第3話

「わかんね」


 ダイスケはぶっきらぼうな言葉でお茶を濁す。

 そんなダイスケの思いを、ミコトは違うことなく察する。生まれてこの方十五年来の幼馴染故に。

 間もなくやってきたアイスティーに口をつける。お冷やとはまた異なる冷たさに喉を鳴らすダイスケ。ミコトはアイスココアの上に盛られたホイップクリームを口に運んだ。


「こういうのもなんだか、いいもんだね。雰囲気があるっていうか」


 笑みを明るくしたミコトが言う。普段からあまり不機嫌な表情を見せないミコトだが、ここに来て特に機嫌がよさそうだった。


「まーな」


 インテリアや使われているグラス、メニューなどの小物、店員の制服。目に入るだけでも洒落たデザインのものばかりである。どことなくカップル客が多いようにも見える。


「なんだか、デートみたいじゃないかい?」


 うーん、とダイスケは唸る。デートみたい、ではなくあからさまにデートだろう。そもそも休日に男女二人で出掛ければその時点でデートと言えるのではないか。


「もしかしたらボク達も恋人同士に思われているのかな?」


 それこそ今更である。ダイスケとミコトは毎日登下校を共にし、クラスが違う年度でもわざわざ二人で昼食を取るほどの関係だ。中学高校の同級生で、二人が恋人同士ではないと知る生徒はほぼいないだろう。ミコトも満更ではなさそうであるし、逐一否定するのも面倒なので誤解はそのままにしている。


 実のところダイスケは誤解が真実になる日も近いと考えている。お互いに好意は隠していないし、どちらかが進展を望めば拒むことはないだろう。ただ、長い間幼馴染のままだったこともあり、今になって愛の告白というのも躊躇われるのも事実だ。そういう儀式を踏んだからといって、今の関係が劇的に変化するわけでもなし。何かきっかけがあればと思っている節もあるが、今まで特に機会には恵まれていないし、別に恵まれなくてもいいとも思っている。


 ぱっちりとした二重瞼の瞳が向けられ、ダイスケは口元を緩ませた。

 童女めいた白い肌も、それに不釣り合いな大人びた表情も、実に可憐で愛らしい。雑誌の表紙を飾っていても何ら不思議ではない。なにより、同学年で最も小さな体躯に実った大きな二つの果実は、健全な男子高校生であるダイスケにとって十二分に魅力的であった。

 そんなミコトが、ダイスケの緩んだ口元を見て、微笑みを笑面に変える。大人びた笑みではなく、青空に浮かぶお日様のような少女の笑みだった。

 狙っているのかそうでないのか。不意打ちの破顔にダイスケは思わず目を逸らす。想い人の普段見せない表情は、それだけで動揺に値する。ミコトに視線を戻すのも躊躇われ、何の気になしに入口の方に目をやる。


 その瞬間、ダイスケの中で時が止まった。

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