四話準備

珠代は頭を悩ませていた。

「う〜ん、どれも悪くはないけど、これってものがないのよね。決め手にかける感じ。」


———もう極辛蕎麦でいいんじゃないかな?


冗談は置いておいて、妖達に好かれるのは甘めの味付けでかつ、食感が大事。悠久の時を生きる彼らは食に飽きている。そんな彼らを驚かせ満足してもらえる料理。


「カレー蕎麦とか混ぜ蕎麦は前からあるものね」

「あまり目新しくは無いかもですね。」

新しい…普段から食べ慣れていないもの?

「普段妖達は洋食とかは食べたりするの?」

「おおー!洋食!確かに我々は食べ慣れた和食のことが多い。蕎麦の洋食化は面白そうです!早速作ってみましょう!」

三郎は興奮して厨房に駆け込んで行ってしまった。

そして、試作と試食を繰り返し夜もふけた深夜になってようやく完成した。

「珠姫様、お陰様で今度の百鬼夜行で出すご馳走が完成しました!ありがとうございました!今日は遅いですからうちに泊まって行ってください。」

「完成したわね。良かったわ〜試作品食べ過ぎて動けなかったの。」

「それはまた無理をさせてしまったようで申し訳ない。今度お礼を弾ませてもらいますね!」

今日一日を振り返りながら、とても有意義だったと満足感でいっぱいになりながら眠る。




「おっはよー!」

悪戯心が湧いて目の前にいた男子に後ろから飛びついて挨拶をすると「うわっとと!」とたたらを踏んでこちらを睨む


彼は妖の中でも悪名高い大獄丸の孫にして地獄組の若頭をしている獄門ごくもん れんという。この人と妖が共存する街では妖が人に化けて溶け込んでいる。ただし、獄門 煉は半妖であるため、人であり妖でもある中間の存在である。

「おい珠姫、今度の百鬼夜行、少しきな臭い動きをする奴らがいる。気を付けておけ」


「え?何処の阿保が動いてるかわかる?宴でお痛する子はお説教しておきたいの」

「いや、今回は江戸と遠野の連中がいがみ合ってるみたいでな。百鬼夜行で衝突事故起こしそうでさ。江戸の連中は話し合いが通じるけど、遠野の連中実力主義だからな〜」

煉の目が遠くなってゆく。

「原因は何かしら?」


「珠姫様。正確には鬼神の鬼嫁」

……

…………え?

「は!?私⁉︎なにがどうなったら私があいつらに」


「鬼神の鬼嫁を横から掻っ攫いたい遠野連中に珠姫様親衛隊を自称する江戸妖怪がぶつかった。」


——はーい!ストーーーップ!!

何がどうなってるのよ?

江戸妖怪はまぁ、私達夫婦が助けた恩を返すっていつも助けてくれるけど、遠野のナマハゲ爺様達は孫娘って言ってくれてたじゃない。

て言うか、私珠姫から珠代に転生してるんだけど?鬼嫁から普通のJKにジョブチェンジしてますけど?


「自覚が足りませんねぇ」

あたふたと混乱している珠代に後ろからぼんと頭にバインダーを載せた男、夜鳴よるなき先生。

「常闇の鬼神とまで言われた神崎かんざき 宗一郎そういちろう様の奥方であり、紅の鬼神とまで恐れられた貴方を欲しないあやかしはいないでしょう。」

「夜鳴先生。でも、私に手を出したら旦那様がキレるわよ?」

「はっはっは!宗一郎様を怒らせたら隠世はともかく、現世は崩壊するだろうね。」

顔を青くした煉がおろおろしだした。

「ヤベェ、やべえよ。笑ってる場合じゃねぇ、あの鬼神ひとがキレたら誰も止められない。なんて爆弾を放り込んでくれてんだ!」

「落ち着きなさい。私が、ここ《現世》にいる限り旦那様は暴れられないわ」

せめてもの救いは百鬼夜行の会場は狭間はざまってところね。

まったく、手の焼けるあやかしたちね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る