第382話 2つの狙い
角を曲がった後は、まずは学校前の心臓破りの上り坂を上った。
ここって、勾配が急な上に距離も長いから、ホントに軽自動車泣かせの道だよね。
「だね~、アルトワークスでもパワー不足だったからね~」
そうか、柚月の友達にワークスに乗ってる娘がいたもんね。それでもそんな感じになっちゃうって事は、この坂の過酷さが、初めての人にも分かるってもんだよね。
でもさ、ウチの学校って、大半が軽で通学してるじゃん。よくみんな何も感じないよね。
「それはさ~普段がそうだったら~別に慣れちゃって何も感じないでしょ~。そんな事言ったら、マイだって原付に乗ってきてたじゃん~」
なるほどね。
私の車と同じ感覚でアクセルを踏んでいってるんだけど、明らかにグイグイと引っ張られる力を感じるよ。
これが排気量の差ってやつなんだね。速度が乗ってきちゃうと、私のタイプMよりも1速高いギアで走れちゃうんだよ。恐るべし25だね。
もう、ギューンといってビューンってやつだよ。
「意味が分からないよ~」
擬音で察しなさいよ柚月。
だから空気読めない娘って言われちゃうんだぞ。
「言われてないし~」
うそっ!? 柚月知らないの?
今の首相の名は知らなくても、この事は知っているくらい、国民周知の事実なのに?
「ウソつくな~!」
ウソじゃないよ、国会図書館に行って『三坂柚月 空気読めない』で検索すると203ページの検索結果が出るんだよ。
知らぬは本人ばかりなりってやつだね。
さて、本題に戻ると、このエンジンスワップの狙いは、紛れもなく2000ccのR32の泣きどころである低速の破滅的なかったるさの解消にあるんだけど、どうも、この車に関しては、更にもう1つあるみたいだね。
「もう1つって~?」
2500cc化による最大パワーの追求だよ。
私の勘によると、このエンジンはノーマルでなくて、もう一つ手が加わってるように思えるんだよ。
「どうして、そう思うの~?」
悠梨のR33よりも、加速にしても高回転の伸びにしても更に力強く感じるんだよ。
「それって~R32の方がR33よりも軽いからじゃない~?」
それもあるんだろうけど、それを差し引いても物凄い力感に感じるよ。
だって、R33ってリニアチャージコンセプト理論で、今の車のダウンサイジングターボみたいに、低速からタービンが回る代わり、高回転域まではタービンがカバーしきれないでしょ?
上り坂区間も終わって、ここからが本番なんだけど、この高回転の回りは、悠梨の車よりも気持ちいいんだよ。悠梨のR33だと、エンジンはまだまだ余力があるのに、タービンがフン詰まっちゃって、そこで加速が鈍っちゃうんだけど、このR32はまだまだイケるって、車が訴えてきてるみたいなんだよ。
よしっ、行くよ! 柚月はおむつ履いてきたの?
「なんで、そんなものが必要なんだよ~!」
だって、いつもいつも私が大して飛ばしてもないのに、キャーキャー騒いで運転に集中できないからさ。
それだと困るんだからねっ! 大体柚月は自分の運転では飛ばしてるくせにさ。
私はギアを落としてアクセルを踏み込んでいった。
次の瞬間、待ってましたとばかりに一瞬の間の後で鋭いダッシュが始まった。
おおおっ!! これが2500ccの本気の加速かぁ?
うん、なんと言うか、下から包みこむような力感があるんだけど、それでいてRB20にもあったような滑らかでいて、荒々しさのあるフィーリングも健在なんだよ。
ホラ、排気量の大きい車って、下からの力感はあるんだけど、それ以上のフィーリングは圧倒的な力感にかき消されちゃって、太い線のような力強い感じになっちゃうんだよ。
それに対して、このR32は繊細さも兼ね備えていながら、神経質な低速という弱点が消えているのが凄く良いんだよね。
そして、端的に重くなっていないから、車の向きがキュンキュンと変わっていくのも良いよね。
パワーに比例して重くなっていくものだけど、25くらいの変化であれば、極端に重量も変わらないって事なのかな?
そして、ちょっと長めの直線だね、それじゃぁ、一気にいくよっ!
“パシュゥゥゥゥーーー”
アクセルを敢えて一瞬オフしてからのタービンの立ち上がりを見てみたけど、ピックアップも良くて、凄く良いなぁ。
でもって思うんだけど、このタービンって、やっぱり純正じゃないよね?
明らかに悠梨の車を走らせた時のそれと違って、高回転までしっかりとパワーがついてくるんだけど。
「どうなんだろうね~?」
でも、とにかくパワー感は間違いなくあるし、悠梨のR33よりも高回転が強いっていう事は確かだから、私らの車に対する漠然とした不満要素は、この車1台で全て解決してるようなものだね。
「なるほどね~。でも~、マイ的に一番良いなって思うのはどこ~?」
やっぱり20を知っている私としては、この車の圧倒的な低速の強さが一番印象に残るけど、それと同時に高回転に至るまでにピックアップの良さと、高回転の力強さも捨てがたい魅力だよね。
「ふ~ん、なるほどね~」
なんだ柚月、その興味のない感じの返事は。
よしっ、道の駅に到着したぞ。
折角来たんだから、中で何かスイーツでも食べていこうよ……って、柚月しかいないからやめておくか。
「なんで~やめるんだよ~!」
言ったでしょ、柚月しかいないからだって。
昨日もそうだったじゃん。
「ダメだ~、行くんだもん~!」
あっ、柚月勝手に入っても置いていくからねー。
「許さない~!」
ズンズンとレストランの方に進んでいく柚月を尻目に、私は運転席に回り込んで鍵を開けた。
「なんで~、帰ろうとしてるんだよ~!」
柚月め、バカ力で引っ張るんじゃない!
「行くんだもん~!」
その時、私のスマホから着信音がした。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『舞華に誰から連絡が来たの?』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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