#11

なつみ 「・・・。」


なつみ (さっき乗ってた電車いつまで止まってるんだろう?ここ終点じゃないはずなのに。清掃とか不具合とかなにかあったのかな?)


なつみ 「それにしても静かだなぁ・・・。」


なつみ (初めて降りる駅だから詳しくないけど。田舎の方の駅ってこんなもんなのかな?でも、急行止まるしなぁ・・・。そういえば、あたし、なんかとてもいい夢を見ていたような気がする。なんだったっけなぁ…。起きた後バタバタしてて忘れちゃった…。くそう…絶対いい夢だったのに…!)



なつみ、何気なくポケットに手を突っ込む。



なつみ 「熱っ!?」


なつみ (しまった、スマホの電源入れっぱだった!)



見ると、乖離の箱庭が起動されたままになって、スマホが熱くなっている。

しかも、通常の画面ではなく、一部分のデータが欠けていたり、文字化けしていたり、ノアの背景が荒んでしまっている。



なつみ (やだ!バグってる!?熱で完全におかしくなっちゃったかな・・・。)



画面の中央にいるノアはなんとか無事だが俯いている。



ノア 「どうしてこんなことになっちまったんだ・・・。くそっ・・・!もう一回・・・。」


なつみ (ん?何のセリフ?)



急にノイズが混じり、音が割れ始める。



ノア 「何度だっ・・・、・・・れは・・・めない。」


なつみ (うまく聞き取れない・・・。)



なつみ、スマホのボリュームを上げる。しかし、ノイズばかりが大きくなる一方で言葉は聞き取れない。

言葉が途切れ途切れになる。



ノア 「かな、ず・・・!」



ノア、パッと顔をあげる。



なつみ (っ!今、目が合っ・・・!)


ノア 「思・・・してく・・・帰って・・・れあ・・・!」



ノイズの音が大きくなり、画面の乱れが強くなる。



ノア 「******!!」



突如、なつみのスマホの画面に内側からひびが入る。



なつみ 「きゃっ!?」



なつみ、驚きのあまりにスマホを落としてしまう。

地面に落ちたスマホはその反動で完全に割れ、ガラスが飛び散る。



なつみ (なになになに?何が起こっているの・・・?バグ?何?どういうこと?やだやだやだ。こわいこわい・・・!)



「「・・・。」」



場が静まり返る。無人の駅。音の鳴るものは何もない。まるで、ような、そんな沈黙。



なつみ 「・・・。」



なつみ、恐る恐るスマホを拾おうと手を伸ばす。

すると突然、スマホの亀裂から人の手が伸びてくる。



なつみ 「!?」



その手はスマホに手を伸ばしたなつみの腕をしっかり掴むと遅れて出てきたもう一本の腕で奈津美の反対側の手を取り、導くようになつみをスマホの中へと引っ張ってしまうのであった。




***




ナツミ「…。」



無味乾燥の天井。



ナツミ (薬品やアルコールの匂い…。ここは…病院?どうしてあたしはこんなところにいるんだ…?)


ナツミ 「…。」



ナツミ、ゆっくりと体を起こす。

等間隔の白の空のベッド、そして麗らかな日差しが差し込み風によって優しく揺れるカーテン。



ナツミ (なんかここ知ってる…?いや、それよりもなんであたしはこんなところにいるんだ?)


ナツミ 「…。」


ナツミ (…うまく思い出せない。)



ナツミ、俯く。俯いたことによって髪がさらさらと垂れる。



ナツミ 「!?」


ナツミ (な、何!?この金髪!?)



ナツミ、勢いよく垂れてきた髪を掴む。



ナツミ (刺繍糸みたいに綺麗で、滑らかな触り心地…じゃなくて!どういうこと!?いつからあたしの髪はこんな金糸みたいな金髪になったのよ!?まさか事故かなんかのショック…?そんなまさか…。でも、染めてできるような美しさじゃないなこの色は。)



ナツミ、その髪を指で通す。軽く引っ張る。



ナツミ (抜けない。ウィッグやかつらではないな。それにあたしの髪より圧倒的に長い。立ったら腰丈超すんじゃないのか?…とてもショックな事故で数十年眠り、それによって髪は腰丈を超え、髪色は美しい金髪に…。さすがに無理がありすぎるな。どうなっているの…?)



ナツミ、ゆっくりと顔をあげ辺りを見回す。



ナツミ? 「え!?」



叫ぶナツミ、その視界の先には一つの姿見がベッドに腰掛ける少女を映し出していた。

金糸の様に輝く美しい金髪が特徴であり、自然の光を集め輝くエメラルドの瞳、陶器のように美しく滑らかな肌、整った目鼻、ドールのように美しく完成された少女がただ茫然と鏡から見つめ返していた。



ナツミ (嘘嘘嘘嘘!)



