第386話 呪いのアイテムと謎のシート
結局、あのクソ兄貴のせいで、後々になってまで面倒ごとに巻き込まれるね。
別にノーマルで良かったんだよ。なのに、あんな分からないように改造しやがってさ、しかも、そこまでやったんだったら自分で乗ればいいのに、あっさりと置いていって、妹である私に押し付けていってさ。
おかげで私は今に至っても優子とかに、兄貴の偉大さが分からないとか言われて不快指数が上がってるのに……あぁ、思い出すだけでも腹立たしいから、兄貴に思いの丈を全部LINEしてやったよ。
夕飯が終わった後で返事が来ている事に気がついた。
なになに……兄貴は当然自分で乗るつもりで最高のパーツを集めてきて組んで、東京にも持って行くつもりでいたのに、芙美香に猛烈に反対されて泣く泣く置いていったんだって?
しかも、その時ばかりはお父さんも芙美香の味方をしたせいで、孤立無援になったから、引くしかなかったんだって?
あ、しかももうひとメッセージ来たぞ。
元々は、RB26に30ブロックを組んだRB30エンジンを積んで、ボディもワイド化していく予定で部品を手配していたら、やっぱり芙美香に反対されて諦めざるを得なくて、仕方なしに考えていた時、兄貴が師と仰ぐレジェンドのプロレーサーが言ったんだって、『俺だったら、最高の素材をこう料理する』って……。
それで、兄貴はそれに沿って練り直したんだって。
普段の買い物にも使えて、特別なメンテナンスを必要とせず、誰でも乗れるんだけど、2000ccのFRとして最高のパフォーマンスと楽しさが感じられる珠玉の1台……。
それを実現させるために、どうすればいいのかを何ヶ月か真剣に考えて車が完成したんだけど、直後に東京に行く事になって、泣く泣く家に置いていったんだって。
だから、あのタイプMは、今でもそのレジェンドと兄貴の考える最高のFR車に仕上がってるんだって?
ちなみにF1タービンは兄貴の考えで組んだのであって、レジェンドの案ではもっと小さいサイズのタービンが指定されてたんだって。
でも、兄貴がこの辺りで乗る際に、上りでFD3SのRX-7やスープラ辺りのクラスのFR車に歯が立たないのは嫌だなと思って、エンジンを組んだ人と話して決めたんだってさ……。
まぁ、私的に今のところ何の不満もないから、別にどうこうするわけじゃないけど、それでも仕様は知っておいた方が良いからね……まぁ、優子や柚月にうるさく言われたのもあるけどさ。
そうだ!
兄貴はあの車が芙美香の車だって知ってたのかな? 訊いてみよう。
……あ、やっぱり知らなかったみたいだよ。
『だから、色々やろうとするたびに、今までになく干渉してきたのか』
だって、やっぱり兄貴がいじり壊していった挙句、スクラップにしていく様を見るのは忍びなかったんだね。
更に兄貴からメッセージと画像がきたんだ。
あの車は、前に芙美香から聞いたように、別荘で使われていた車でほとんど走らせていない状態だって話だったんだけど、兄貴が最初に見た時はそんな有様だったんだって。
私は、画像を見た。
恐らく最初に対面した時の画像なんだろうけど、物凄く埃まみれな上、タイヤも空気が抜けちゃってぺちゃんこになってるし、室内もカビで真っ白になってて、まるで優子のR32を初めて見た時みたいな感じになってたんだ。
兄貴曰く、初めて行った時、車庫の中と周辺には国産、外車合わせて十数台のスポーツモデルが放置されてたから、殆ど乗られずに放置されてたんだろうって、道楽で『乗ってみたい』って思って買って、何回か乗ったら飽きて次の車に……って感じだったみたい。
ただ、オーナーが生きてた頃は、それでも整備に出してたんだけど、息子の代になったら、完全放置してたみたいで、当日兄貴の他にアルファロメオを取りに来た人がいたんだけど、そのアルファはその場でエンジンブローしたんだって。
兄貴はあのR32がまさか芙美香の車で、しかも自分がかじった痕まであるって事を知ってかなり驚いてたね。
でも、私もあの車のルーツを知る事ができて、かなりスッキリしているよ。
なんか、今までどうもモヤっとしていたところがあったんだけど、そこがクリアになって、しかも、芙美香と兄貴の間はほとんど使われてなかったという事が分かると、あのタイプMって、ほぼウチの家庭内をグルグル回ってるって事になるんだよね。
しかし、そう考えると、とても忌々しい車だよね。
きっとこれは芙美香の呪いなんだよ。あの暴力女め、家族を暴力で支配しておきながら、更にはこんな呪いアイテムまで仕込んでいるとは……抜け目ない女だよ、まったく。
◇◆◇◆◇
もうすっかり卒業式も目前に迫ったある日、芙美香に頼まれたお遣いで、婆ちゃんの所に行った。
一応、同じ敷地内にあるんだけど、離れなんてそう滅多に行かないから、結構懐かしい感じがしちゃったよ。
渡り廊下があって繋がってるんだけど、いつの頃からかな?ここを通るのにそんなにワクワクしなくなっちゃったのは。
リビングに入ると、婆ちゃんがいたよ。
これ、芙美……お母さんから。頂き物のお裾分けだって。
それじゃぁ、私はこれで……え? 折角だから、一緒に食べていけだって? しょうがないなぁ……。
用意してるから爺ちゃんを呼んできてくれ?
良いけど、どこにいるの? なに? 車庫にいるって?
“ガラガラガラガラ”
あれ!? 爺ちゃんいないじゃん。
軽トラの中で死んで……ないね。もしかしたら軽トラの下で……やっぱりいないよ。
それにしてもこの車庫も勿体ないね。
建坪だけで言っても、郊外とかに売ってる建売りの家くらいの広さはあるんだよ。
車だったら4~5台は入っちゃうんだけど、今や軽トラ1台を入れておくだけなんて、なんて贅沢な使い方してるんだろうね。
あれ?
なんか暗くて気がつかなかったけど、軽トラの向こうに、何かカバーのかかったものがある。
前は爺ちゃんが畑をやってたからトラクターがあったけど、今はもうないはずだし、大体トラクターは車庫じゃなくて農機具小屋に入れてたでしょ。
大きさと言い、形と言い乗用車に見えるんだけど一体車種はなんだろう?
爺ちゃんが乗用車を手放して3年くらいになるんだけど、最近、爺ちゃんも婆ちゃんも不満を述べていたよ。
月に何回か県庁に用があって出かけるんだけど疲れるとか、人を乗せなくちゃならない時に不便だとか、色々言ってた気がするよ。
まぁ、別にあっても良いんじゃね?
置き場所もあるし、人乗せるたびに誰かの車を借りに来るなんて面倒なことするくらいなら、乗用車があった方が良いもんね。
それじゃぁ、ちょっとシートを捲って、どんな車か見てみよう……って、婆ちゃんが呼んでるよ。
でもって爺ちゃんはまだ見つからないよーっ! え? トイレだったって? とにかくお茶が冷めちゃうから早くこっちに来いだって?
なんだよぉ、折角良いところだったのにぃ!
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
遂に卒業式を迎える舞華。
長らく続いたこの作品も遂に最終回を迎えます。
お楽しみに。
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