第五章 男の娘ニンジャ、魔王に求婚される!?

事後

 翌日、ボクたちはダンセイニ卿で報告を待つ。


 朝食を食べながら、卿が王国から届いた書状の封を開けた。


「ルティア殿……えっと、エルネスティーヌ王女とお呼びすれば?」


 首を振って、「いつもの呼び名で」とルティアは言う。


「ではルティア嬢。今回の件、全面的にアナンターシャの仕業と見なされました。海賊たちも壊滅。よって、あなたの行いはお咎めなしと、国王から報告です」


 ボクらは、胸をなでおろす。


 そりゃあそうだ。死ぬ思いで、あの邪竜をやっつけたんだから。


「あいつは、邪悪さに振り切れていなければ、ドレイクをまとめられていただろう」


 彼女を悪の道に走らせたのは、おそらくゲーアノートだ。彼の邪悪さは、誇り高き竜族にさえつけ込むことさえ、造作もない。そうやって、多くの街や国が争いによって崩壊した。


 そんな驚異は、もういない。


「残った竜族で、この街を立て直すそうです。生き残りは少ないですが、ゼロではありません。きっと立て直せます」


 邪神の宮殿は、今度こそ破壊された。もう邪悪な影に怯えることもないだろう、と。エチスン卿にも、手配書が回っている。彼の権利は剥奪され、今後は自由にできない。

 ゲーアノートも、彼の手の者だったと知れ渡った。


「で、ゲーアノートの残骸は?」

「うん。ギルドに頼んで、ホルストたちの居所に近いギルドへ配送してもらった」


「もう安心だよ」っていう、ボクからのメッセージである。


 これで、本当にゲーアノートの驚異は去ったのだ。


「街も、ようやく活気を取り戻しました。何もかも、サヴさん方のおかげです」


 瞳をうるませながら、ダンセイニ卿がボクたちに頭を下げた。


「いえいえ、ボクががんばれたのは、みんなのおかげですよ。ボクはお手伝いをしてまでで」

「しかし、サヴさんの健闘がなければ、この街は死んだまま生かされていたことでしょう」


 それだけ、この街はエチスン卿という病巣に侵食されていたのだ。


 ルティアが、ボクの肩に手を置く。


「アタシからも、感謝を言わせてくれ。街を救ってくれて、本当にありがとう」


『よかったのです! お二方には、感謝の言葉しかありませんです!』


 シュータも、点滅しながらボクたちをたたえてくれた。


「本当にがんばったのは、二人だよ。最後まであきらめないで、街を救ったんだ」


 ボクにとっては、ルティアたちこそ功労者だと思っている。


「街がもとに戻るといいね」

「ああ。けれど、シュータは……」


 助からなかったのが、ただ一人だけ。シュータの肉体まで、海に沈んでしまった。


『いいのです。むしろ、なかった方がよかったのです。これからもずっと一緒なのです』

「だけど!」

『ルティア、ぼくは平気なのです。この姿だって、ルティアのお役に立てるのです。ぼくに身体があったら、もう少しルティアのお手伝いができるですが……』


 強がりには、聞こえない。しかし、どこか物悲しい空気が漂う。


 ボクは、シュータに質問をしてみる。


「体を作ったら、自分でも動かせそう?」

『生前の感覚は残っているので、おそらく大丈夫なのです』

 今までは生存を隠していたため、満足に動けなかったんだとか。

「ねえ、身体の代わりになりそうなもの、ないかな……その、ゲーアノートみたいに」


 また、イヤなやつを思い出すことになったけれど、そのとおりである。


 ヒモ付きの宝玉のままでは、少し味気ないし動きづらい。動かせる肉体があれば、ルティアも違和感なくお話できるかなって。


「じゃあ、ゴーレムを見繕う」


 そんなゴツい見た目は必要ないよ。


「オートマタにするにも、女性用しかない」

「言われてみれば、オートマタって元々女性型しかないよね?」


 確かに、シュータまで男の娘にしちゃうのは気が引けるな。


「シュータは、どんな感じがいい?」

「ルティアといつでも側にいられるような感じが、いいです」


 では、見た目と性格の差を埋めるか。


「生前は、前衛タイプだったの? それとも、後方支援?」

『補助役だったのです。あまり前に出るスタイルではなかったような』


 はい、ゴーレム却下だね。

 

 全身甲冑に埋め込んで、人間同様に動き回るという手も考えた。

 けれど、魔力消費量まで考えるとムリだろう。

 あの雷撃は、シュータを動力源としている。そっちにリソースを割さなければならない。

 だとしたら、少しでも小さいサイズが望ましかった。しかし、ぬいぐるみだと耐久性が心配である。


「卿! ダンセイニ卿は?」


 ドレイクの兵隊さんが、屋敷に押しかけてきた。


「何事ですかな」

「申し上げます。少々、厄介なことが!」


 何やら、ダンセイニ卿と王国のドレイク兵士さんが話し合っている。声さえかけられない緊迫した状況だ。


「それは本当なのですか?」

「はい、確かに!」


 ドレイク兵さんの様子もおかしい。取り乱している。


「なにがあった?」


 キュアノが、兵隊さんに伺う。ここは、空気を読まないキュアノに助けられた。


 ダンセイニ卿が「同じ話をしてあげて」と促す。


「そ、それが、エチスン卿邸の地下牢に、とんでもない人物が閉じ込められていまして!」

「どなたです?」

「本人は、エチスン卿を名乗っています!」

「まさか!」


 エチスン卿って、黒幕じゃなかったの!?

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