第383話 ド変態と新たな審判

 あ、兄貴からLINEだ。

 なになに? あれ? 逆光で画面が見えないな。

 柚月、悪いんだけど先に入ってて、私は車に戻って兄貴のLINEを見てから行くからさ。


 「ダメだ~! 逃げる気だろ~!」


 だから、スマホの画面が見えないから見てくるだけだって言ってるだろ……って、柚月め、バカ力で引っ張るなよ!

 

 「マイ~、お兄さんは何だって~?」


 なんだ柚月、他所の家庭の兄妹間のLINEの内容を知りたがるなんてお行儀が悪いぞ。

 仕方ないなぁ……兄貴の家の昨夜の夕飯はサバの味噌煮とポテトサラダだったんだって、それで、昨夜は久しぶりに夜の営……


 「そんな話じゃないだろ~!」


 仕方ないなぁ、柚月は。カルシウムが足りないのか? きちんと牛乳飲まないとダメだぞ。


 「大きなお世話だよ~!」


 まぁいいや、本題はRB26を他車に搭載した場合、兄貴の経験則と、取材した人たちの話から総合するに低速が足らないという点はRB20と変わらないみたいだよ。


 「そうなの~?」


 うん、最初のうちは憧れのRB26って事で脳内フィルターがかかっていて、スゲェ! ってなるらしいんだけど、そのうち慣れてくると、高回転まではあっという間に回るんだけど、低回転域での力感が無いって事に気がつくんだってさ。


 「まるでRB20乗ってるみたいだね~」


 そうだね。

 あれも最初は速いって思うんだけど、あれは高回転域の力強さと、そこまでよどみなく回るエンジンの合わせ技で成り立っているのであって、段々慣れてくると低回転域は軽自動車よりかったるいって事に気付いてくるんだよね。


 「バランスで言うと、25が良いって事なのかな~?」


 まぁ、エンジンを載せ替えるっていう前提で話をするなら……だよ。

 そうでなければ、今のエンジンを捨ててまでやる必要はないよね。エンジンのドナーがある訳でもなしにさ。


 私はそこまで言って柚月を見ると、柚月は一瞬目線を逸らした。


 柚月、アンタまさか解体屋さんに行ってRB25を調達しようなんて考えてるんじゃないでしょうね!


 「そ……そんな事、ないよ~」


 ウソつけ!

 アンタのウソは私と優子が見れば一発でバレるって事が分からない訳ぇ?

 そもそも、エンジンスワップなんて、今のエンジンに明確な不満が無い限りするべきじゃないし、柚月はそこまで速くもないでしょうが!


 「なんでマイにそんな事が分かるんだよ~」


 ええ~い! さっきも言っただろう。見れば分かるって!

 このっ! このっ! えいっ!


 ようやく柚月を倒した私たちは、食べるものを食べた後で、車の方へと戻ってエンジンを見る事にした。

 ……と、そこに見覚えのある白いボディが現れた。

 あ、ちょうど良かった。悠梨が来たよ。


 「ホントだね~」


 どうやら悠梨は、伯父さんに頼まれて別荘の風通しに来てたんだって。

 丁度いいタイミングだったから、エンジンを見せて貰う事にした。

 見た感じは同じように見えるエンジンだね。


 「R33用だね~」


 そうなの?

 厳密に言えばC34ローレルやステージア用かもしれないけど、R34の世代のものではないっていう意味だって?

 あれらのエンジンはヘッドカバー、つまりはエンジンの一番上にある盤面みたいな所が明らかに違うから一発で分かるって?


 そういうものなんだね。

 それ以外はほぼ一緒なのかな? いや、なんかパイプの色とかが違うよね。悠梨の車は黒で、水野のは銀色のパイプになってるよ。


 「パイピングを変えてるって事は~」


 柚月はおもむろに屈みこんで、助手席側のバンパーの中を覗き込んだ。

 そして


 「やっぱりだ~、インタークーラーが変わってる~」


 と喜んで言った。

 まぁ、機構的な事は分かるよ、最近私も車の事に少しだけ詳しくなってるからね。インタークーラーってのは、タービンから入った圧縮空気を冷やすためのラジエーターみたいなものでしょ。

 これによってタービンで作られた空気が低い温度でエンジンに取り込まれるから、更にパワーが出るって寸法だよね。


 「そういう事~」


 でも、社外品のインタークーラーってのは、バンパーの開口部の所にデーンと構えてるものなんじゃないの?

