第11話

 ホームルームが終わり放課後がやってくると、賑やかな駅前へと繰り出す。

 商店街に入り、例のカフェが近付くにつれ、ダイスケは周囲を気にし始めた。あの少女は今日も現れるだろうか。彼女が何者なのかは見当もつかないが、あの姿、視線がダイスケの心に深く刻みついていることは否定できない。


「どうかしたかい?」


 辺りを眺め回していれば、ミコトが不審に思うのは当然だろう。


「商店街の店も大分様変わりしたよな」


 ダイスケは思いのままに言葉を口にする。本音の一部ではあった。


「確かに。ちょっと前までシャッター商店街とか問題になってたけど、ここはそんな兆しはないね」


 人通りは多く、建ち並ぶ店舗はどこも活気がある。この長く広いアーケードの商店街は、全国でも有数のものである。例のカフェはそんな商店街の一角にあり、今日は特に学校帰りの学生客で賑わっていた。

 店に入ると、ダイスケは店の外が見える席を選んだ。ミコトは対面だ。

 何の根拠もないが、例の少女が再び現れることを期待するダイスケ。少女が見えれば、すぐにでも席を立つつもりであった。


 結論から言えば、少女は姿を見せなかった。

 店に入る前から終始周囲を気にしていたダイスケだったが、それらしき影は見当たらない。席に着いてからはミコトと会話をしていても内容が頭に入ってこず、生返事を返していただけであった。


 そんなダイスケを咎める、あるいは案ずる言葉がミコトから放たれたが、ダイスケは期末試験が今から気懸かりだからと普段ならありえないような理由を述べた。

 ダイスケを気遣ってか、ミコトはそれ以上何も言わなかった。

 結局、その日は何事もなくお茶を飲んで帰宅しただけであった。

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