シュータ新生へ
王様に呼ばれて、ボクたちも保護された貴族と対面することに。ダンセイニ卿しか呼ばれていないのだが、卿が「警護のため」とボクたちも入れてくれた。
邪神を召喚するのに、メリットはあっただろう。
けれど、彼は私利私欲のために動いているだけ。
ドラゴンや邪神ほどの強力な存在が、ただの人間に手を貸すとも考えにくい。人間をどうにかする範囲でしか動いていなかった。
「エチスン卿が偽物だとすると、もっと強力なバックがいる気がする」
イヤな考えが、ボクの中によぎった。
魔王軍の中に、裏切り者が?
ボクは、王城の執務室で、男性と対面する。
話に聞いていた人物像に対して、穏やかな雰囲気を感じた。怪しい人だとは思えない。暴れたり妙な動きもしないので、手錠などもしていなかった。
「あなたの名前は?」
ボクは、貴族に声をかける。
「エチスンです。ヨートゥンヴァインの領地を、ダンセイニ伯爵と守ろうとしていました」
たしかに、ボクが写真で見た人物と同じ容姿だ。しかし、まるまると太っていたらしい肉体は見る影もない。頬がコケて、全体的にゲッソリとしている。
「ですが、あなたは街を破壊しようとした。利権をふるい、街を食い物にした」
「それはワタシじゃない!」
唇を噛み締めながら、本物のエチスン卿がテーブルを両腕で叩く。
「ワタシはずっとあそこに幽閉されていたんだ! 今、エチスンを名乗っているのは偽物です!」
「あなたの悔しさはわかります。経緯を話してください」
ダンセイニ卿が、エチスンさんを落ち着かせた。
エチスン卿によると、ゲーアノートと接触した直後、眠らされたらしい。気がつくと、座敷牢に入れられていたという。他の村人からは隔離され、孤独に閉じ込められていたらしい。
「あのとき、アタシが宮殿を壊さなかったら、一生出てこられないところだったのか」
ルティアでも、エチスン卿の監禁場所を見つけ出せなかった。
「どうして、あなたは生きていられたので?」
「彼が変装するには、ワタシの生体反応が必要でした。ワタシが死ぬと、変身能力が使えないのだとか」
正確な変装をするには制約も厳しい、とその魔族は言っていたらしい。
「何者です。その相手とは?」
「たしか、【マンモン】と名乗っていました」
ボクは、頭の中でその名を反芻する。
マンモンとは……ボクやホルストが倒そうとしている魔王【モロック】の配下だ。といっても、対立しているらしいけれど。
自分のしたことを後悔しているのだろう。エチスンさんは頭を抱える。
「申し訳ありません! 保身のために、ワタシは悪党に協力を!」
「あなたは脅されていた。このダンセイニも同じ目に遭わされていたら、どうなっていたか」
エチスン卿は、貴族の地位を国に返上するという。屋敷の金も、街のために使ってくれと。
本当は、紳士なのだろう。
「偽物の居場所はわかりますか? 情報があるはずですが」
「いえ。お役に立てませんで」
首を振りながら、エチスン卿は申し訳なさそうに告げる。
とにかく、本物を救えてよかった。
「偽エチスン卿の居場所は、結局わからずじまいか」
護衛は情報を知らされていないだろう。
「問題ない」
キュアノは、ゲーアノートが持っていた宝石の一つを手に持っていた。
「ここにデータがある。ギルドに頼んで照合すればいい」
ボクたちは冒険者ギルドに趣き、ゲーアノートのデータを調査をしてもらう。
「キュアノ、ひょっとしてゲーアノートを殴ったのは?」
「情報を、手に入れるため」
ただ怒りに任せて、ブン殴ったわけじゃなかった。記憶・記録媒体が体内のどこかに必ずあるはずだと、目星をつけていたのである。
さすがキュアノだ。
『でも、どうやって判断したのです』
「そこは適当」
とりあえず、頭部のあたりじゃないかなーと、考えていたらしい。この辺はやはりキュアノである。
「でも、これさえあれば、エチスン卿、じゃなかった。マンモンが全部の黒幕だって証明できるね!」
ギルドによると、分析は数日かかるという。
あとはギルドの報告を待つばかり。
「考え過ぎはよくない。余計な情報まで頭に入ってきて、悩まなくてもいいことで悩んでしまう」
「それもそうだね。ギルドに全部おまかせしよう」
たしか、気になっていたことがあったんだっけ。
「ちょっと待って。ダンセイニ卿、何か、小さくて丈夫なものはありませんか?」
「缶詰に使う金属くらいしか、ございませんぞ。それでよかったら」
「それだ!」
ボクは、缶詰の材料となる鉄をもらって、ダンセイニ卿から鍛冶屋さんを紹介してもらう。ドワーフの鍛冶屋さんだ。
「ほお、ヘルマのお知り合いかね? どういったご用件で?」
ヘルマさんの名前を出すと、ドワーフの防具屋さんは急なお願いにも対処してくれた。
「すいません、ミニチュアサイズの全身ヨロイを作ってくれませんか?」
ボクは、イメージイラストを防具屋さんに見せる。
ヨロイの大きさは、成人男性の上腕くらいだ。これなら、ルティアの肩に乗ることだって可能である。
お腹の部分が太っているように描いているのは、そこにシュータを搭載するため。
「おう、お安い御用さ」
後はドワーフさんにおまかせだ。
お屋敷に戻る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます