最終話 ウェディングドレスは、誰が着る?
到着したのは、闘技場のような場所である。魔物たちが観客席にいて、ホルストに罵声を浴びせている。
「よく来た勇者よ。商品まで携えてくるとは殊勝なことよ」
全身を黒いヨロイで高めたマントの魔族が、ホルストと相対していた。あれがモロクか。
「サヴはモノじゃない。お前などに渡すものか」
「マンモンの術に踊らされていたが、余はヤツを本当に気に入った。【女にする魔法】をかけて、余が一生愛してやろう。隣にいるエルフもドワーフもだ!」
モロクが、指を折り始める。ボクに産ませる子どもの数だと言った。
「もうサヴは、愛する人を見つけた。お前のような輩には渡さん!」
「愛とは、奪うものだ!」
両者が同時に剣を抜く。
お互いが切りかかり、勝負は一瞬でついた。
「見事なり」
ドサッと、モロクが倒れる。
魔王が破れたことにより、魔族たちが一斉に逃げ出す。次は自分が、勇者の刃に切り裂かれる番かも知れないからだ。
「なぜ、トドメを刺さぬ?」
モロクが、ムクリと半身を起こす。反撃できない程度に、ホルストはモロクに対して手加減をしたようだった。
「お前がいなければ、またマンモンのようなヤツが出てくるかもしれん。見張っておけ」
肘を落とし、モロクはまた仰向けに倒れこむ。「フハハハーッ!」と、バカみたいに笑い出した。
「それでこそ、我がライバルよ! よかろう、人間世界からは手を引いてやる!」
モロクが、高笑いをしながら消えていく。
闘技場さえ姿を消し、辺りはただの山道となった。
「今までの景色は?」
「次元移動だ。我々は、モロクのテリトリーから地上へ戻された」
腕を組みながら、ベネットさんが解説する。
「つまり、全員帰ってこられたってことだな」
「うむ」
「ブレスをぶっ放さくて済んでよかったぜ」
騎銃を担ぎながら、ルティアがホッとした。
「あれ、ホルストは!?」
この場に、ホルストだけがいない。
「俺の妹に会いに帰ったよ。今頃は、ファウルハーバーだろうね」
スッキリした顔で、オイゲンさんは空を見上げる。オイゲンさんが移動の魔法で、ホルストを転送したという。
「どういうこと? ホルストは、エイダ姫のことが好きじゃないんでしょ?」
「ホルストの呪いは、解けていた」
事情がわかっていないボクに、キュアノが教えてくれた。
「あなたは、ホルストに試されていた。あんなことをすれば、きっとあなたはホルストを嫌うだろうと」
あれだけ迷惑をかけたから、ホルストはボクに嫌われたと思ったらしい。ならばいっそ嫌われたままでいようと。たとえ、婚約破棄になろうとも。
しかし、ボクはホルストを友だちだと思っている。迷惑だなんて思っていない。
「だからあの人は、安心してこの場を去った」
本来愛すべき人の元へ、帰っていったという。エイダ姫のいる、ファウルハーバーへ。
「バッカみたい。素直じゃないんだから」
「まったくだ。こっちはとっくに見抜いていたというのに」
カミラとオイゲンさんの意見が一致した。
「みんな知っていたんですね?」
「あたしもわかったよ。わかりやすすぎるくらいに」
ルティアたちでさえ、気がついていたらしい。知らなかったのは、ボクだけか。
「我々も帰ろう。送るよ」
オイゲンさんの魔法で、ボクたちも故郷へ向かう。
◇ ◇ ◇
あれから数日後、ボクとキュアノは結婚式を上げた。
ホルストたち夫妻との、ダブル結婚式である。ホルストは先に王宮で式を挙げていたので、二度目だ。
ウェディングドレス姿のキュアノは、すごくキレイだった。雪の精霊のようで、なんだかドキドキする。
「この世界を救ってくださってありがとうございます、サヴ様。わたくしは、あなたを誤解していましたわ。お許しを」
「頭を上げてください、エイダ姫様! 全部ホルストの功績なんですから!」
ボクの活躍なんて、たいしたことないよ。
「このカレー漬けのチキン、うめえ!」
「おかわりいっぱいあるから、どんどん食べてちょうだい!」
ルティアとカミラは、色気より食い気という感じだ。料理に夢中になっている。
「ああ、サミュエルちゃんキレイよ! こっちむいてブワハア!」
父なんて何度も化粧が落ちて、一人お色直しを三〇回くらいしていた。
「撮影係なんだから、しっかりしてよ……」
「だって、息子の晴れ姿なのよ! これが泣かないわけ」
母の遺影を持ちながら、カメラを構える。
式の途中、モロクから手紙が来た。お祝いの言葉と、計画についてだ。モロクは、本当にボクを女の子にするつもりだったらしい。キュアノに飽きたら嫁に来いとまで書いてあった。いやいやありえないからね!
「まったく、油断もスキもないね。さすが魔王だよ」
ボクがとどめを刺したほうが、よかったかも知れない。
「サヴ、女の子になるのも悪くない」
急に何を言い出すんだよ、ボクのお嫁さんは?
「ボクが女の子になったほうがよかったの?」
「違う。あなたが女になったときも、私は愛することができる」
肩を寄り添い、キュアノが耳元でささやいてくる。
「どういうこと?」
「私は両性。どっちでも、子孫を残せる」
それで、お風呂のときも冷静だったのか。
「お色直しで、ウェディングドレスを着る?」
「結構です!」
「じゃあ、二人きりのときに見せて」
「それはまあ……式の後で」
(おしまい)
「好きだから追放する」と、同性の勇者から言われました。ボクは全力で逃げます! 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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