魔神 アリオッチ

 ルティアから問いかけられ、紳士ベネットは答える。

 オークたちががんばってくれているおかげで、話す余裕もできた。


「ベネットさん、ありがとう」

「礼は無用だ、サヴ殿。これは我が魔王モロクの指示である」

「魔王の?」


 ベネットさんは、モロクの近衛兵だ。ボクとも一戦交えたこともある。


「じゃあ、お前さんが戦ったっていうオークロードってのが?」

「そのとおり、ベネットさんだよ」


 ボクが紹介すると、ベネットさんが鼻息を荒くした。


『体格差が、三倍近くもあるのです! でもサヴさんが勝つなんて』

「あんたは、アタシたちを助けに来てくれたのか?」

「貴君も、サヴ殿に首四の字をかけてもらうとよい。人生観が変わるぞ」


 ルティアは、ベネットさんを冷めた視線で見つめる。


「とにかくベネットさん。魔王モロクが、あなたをこの地に派遣したと言っていましたが?」

「うむ。近々、マンモンによるクーデターがあると報告があった。聞けば貴公らが、邪竜を打倒したというではないか」


 ボクらの行動を、魔王は把握していたのか。


「我々オークの情報網を、見くびらんでいただきたい。これでも我が軍は、魔王直属の近衛部隊なり。今は、個人的感情で動いておるが」

「どうして、ボクたちの敵である魔王モロクが、ボクたちを助けるんです?」


 ボクたちは人間の自由を守るため、争っている。

 

 そんなモロクが、勇者に加担するとは考えにくい。

 

 油断させて、ボクたちを一気に倒す可能性がある。

 もしかして、助けたつもりはない? 単に、共通の敵と言うだけか?


「マンモンの目的は、最初からサヴ殿だった」

「えっ、ボク?」


 なんで、ボクだったんだ?


 ボクはただのニンジャである。

 相手をするメリットなんて、勇者の一〇〇分の一もないだろう。


「やつは、魔王と貴公を結婚させるつもりだったのだ!」

「はあ!?」


 ベネットさんがいうにはこうだ。


 マンモンはモロクを男の娘好きに仕立て上げる手はずだったという。

 魔王といえど、男の娘を妊娠させることはできない。

 世継ぎが生まれない以上、必然的にマンモンが次期魔王として君臨できる、と。


「それが、ヤツの筋書きだった。勇者が貴公に惚れてしまったのも、作戦のウチだったのだ」


 勇者とモロクを、世界征服そっちのけでボクの取り合いさせて、共倒れを狙ったという。


 地味で確実性はないが、ボクにぞっこんなホルストにとっては効果的だった。


「それじゃあ、アナンターシャをそそのかしたのも?」

「モロク打倒後の疲弊した勇者にぶつける算段だったらしい」


 つまり、ボクたちは知らず知らずのうちに、マンモンの張った布石を次々と妨害しちゃっていたのか。


「そうなるな。まったく、サヴ殿のカンの鋭さは天井知らずだな!」


 たまたまだし。褒められても別にうれしくない。 

 結果論でしかないんだから。


「で、怒ったモロクが、マンモンを殺そうと」

「そうなる。今頃マンモンは、貴族の姿を借りて逃げおおせようとしている。打倒するなら、今しかない」


 それで、総攻撃を仕掛けたと。


「ともかくサヴ殿、マンモンを逃がすわけにはいかん。全力で仕留めるぞ!」

「わかった」


 やられそうになっているオークたちに加勢して、バルログたちの数を減らす。


「うそ、なにあれ?」


 地震とともに、山が動き出した。いや違う。あれは山ではない。

 巨大な魔神だ。火炎をまといし太った魔神が、両手を天にかざした。


「あ奴は最上位の魔族、アリオッチ! ぬう、我々ごと、この山一帯を灰にする気だ」


 アリオッチといえば、魔王の次に強いとされている部類の魔族だ。性質は、邪竜に近い。


 オークを集結させ、ベネットさんはアリオッチに挑もうとする。


 しかし、アリオッチのブレスは強力だ。あれだけ優勢だったオーク部隊が、撤退を余儀なくされている。犠牲者は出ていないが、近づくこともできない。


 アリオッチがブレス第二波を放とうとしている。


「やらせない!」


 キュアノが、アリオッチの稼働を止めようと、飛びかかった。光の剣で、アリオッチの眉間へと斬りかかる。



 閃光の剣は、アリオッチを捉えこそした。

 だが、霧散してしまう。



 キュアノに向けて、アリオッチが指を立てた。


「危ない、キュアノ!」


 ボクも同時に飛び、キュアノをかばう。


 炎の渦がアリオッチの指から巻き起こる。


「わああああ!」


 ボクとキュアノが、炎の渦に飲まれそうになった。


「こちらへ分銅を!」

「はい、ベネットさん!」


 声のする方角へ、分銅を投げつける。


 ベネットさんが分銅を掴み、ボクたちを引っ張ってくれた。


「ありがとう!」

「なんの! また来るぞ!」


 オークロード・ベネットさんが、ボクたち二人の盾になる。



 唯一、アリオッチの攻撃モーションで、怯まない女性がひとり。ルティアだった。



「そうこなくっちゃ。アタシも、ひと暴れしてやんぜ!」


『今こそ合体のときなのです。行くのです、ルティア!』


 シュータがパーツに変形し、ルティアが構える。騎銃はシュータを取り込んで、より長大な砲台へと進化した。


「くらえ魔神! ハイパー・バスター・ストーム!」



 パワーアップした騎銃を構え、ルティアが威力を増した電流ブレスを放つ。

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