勇者の狂気
俺はずっと前からあの子が好きだった。
小さい頃から隣にいて、それがずっと続いていくんだと思ってた。
あの子が隣に居てくれれば俺の想いなんて伝わらなくても良かった。
あの日までは。
あの男があの子と出会って世界の全てが変わった。
あの子は俺の側に居ることが少なくなっていった。
あの男を見つける度にあの子は俺の手をすり抜けていく。
俺といる時には見せないよなその笑顔だって、あの男に向けられる。
憎い
あんなに側にいたのに、まるでそんな過去なんてなかったみたいな。
そんな皆を苦しめる魔王なんてやめて、俺のところに帰ってきてよ。
俺が君を幸せにしてあげるからさ。
そんなこと言えずに日々を過ごしていた。
ニクイ
ニクイニクイ
ニクイニクイニクイニクイニクイニクイ!!!!
どうしてあの男が選ばれた。
あんなに無能なあいつが!
俺のほうがあの子のことだって知っている。皆から慕われている。
権力だけのあいつとは違う。
そうだ、あいつから権力すら奪ってやろう。
あいつの持つ全てを奪ってやる。壊してやる。
あいつの大切な国民も、彼女の心も。
俺の側に居てくれない彼女の心なんて俺には必要ないから。
俺は俺のために勇者になった。民衆を束ねて反逆した。魔王を倒した。
魔王の処刑日、俺はあいつに言ってやったのさ"お前の部下だった大臣たちは処刑しない"ってね
俺はこの国の王になるつもりはない。
滅びゆく国と心中するつもりはないからね。
あの時のあいつの絶望顔、面白かったなぁ。はは、だって信じてたものに裏切られたていう感じが凄く出ていたから。
あの男、"私が死ぬことは構わないのです。ですが彼女を、民を幸せに導いて下さい。彼らをくるしめないでください"って懇願してくるものだから笑っちゃったな。
誰が破壊対象を幸せにするかっての。
みんなみんな、俺の作った滅びのレールに乗っかってるだけなのにね。
俺はお前が嫌いだから反逆しただけだし、側にいてくれるあの子が好きだからお前の事が好きなあの子を壊したい。
心を壊すだけで済むなら、それで良いけど、殺すことだって躊躇わない。
何も喋らないそれはきっと鬱くしい。
これを愛と呼ばないなら俺は愛を知らないことになっちゃうな。
ペテンを働いた俺は正しい王を魔王と蔑んで勇者になった。
勇者になった俺は魔王を怒れる民衆の前で断罪した。
とっても愉しかったな。
民衆の中に見つけた幼馴染みの町娘に近づいて、結婚を申し込んだ。
俺の申し出に彼女に是しか言わさせないような空気が民衆にはあった。
なんてスバラシイハッピーエンド。
そこに相互間の愛はないのに。
俺だけが幸せ、とっても楽しい。
愚かすぎて嘲笑っちゃうな。
勇者は嘲笑う 杉崎心 @kokoroa__
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