ナツミ、自身の顔中を触って確かめる。肌と肌が触れ合う温かい感触が手ずから伝わる。

ナツミのその行動に合わせるように鏡の中の少女も焦った様子で自身の顔を触りまくる。



ナツミ (この姿ってどこをどう見たって…)

クレア 「クレアちゃんじゃん…。」

ナツミ (!!)



ナツミ、ハッと口をふさぐ。今自身の口から紡がれた言葉は明らかに聞き馴染みのある音ではなかった。



クレア 「…。」

ナツミ (これ以上の情報はキャパオーバーだ。一旦考えるのを止めよう。)



ナツミ、一息つくとベッドから出ると鏡に近づき、そっと鏡に触れる。ガラスの冷たく無機質な感触が手から伝わってくる。



ナツミ (うわ、近くで見るとさらに顔がいいな。というか、画質がいい?…どの角度から見ても美少女。うわー、マジか、マジかマジか。自分が思い描いていた理想のクレアちゃんが鏡の向こう側に立っちゃってますよ~!?まじ、どういうことですか?これ。)



クレア 「あー。」



ナツミ (はい。優勝。この顔面の良さで声まで可愛いとか、神はどこまでクレアちゃんを優遇するんだ??いや、この子の苦労を考えるともっと優遇してくれても足りないわ。)



クレア 「…。」



鏡のクレア、優しく微笑む。


ナツミ (グハッ!?何という破壊力!!これは核兵器にも勝るとも劣らず攻撃力!!可愛いとはすなわち兵器にもなりうるのだな!!心臓が痛い!可愛い万歳!!)



クレア「…。」



ナツミ (…待って今クレアちゃんとんでもなくだらしない顔してなかった?いつもはこんな美少女じゃなかったから気にしていなかったけど、いや美少女のそういう一面も可愛い?ダメだ混乱してきた。美人の供給過多で脳がバグってきてる。…でもそっか、もし本当にあたしがクレアちゃんの体を動かしているのなら、もちろん表情だって…。)



クレア 「…。」



―バシン!



クレア「痛!?」



ドアの開く音。



ナツミ (しまった。つい出来心で変顔しようとしたらそんな顔するクレアちゃんが解釈違いすぎて思わず自分に手を出してしまった…。いやでも、自分で自分を殴るクレアちゃんも解釈違いだな…待ってあたし今、クレアちゃんを傷つけたの…?この手で…?え…?ちょっと頬赤くなってる…?うわ、最悪だ。自ら解釈違いを起こしまくったあげくに愛するオリキャラ(美少女)に手をあげてしまった。…死にたくなってきたな。)



?? 「お、やっと眠り姫のお目覚めか~。」



ベッド同士を分ける仕切りに手をかけ、男性がこちらを覗いている。



ナツミ (ん…?待ってその独特なセンスの服装とボリュームのある髪は…)



クレア 「リベラ先生…?」


リベラ 「だいせいか~い。おん、どうやら記憶や認識能力に大きな問題は無いようやんな。」


ナツミ (リベラ先生は『乖離の箱庭』の中で保健室の先生として登場するキャラクター。近未来的?っていうか、凡人には理解し難いというか、独特なファッションセンスとボリュームのあるヘアスタイルが特徴的なキャラ。まぁ、テンションや口調も見た目に負けず劣らずなんだけど…。)



リベラ、クレアに近づく。



リベラ 「あっ、さては寝ぼけてどこかぶつけたんしょ?チョ~ットこっち向いてて…。」



リベラ、左手をクレアのほんのり腫れた右頬にかざす。

リベラの左手から淡い光が発生し、クレアの先ほどまでの鈍い痛みが引く。



リベラ 「うん、これでオッケ。女の子の顔が腫れてるなんて大変やかんな~。次は寝ぼけてても気を付けるんよ?」

クレア 「はい…。」



リベラ、ニコっと微笑むとクレアの元から離れ、先ほど来た方向に戻る。



リベラ 「じゃ、無事目覚めたみたいだからオトモダチに伝えておくわ。ずっと心配してて授業もままならないって感じだったんだから、これで一安心やろな。多分、もう授業が終わるからすぐ駆けつけてくると思うで。」


クレア 「あ、ありがとうございます?」



リベラ、仕切りの向こうに歩いてゆく。

ドアの閉まる音。

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