間の移動について調べるべきだな。)



ナツミ、ペンを置き、頬杖をついて窓の向こうをぼんやり眺める



ナツミ (あとはどうしようかな…。みんなに全てをカミングアウトすべきか…。…したほうがいいな。しなかったらクレアちゃんに成りすまして演じ続けることになるからな。あたしが創った子だからどんな風に喋るのかとかどういう仕草をするのかとかわかるし、演じれないわけではないけど、他人を演じ続けるのは相当エネルギーを使う。…でもなぁ、やっと目が覚めたクレアちゃんが別人と入れ替わってたなんて信じてもらえるかな…。ノアとロイドはクレアちゃんと仲が良くて、さっきもすごい心配してたし、この事実は二人を傷つけそうだな…。もしかして、入れ替わりの犯人に疑われたりして…!それでクレアを返せ!って拷問にかけられたり…。…いきなり全てを打ち明けるのはやめよう。お互い信用できる人というわけではないし。様子を見て大丈夫そうだったら打ち明ける、危なさそうならすぐにクレアちゃんを演じる作戦に移行しよう。)



学校の鐘が鳴ることでナツミははっと我に返る。

ナツミ、隣の部屋で話し声がするのが聞こえる。



ナツミ (ノアとロイドが帰ってきた…?いや、それにしては静かだな。)



ナツミのいる部屋にノックの音が響く。



?? 「入るよ。」



その言葉を合図に扉が開かれる。ナツミのいる部屋に二人の青年が入ってくる。



クレア 「…リズ先輩。キャロル先輩。」


ナツミ (リズとキャロルはアルカレッド・フォーストの3年生だ。クレアちゃんとの関係性はリズは同じ寮だけど、キャロルは特にない。何の用だろう?)



リズと呼ばれたどこか猫を思わせる雰囲気の、腰丈ほどの髪を一つに結いた青年は呼ばれたことに満足そうに笑い、キャロルと呼ばれたおしゃれな髪飾りをつけアシンメトリーの髪をした青年はどこか安心したように優しく微笑む。



リズ 「うんうん、どうやら僕たちのことは覚えていたようだね。」


リベラ 「そんな大きな記憶障害は起こしとらんやんな。」



リベラ、向こうの部屋からひょっこり顔を覗かせる。



キャロル 「加減はどうだい?」


クレア 「おかげさまで。」


リズ 「まったく、キャロルが変な予感がすると言うから心配して来てみれば健康そのものじゃないか。」


キャロル 「うん…ような気がしたんだけど…僕の気のせいだったかもね。」


リズ 「人騒がせなやつだ。ボクはそんなもの感じなかったよ?」


キャロル 「まぁ、何もないに越したことないじゃないか。」


リズ 「ふん、都合の良いことを言って…。」


リベラ 「じゃあ、お二人さん、あとは任せても良き?」


キャロル 「はい。」


リズ 「お任せください。」


リベラ 「ほんじゃよろしく。あ、クレアちゃんはもう問題なさそうやからお迎えが来たら帰ってええよ。でも、しばらくは安静にな。」


クレア 「わかりました。」



リベラ、部屋から出ていく。

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