オークロード

 ボクたちは、ロバルト山へのギルドにたどり着く。


「ホルストを見ませんでしたか?」

「ああ、さっき出ていかれましたよ」


 受付さんが、ペコペコと頭を下げた。


 え、入れ違い!?


「書簡が届いていたはずです!」

「ああ。こちらですね」


 受付の手には、エチスン卿が偽物であると告げる書簡が。


「もしかして、ホルストは読んでいない?」

「はい。おまけに、まずいことがありまして」

 またしても、受付さんが頭を何度も下げる。

「どうかしたんですか?」

「そのホルスト様をお連れしたのが、エチスン卿なのです……」


 大変だ。ホルストは、エチスンが偽物だって気づいていない。


「申し訳ありません。我々の手違いで、郵便が届かずに」

「いえ。あなたのせいじゃありませんよ」


 おそらく、マンモンに先手を撃たれた。下手に死人を出すと、騒ぎになって自分の周辺を嗅ぎ回られる。だから、郵便を遅らせる程度にしたんだ。自分の正体を知られる前に、勇者を仕留めればいい。


「あーもう。ボクがそばにいれば、こんなことにはならないのに!」


 ボクは頭を抱えた。やはり、近くにいるべきだったんだ。


「そんなに、頼りない男なのか?」


 ルティアが尋ねてくる。


「肝心なところが抜けている男だからね」


 たとえ真相を暴けたとしても、うまく丸め込まれてしまうだろう。


『なんだか、幼なじみのサヴさんが言うと、説得力がハンパないのです』 


 相手のウラをかけるような、したたかな人物がそばにいてくれたら。


「とにかく、急ごうぜ。幸い、ヤロウの居所はわかっているんだ。勇者と組んで、一網打尽にしてやろうじゃねえか」


 そううまくいけば、いいけれど。


「大丈夫。きっと間に合う」


 ホルストを心配するボクを、キュアノが励ます。


「うん。間に合わせるんだ!」




 ロバルト山にある、エチスン卿の別荘へと急ぐ。道はあらかじめ、卿から聞いている。人の家を私物化するなんて、図々しい魔族だ。


「こっちが近道だって!」


 罠を張っているなら、裏手から回ったほうがいいだろうとのこと。 


『バルログ族だらけなのです!』


 別荘のあたり一面を、バルログ族が囲んでいた。やっぱり、ボクの村に現れたバルログの部隊は、マンモンの差し金だったのか。襲撃のつもりだったのだろう。たとえ失敗しても、不要な兵隊を排除できる。


「敵の数を減らそう」


 バルログ族は驚異ではないとはいえ、この数だ。少しでも減らしてあげたい。


「ならば、さっそく!」

『やっちまうのです!』


 ノリノリのルティアが身構えて、騎銃からブレスを放った。


 バルログの半数以上が、灰となる。後ろを取られ、完全に不意をついたベストな形だ。

 エチスン卿のアドバイスが、功を奏している。ボクたちは先手を打つことができた。


「このまま一気に……なあ!?」


 だが、別荘に現れたのはバルログだけではない。ヒドラにキメラ、空からはグリフォンやガーゴイルまで。最終決戦にふさわしい、総力戦となった。


 キュアノが光の剣でヒドラを一閃し、ボクが手裏剣でキメラの首をはねる。


「壮観だな! ラスボス戦が近い、って感じがするぜ!」


 騎銃から雷の矢を連続で放ちながら、ルティアがゲラゲラ笑っていた。グリフォンを射的のように撃ち落としていく。


『のん気に状況を楽しんでいる場合じゃないのです! トリガーハッピーとはあなたのことですよ!』

「けどよ、今のうちに突破口を開いておかねえと!」


 不意に、ルティアの手が止まる。


「どうしたの?」

「まだ、アタシらを囲んでいるヤツらがいる!」


 大量のオークたちが、ボクたちを取り囲む。


「やべえ、囲まれた!」

『逃げ場所がないのです!』 


 ルティアが身構える。


「待って。彼は」


 ボクが言う前に、すべては終わっていた。


「放て」


 オーク射撃部隊が、魔物の軍勢へ向けて一斉に魔法弾を放つ。


「ぎゃあああ!」


 数秒もしないうちに、バルログの陣形が崩壊した。


「突撃!」


 別荘へと、オークたちが突進していく。


 生き残りのバルログも体制を立て直し、応戦を始めた。


「なんだ、仲間割れを起こしているぜ」

「彼は、『もう』敵じゃない」


 キュアノが、確信をもってルティアに告げる。


「もう?」


 ルティアは、何を言われているかわからないといった表情をする。


『後ろです。ルティア!』


 呆然としていたルティアの背後に、バルログの影が。


 その頭を、鋼鉄の拳が撃ち抜く。


 顔がなくなったバルログが、生命力を失って炭化した。


「うわっ、すまねえ」

「無事で何よりだ」


 拳を放ったオークが、ボクを見つける。 


「おおサヴ殿、久しいな!」


 オークの紳士が、ボクに声をかけてきた。


「ベネットさん。お久しぶりです」

「加勢が必要か、と思ってね?」

「よくここがわかりましたね」

「ここは我の庭である。安心なさい」


 腕を組みながら、オークの紳士は戦況を見極める。


「バルログといえど、これだけの数のオークを相手するのは骨が折れる。我々も、精鋭ばかりだからな!」

「あんたは?」


「我はベネディクト。魔王モロクの忠実なるしもべ、オークロードである。ベネットと呼んでくれたまえ」

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