第4話

 ガラス張りの壁の奥。人混みの隙間からこちらを見据える影が一つ。

 長い黒髪。純白の長衣を纏った少女。 


 その姿はあまりにも鮮烈で、それ以外の目に入る存在のすべてが停滞し、色を失った。その少女だけに強制的にピントを合わせられたかのように。突如として静寂に包まれたダイスケの意識は、少女の視線に込められた強烈な感情に晒される。

 一つ。鼓動が一際大きく鳴った。全身の血が沸騰するかの如く。永らく、忘れていたであろう感覚だった。


「ダイスケ?」


 その声で、ダイスケの時は再び動き出した。


「どうかしたかい?」


 ふとミコトを見ると、怪訝そうな顔で首を傾げている。

 すぐに視線を戻すも、少女はすでに消えていた。


「いや」


 詰まっていた息を吐き出し、目頭を押さえる。


「なんでもない。少し疲れてるみたいだ」


「大丈夫? もう少しゆっくりしたら、帰ろうか?」


「いや、体調が悪いわけじゃないしな」


「そうかい? いくら若いといっても無理は禁物だよ」


「その言い方がすでに年寄り臭いぞ」


「はは、それは心外だなぁ」


 ミコトはやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。

 ダイスケは冷たい紅茶を一気に飲み干す。


 先程の出来事は一体なんだったのか。気のせいだと一蹴するにはあまりにも衝撃的すぎた。あの少女と面識はないはずだが、どこか見覚えがあるような気がしないこともない。

 彼女と目が合った時の感じたものは、人が持ち得る感情において最も強く、忌避すべき代物。


 即ち、殺意。

 殺しの覚悟であった。

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