 すると悠梨が言った。


 「あれって、穴開けとかも必要だし、ラジエーターの種類によっては、水温が上がったりするから、痛し痒しだったんだよ。だから、昔は純正形状のサイズアップした社外品が主流だったんだって」


 話を聞いてみると、この形状でもタービン交換までくらいには対応してるから、穴開けが嫌だったり、スッキリした外観が良いって人なんかには好まれてたんだけど、今は『交換しました』って感じが好きな人が多くなっちゃったから、すっかり廃れちゃったんだって。


 私も覗き込んで見たんだけど、柚月、これって本当に社外品なの?


 「間違いないよ~。コアのサイズが厚いから若干大きいし、それによく見るとプレートがついてるじゃん~」


 柚月に言われてよ~く見てみると、確かに底の部分になんかプレートらしきものがついてるのが見て取れた。


 これも、あの速さに関係してるんだろうけど、具体的にどこが? と言われると分からないんだよねぇ……。


 「まだ乗ってないから分からないけど~、低速トルクの増大って効果もあるんだよ~」


 そうなの? って事は、私らのRB20もインタークーラー交換すると低速が太るのかな?


 「やった人の話だと~そうなるって言ってたよ~」


 おおっ!! 良いこと聞いたぞ、となると、今度の目標はインタークーラー交換といこうじゃないかぁ。


 「恐らくだけど~、マイの車には入ってるんじゃないかって思うよ~。今度お兄さんに訊いてみなよ~。夜の営みの事なんか聞いてないでさ~」


 “バシッ”


 「痛いなぁ~!」


 誰もそんな事なんか聞いてないわ!

 

 柚月を鉄拳制裁していると、エンジンルームを覗いていた悠梨が


 「これ、タービン交換されてるよ」


 と言って、エンジンの手前側を指さした。

 そこには銀色の円形のものがあった。これがタービンだって事は分かるけど、悠梨はなんで分かったんだろ?


 「いや、どう見てもサイズが大きくてはみ出してるだろ。それに、プレートがついてて、明らかに純正品と違うし」


 と言った。

 悠梨の話だと、タービンのサイズが大きくなったので、純正なら隠れてしまうところも、ちょっと顔を出してしまったのではないか? と言うのだ。それにタービンの側面の打刻やプレートから社外品ではないかと言う推測に至ったのだという。


 なるほどね、水野の奴はR32にRB25を積んでタービンとインタークーラーを交換した仕様に乗ってたって訳か。


 「水野の事だから~、まだ何か隠してそうだけどね~」


 柚月の言う事もごもっともだ。

 水野め、全くもって油断ならない奴だ。


 「なんだ、誰の車かと思ったら、このR32は水野のだったのか? アイツいつもこの車に乗ってこないから、全く知らなかったな!」


 悠梨が言った。

 

 実は、私はたった1回だけ見た事があるんだよね。

 確か1年生の夏休みだったと思うんだ。

 バスケ部の練習で学校に行った時に、職員駐車場で水野がこの車から降りてくるところをね。


 「そうなんだ」


 だから、何となく覚えてたんだ。

 それにしても、水野の車はどこからどこまでもがマニアックすぎる。

 GTS-tというグレードに、ASCDのオプション、ボディの色に改造の内容までもがマニアックを通り越したただのド変態仕様だよ。


 その話を一通り聞いていた悠梨が言った。


 「それでさ、そのド変態仕様とやらに、私も乗りたいんだけどさ」


 私と柚月は二つ返事でOKした。

 恐らくあの水野の様子からも、みんなに乗って貰いたかったんじゃないかって気がしてたからね。


 ──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『R33に乗ってる悠梨からのジャッジはどうなの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。 

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