第2話

 だが今は行き先の方が重要だ。せっかくの休日を散歩で潰してしまうのは忍びない。


「カラオケか、ネカフェか、ゲーセンか。大穴でボーリング」


 思いつく限りの場所を挙げてみる。


「変わり映えのしない」


「うるせー、文句言わないんだろ」


「もちろん。ボクはダイスケといられるだけで嬉しいからね」


「遠距離の彼女かよ」


 無愛想に言うダイスケに、ミコトは機嫌の良い笑いを漏らした。

 いくつか行き先の候補を挙げてみたもののどうにも気が進まないダイスケは、足休めと日除けの意味も込めて、なんとなく目に留まったカフェに入った。

 人混みから離れたせいか、席に着くとどっと力が抜けた。店内の冷えた空気が心地よい。ダイスケの口から思わず吐息が漏れる。


「少し疲れたね」


 ミコトは店員の持ってきた水を一口舐めて、メニューに目を落とす。


「ダイスケがこういった場所を選ぶなんて、珍しいこともあるじゃないか」


「たまには気分転換も必要ってこった」


 主に経済的な理由でファストフード店かファミリーレストランで食を済ますことの多いダイスケにとって、小洒落たカフェは珍しいどころか初の試みである。ダイスケ自身、こんな場所は自分には似合わないと思っていたが、存外落ち着くものだ。

 注文を済ませてから、ダイスケも水を啜った。


「ここの制服、かわいいと思わないかい? ほら」


 ミコトの目線の先には、先程の店員、二人と同じ歳ほどの少女がいた。過多にならない程度にあしらわれたフリルのエプロンドレス。ブラウンを基調としたその制服はどことなく西洋の給仕を思わせる。

 ダイスケにとっても好印象であることに違いないが、気恥ずかしさからダイスケははっきりとは口にしない。


「いいんじゃないか。ここでバイトでもすればお前も着れるぞ」


「うちの高校、バイト禁止だからねぇ」


 ダイスケの内心などお見通しと言わんばかりのミコト。


「ボクが着たら、似合うと思う?」


「んなこと聞いてどうすんだ」


「本当に働くかどうかの参考にする」


 本気か冗談か。ミコトの変わらない表情から察するのは難しいが、付き合いの長いダイスケにはこれが冗談めかした本気だと解る。

 ここでダイスケが似合うと言えば迷うことなくバイトを始めるだろうし、似合わないと言えば始めないだろう。高校がバイト禁止云々に関係なく、ダイスケの一存に懸かっている。


 ミコトのウェイトレス姿を見てみたい気もする。ミコトならば、今いる店員の誰よりも似合うことは容易に想像できる。が、それだけのためにリスクを背負わせるわけにはいかない。

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