第14話
この日を待ちわびていた。
この手で、岸本ダイスケを殺す――この時を。
眩いばかりの雷光を纏ったアツは、呆然と立ち尽くすダイスケをしかと見据える。
〝パンツァーデグランツ〟。
アツの持つ異能の名は、ウェンディの名付けである。この力を以て五年前から続く因縁に終止符を打つのだ。
アツは拳を握りしめた。きっと大丈夫。あの時よりもずっと強くなった。今度こそ、負けない。そう自分に言い聞かせて。
今こそ、復讐の時。
地を蹴り、ダイスケへと肉薄。十メートルほどあった彼我の距離を瞬く間に詰めて、アツは強く握った拳をダイスケの胸部目掛けて真っ直ぐ打ち込んだ。雷光の尾を引き、拳からは雷撃の破裂音が鳴り響く。
常人には決して捉えられぬ速度の拳撃は、しかしダイスケの脇腹を掠めて擦りぬけた。
正確に打ち込んだはずの拳が外れたことに、アツはまず驚愕した。ダイスケを目で追って、彼が無様に転倒しているのを見る。大雑把な動きで跳び起きた彼が意図的に回避したようには思えない。
息を荒くするダイスケを凝視する。その佇まいも、気配も、まるで素人。今の一撃をかわせる程の技量は窺えない。拳が外れたのは偶然の産物だろう。
が、たとえ偶然であろうとも必殺の意気で放った一撃を避けられたのは面白くない。今の岸本ダイスケに、自分が劣るなどありえないのだから。
次こそは。アツは再び拳を握り、雷光と共に一歩を踏み出す。今度はゆっくりと、一歩一歩確実に。
この歩みが、岸本ダイスケの死へのカウントダウンだ。
「お前は……何だ?」
搾りカスのような声がダイスケの喉から漏れた。
アツは何も答えず、ただ歩みを進める。
わずか十歩足らずで、アツはダイスケの眼前に立った。彼女から迸る雷光がダイスケの唖然とした顔を照らす。
「どうして俺を――」
岸本ダイスケは何も知らない。異能の存在も、アツとの因縁も、自分自身のことも。過去に何をしたのかさえも。
憐れにすら思えてくる。彼は自分が何者かも知ることなく、誰かも解らない女によって殺されるのだ。
「あの人を、返してもらうわ」
今度は逃さない。ダイスケに手を伸ばした――その刹那だった。
飛来する脅威を感じ取り、アツはその場から飛び退いた。四半秒前にアツの身体があった空間を、赤く閃く何かが通り過ぎた。それはダイスケの眼前を通過して離れた地面に着弾、固い土を抉る爆発を巻き起こす。
アツは舌打ちを漏らした。守護者の到着だ。
ラタトスクによって撹乱されていると思ったが、どうやらのんびりしすぎたようだ。向こうも無能というわけではないらしい。
暗い雑木林を抜けて現れたのは、漆黒のローブで覆われた異能者、スルトであった。
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