さらばヨートゥンヴァイン
数日もしないうちに、ミニヨロイが完成した。見た目はフルプレートメイルで、頭が玉ねぎみたいな兜になっている。
「素顔は、美少年なんだけれどな」
『ぜいたくは言えないのです』
太っているのは、構造上仕方がない。
「さあシュータ、入って」
ボクは、お腹の辺りにシュータをしまう。
『ピッタリなのです!』
シュータは、動いてみせた。想像以上に軽そうだ。
「キュアノ、小さいファイアーボールを、シュータに撃ってみて」
続いて、耐久度テストである。
「こう?」
キュアノが、小さな火球を指から放った。
鍋のフタのようなシールドを、シュータが構える。
盾が見事、火球を弾いた。
『おお、これならヤケドにも耐えられそうなのです! ありがとうですサヴさんキュアノさん!』
よきかなよきかな。
「他にも機能が備わっているが、詳しくは実戦で試してみてくれ」
「ありがとうございます」
ドワーフさんにお礼を言って、ギルドへ向かう。
ギルドからも、報告が入っていた。調べた結果、出てきたデータはエチスン卿との会話内容だったらしい。
「ロバルト山か。魔王城のある場所じゃないか」
ホルストの、最終目的地だ。
「すると、偽のエチスンはマンモンという魔族の可能性も?」
ありえるかもしれない。
「しかも、ロバルト山はエチスン卿の別荘がある」
「隠れるにはもってこいだね」
「サヴは行くの? こんな危険な目に遭っているのに」
「もちろんだ。ゲーアノートの暗躍でわかった。魔王を倒したくらいで、平和なんか来たりしないんだって」
むしろ、魔王の軍勢を蹴散らしたのに敵は強くなっていた。
「おそらく、魔王の配下か誰かが、魔王をホルストが倒す前提で動いている」
「それが、マンモン?」
ボクは首を振る。
「わからない」
しかし、目的地は決まった。
「このまま行くと、ホルストと鉢合わせになる」
「そうだね」
元々、ホルストから逃げるために、この旅は始まっている。
それが、ホルストの背後を襲われないように進むことになるなんて。
わからないものだな。
「ボクたちらしくて、いいじゃん。結局は魔王を倒しに行くんだから」
どうせ、目的は同じだったんだ。ルートが違うだけで。
馬車の予約を入れに、ボクらは門の前にある駅舎へ。
「じゃあ、お別れだね」
ルティアは、サマター海域復興という役割がある。引き止めるわけにはいかない。
「それなんだがよお」
なぜか、ルティアとシュータが示し合わせる。
「魔王退治に、アタシらもついて行ってもいいか?」
意外な提案を、ルティアはしてきた。
「お前らこの先、もっと強い魔族を相手にするんだろ? 手数は多いほうがいいぜ」
『ぼくたち術者二人がいれば、火力も回復も申し分ないかと』
シュータも、戦力に加わるという。
確かに、二人がいれば大変心強い。
魔法使いがいるといないとでは、大違いだ。
キュアノも魔法が使えるが、剣術も兼任する。頼ってばかりはいられなかった。
「街はどうするの?」
「いいんだ。ダンセイニさんを信じるよ」
王族のルティアたちより、民間人に近い感性を持つ貴族が先導のほうがいいだろう。それも、ダンセイニ卿のような。
と、シュータは語った。
『ぼくたち王家が前に出るより、国民主導の方がきっと復興も早いのです。心配なら、ヨートゥンヴァイン王家もいるです』
人間族とドレイク族は、手を取り合っている。もう、ドレイクの王族が出張る必要もない。
「それに、アタシもそのマンモンとかいうヤロウをブチのめしたい。そいつさえ懲らしめたら、ヨートゥンヴァインの驚異もなくなる気がするんだ」
やる気満々に、ルティアは語る。
「二人がいいなら、私は構わない」
キュアノも、反対しなかった。
「じゃあ、協力してくれる?」
「任せろ!」
旅立ちの日を迎える。
「ダンセイニ卿、滞在中は色々とありがとうございました」
ボクは、卿と握手を交わす。
「あなたがドレイクと共同開発したこのパラソル型のシールドは、大切に使う」
ボクとキュアノがお礼を言うと、ダンセイニ卿は首を振る。
「とんでもない。街を救ってくださったのに、そんなことしかできないなんて」
「シュータの身体を作る費用まで、出してくださったじゃないですか」
ミニヨロイは全額、ダンセイニ卿のお金で手に入れられた。
『ダンセイニ卿のおかげで、ぼくは肉体を得られたのです。感謝です』
「いえいえ。こんなことしかできず」
今後も、卿は街を守るために死力を尽くすという。
「街のみんなも働き口ができて、安心ですね」
「はい。これで、街にも活気が戻るでしょう。もう我々も、悪党に屈しませんぞ」
頼もしい言葉を聞いて、ボクも安心した。
もう、魔物の気配もない。離れても大丈夫だろう。
「友との再会が、よい結果にならんことを」
「ありがとうございます、卿。では、お元気で」
ボクらはダンセイン卿に見送られながら、ヨートゥンヴァインを経つ。
新しい仲間とともに、ボクらはラストダジョンへ向かった。
まさか、最後の戦いにホルストを追うことになるなんて。
しかし、ホルストに危機を伝えなくちゃいけない。
ホルストと顔を合わせるのは怖いけれど、行かなければ。
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