第384話 カルチャーショックと次のステップ
それじゃぁ、さっそく出発することにした。
私はずっと横に乗るから、往路は柚月が悠梨の車を運転してついてきて貰って、復路は柚月が運転して来ればいいね。
え? なんで3人乗らないのかって?
それなりに飛ばすのに、後席に人がいたら危ないし、柚月みたいなおデブがいたら重くなっちゃうじゃん。それに、柚月はどうせキャーキャーうるさいし。
「マイ~、なんか言った~?」
え? 別に? 柚月のおデブっぷりは、R32とR33の重量差より大きいのかって話だよ。
(※R32とR33の重量。R32:1260kg、R33:1360kg。共に2ドアタイプMのMT車)
「私はおデブじゃない~、しかもそんなに体重ある訳ないだろ~!」
や~い、柚月のおデブ~。ブヒブヒ飛べない豚~。
「おーい、遊んでないで、もう行こうぜ」
悠梨がしびれを切らせたように言ったので、それぞれの車に乗り込んだ。
悠梨は、R32に乗ると早速結構な勢いでアクセルを踏み込んでいったよ。
おおっ! 速いねぇ。
人の運転する車だと、速さが何割か増しに感じるのはなんでだろうね?
そして、改めて思うのは、こういう時にR32の前の席には天井のハンドグリップが無いことに対する不満と不便感だよね。
「なんで無いんだろうね?」
分からないけど、天井を低くするためとかじゃないのかな? 要は見た目とのトレードオフで利便性が犠牲になったんだよ。
ちなみにR33にはあるんでしょ?
「助手席だから、あんまり関心ないけど……そうだっ! 洗車した時に掃除した覚えがある。あるよ」
ホラ、やっぱりR32買った人からの不満があったんだろうね。
何から何までコストダウンだらけのR33の中でも、垣間見える良心ってやつだね。
「何から何までコストダウンって……具体的には?」
ざっくりした形状と素材のダッシュボードとか、アンテナがガラスプリントからパワーアンテナに変更になったりとか、必死にやってたプロジェクターライトをやめてみたりとか、そうだ、ライトがガラスから樹脂製に変わったのもR33からだった。
お父さんが言ってた。
R32からR33になって、一番ガッカリしたのは内装だったって。
広さとか使いやすさは良いんだけど、時代が悪かったんだよなぁ……って。
さて本題に戻るとして、やっぱりこのR32は速いねぇ。
「確かに、R32に積んで軽くなってるからってのもあるんだろうけど、それ以上のものがあると思うんだよね」
やっぱり、ノーマルじゃないって事だよね。
でもって、悠梨のR33だってノーマルじゃないでしょ?
「それは、最初に比べたらちょっとは速くなってるけど、それも微々たるもんだよ」
マフラーとフロントパイプ、それとエアクリーナーの交換程度だから、ブーストが心持ち上がった程度なんだって?
「やっぱり、このタービンが良い仕事してるんだと思うよ。高回転の伸びとキレが、私のR33とは明確に違うんだよ!」
いやぁ、R33に乗ってる悠梨からの感想だと、拝聴に値する凄く貴重なものだよね。
悠梨が言うには、やっぱりR33の場合は低域の力強さは頼もしいけど、高回転域では伸びが詰まったような感じになって、なんで? っていう感じが凄く強いんだってさ。
私思うに、GT-Rに忖度して最高出力を抑えようなんて考えるから、こんな物ができちゃったんだよね。
こういう例からも、スカイラインとGT-Rは分離させた方がいいわけだよね。
「なるほどね。でも、だからこそ私のRB25にも手を入れるべきところが多いとも言えるんだよね」
だね。
R33の段階では未完の部分があったからこそ、R34ではリファインされて出てきてるんだしね。
「確かにね。でもって、さすがにR34のを積むのはホネだから、やらないけどね」
みたいだね。
お父さんも言ってたよ。
R34になって、一番良かったのはエンジンだったって。
反面、ダサい外観と微妙な内装にはガッカリしたって言ってたけど……。
「そうか、マイのおじさんはR31から全部乗ってるのか。羨ましいな」
全然羨ましかないよ。
そんなんだったら、都会のタワマンに住むセレブでお洒落なお父さんの方が羨ましいよ。
ウチのお父さんなんか、未だに若い頃に着ていた古い字体のニスモのTシャツとか平気で着て外に出かけていっちゃう、ただの田舎のダサいおじさんなんだよ。
あの芙美香に『スーツ以外で外に着ていける服を持ってください!』っていつも言われてるんだからさ。
「あははは……でも、私は、色々聞けそうなマイのお父さんは貴重だと思うぞ」
そういうもんなのかなぁ……。
「それにしても、この車からフィードバックするべきことは多いかもな。よしっ!解体屋さんに寄って帰ろっ!」
え? この間、燈梨から解体屋さんに結構いじったR33が入ったって話を聞いたんだって?
「この車に乗っちゃうと、カルチャーショックが大きいけど、だから刺激になる部分もあるんだ。軽さはさすがに限界があるからさ、できるところから行きたいかな」
凄く悠梨の声が明るくなったのを感じたよ。
校門の前に到着した。
どうやら、悠梨にとっては得られるものが大きいドライブだったみたいだよ。
それじゃぁ、帰ろうか。
「私の番だよ~!」
あれ? 柚月いたんだっけ?
仕方ないなぁ、それじゃぁ柚月、これから毎日、私の家の玄関の前を掃き清めておいてね。
「調子に乗るな~!」
あそ、じゃぁ帰ろ。
「ゴメンなさい~!」
さっさと行くよ。
悠梨が帰りに解体屋さんに寄るんだって。
今度は柚月の番だけど、柚月の序盤の走りはさっきの悠梨の走りほどではなかった。
悠梨の場合は元々のエンジンの特性を知り尽くしているから、このエンジンと自分のエンジンの差がついてそうな箇所をピンポイントで探ってたんだろうね。
だけど、私と柚月はRB20なんだよ。
悠梨とは感動するポイントが違っちゃうからさ、私らはやっぱり、下から立ち上がるパワーに目が行っちゃうんだよ。
「やっぱり~異次元の走りに思えるね~」
だね。
RB20の場合は、低速が無いから回転数を上げていって、そこそこの走りをしていく傾向があるから、一見すると高回転まで回ってるような錯覚を受けるんだけどさ、別に低速があればそこまで回転数上げる必要はないんだよね。
「確かにね~、RB20は~回していかないとパワーが出なさすぎるんだよ~」
うんうん。
確かにスポーツユニットっぽい雰囲気は凄く味わえるんだけどさ、毎日それっていらないんだよね……。
「でも~この車の場合は~この後も凄いよね~」
確かに、この高回転域のパワーも良いから、私の車も物足りなく思えてきちゃうんだよね。
まったく、この間の柚月の家のGT-Rといい、この水野のGTS-t改といい、今までの私が満足していた領域を無性に底上げさせてくる車が、なんでこうも立て続けに出てくるんだろうね。
「マイは~今の自分の車に満足してるの~?」
なんだよ柚月、変なこと聞きやがって。
そりゃぁ、こんな車が出てくる前は、それなりに満足してたけど、これらを見せられちゃうと、足らない点っていうのを感じさせられちゃうもんだよね。
「だったら~、次のステップじゃない~?」
何を言ってるんだ柚月は? 私は一瞬、意味が分からなかった。
なに、ニヤニヤしてんだよ柚月ぃ! このっ! このっ!
「ゴメンなさい~、参りました~!」
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『水野の狙いって一体何だったの?』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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