第381話 銀色の箱と2台のスペース

 「それよりも、見て欲しいのはこちらだ」


 水野はボンネットを開けて見せた。

 ……なんか凄いのかな? 正直、私や柚月のエンジンと変わらないように見えるよ。

 さすがにGTEや4気筒のエンジンだったら、私でも見た目で分かるけど、このエンジンに関して、何が違うのかは全く分からなかったので、思わず言った。


 それで、何が違うんですか?

 すると、水野は素っ頓狂な表情になって


 「分からないのか?」


 と言うので

 ええ、まったくと答えると、水野は狼狽しながらも力のこもった声で


 「よく見たまえ! このエンジンが他と違うところがあるだろう」


 と力説した。

 でもって、知らないって言ってるのに答えをオープンにしない水野の態度がムカついたので


 さぁ? 私たちのと同じなんじゃないですか?

 と言って、柚月を連れてそのまま帰ろうとした。

 すると、柚月が水野に聞こえないような小声で


 「あれって、RB25DETなんじゃない~?」


 と囁いた。

 あぁ、R33以降に搭載された2500ccのターボか。

 あれも同じRBエンジンだから、R32にも難なく乗っかるんだね。

 確か兄貴が言ってたけど、RB同士の場合はほぼポンで載せ替えられるみたいだけど、Z31に載せる場合はスペース的に収まっても熱の抜けが悪いって問題があるって言ってた気がするね。


 そんな事を考えながらも、水野を無視して、敢えてそのままスタスタと帰ろうとすると、背後から


 「見たくないのか? 私の車にはRB25DETが載ってるんだぞ!」


 と、水野の狼狽した声が聞こえてきたので

 良かったですね~。私、しかと見ましたのでこれで~。

 と茶化してそのまま帰ろうとした。

 別に水野の車にRB25が積まれていても、私らにしてみれば何の関係もないのだ。


 すると、水野は音もなく私らの前に回り込んできて


 「待ちたまえ! このまま帰ると後悔することになるぞ」


 と脅し文句を言ってきた。

 別に、私らが水野の車のエンジンを眺められるかどうかなんて、後々後悔するほどの事象には思えないので、私は


 そうなんですか~? でも、私たち興味ないので、これで~。

 と言うと今度は水野のガード甘い左脇を抜けてまたスタスタと歩いていこうとした。


 すると、水野は


 「待ちたまえ……」


 と、私の肩を掴んで言った。

 そして、続けて言った。


 「私の言葉が足らず申し訳なかった。今日、わざわざ呼び止めたのは他でもない。私の車に乗ってみて欲しい。諸君もR32に関しては、ほぼ全機種に乗ったであろうはずなので、その集大成として、この車も2~3日、じっくり体感して欲しいのだ!」


 と言うと、私の手に無理矢理キーをねじ込むように握らせると、そのままあっという間に校舎内へと姿を消していった。

 呆然と立ちすくんでいたが、情報を整理しようと思い直して動き出した。

 今日は金曜日で、明日と明後日を使ってこの車をチェックしてみるのも面白いかもしれない。


 でも、どうしよう?

 平日ならともかく、金曜日の放課後に車を学校に残して帰ったら、後で家に生徒指導から電話が来そうだね。


 「だね~」


 とすると、一度家に戻ってから改めて柚月と学校に来るしかないね。

 それに、大体私と柚月のどっちがこの車を預かればいいんだ?


 「それはマイなんじゃないの~? 声かけられたのマイだし~。それと、この後は私も用があるからバスで来ればいいんじゃない~?」


 オイ柚月、ウソつくな。

 さっきまで、寄り道してから帰る気満々だったじゃん! 用なんてある訳ないよね?


 「そ、そんな事ないもん~。ホントに用事があるんだもん~」


 そんなに言うんなら、何の用事があるか言ってごらん。

 え? 秘密だって? そんな事信用できる訳ないだろーが! このっ! えいっ! 


 「ゴメンなさい~、参りました~」


 よしっ! 柚月のパンツは没収だ。

 いい? もし逃げたりしたら、パンツの命はないよ。


◇◆◇◆◇


 一度家に戻った後で、柚月と再び学校に向かって水野の車を取りに行ったんだよ。

 折角だから、家に戻るまでは柚月に乗って貰ったんだ。


 どうだった?


 「下りだったから今一つ実感はできなかったけど~、それでも低速は太くなってる感じはあったんだよね~」


 そうか、まぁ、なんにしても明日は陽の高い時間から色々チェックできちゃうね。

 だから、10時集合ね。


◇◆◇◆◇


 まったく芙美香の奴め、きちんと説明したじゃないか、水野が無理矢理乗ってみろって押し付けたものだって。

 『ウチには、舞華の車を2台も置くスペースなんて無いんですからねっ』

 とか言いやがってさ、都会の人じゃないんだから、ウチの庭なんて思いっきりスペースだらけじゃん。


 兄貴なんて一時期部品取り車と合わせて6台置いてたじゃん。

 まったく芙美香は兄貴に甘いよね。

 いくら同じカークラッシャーの血が流れてるからって、兄貴ばっかり、えこひいきするなっての。


 まぁ、その後でお父さんが来て芙美香にピシャっと言ってたから、この話は解決したんだ。

 何のかんの言っても、ウチはお父さんが言えば芙美香は引っ込むからさ。


 よし、柚月も来たところで、早速行ってみようかー。

 それじゃぁ、まずは私が運転するとしよう。

 

 街中を抜けた段階では、運転した感じは普通のR32と特段変わるところはないよね。

 私や柚月の2000ccターボや、優子のノンターボ、更に言えば部のGTEとだって変わるところは無いんだよ。

 恐らく違いが現れるのは、この角を曲がって学校に向かう上りの区間だろうね。


 でもって、今の信号発進で思ったのは、踏み込まなくてもスッと前に出ていく感じがあるよね。

 これって結構大きな違いじゃね?


 「だね~、25にする最大のメリットは~、低速トルクの拡充だからね~」


 うんうん、分かるよ。

 私らの2000ccは、低速が泣きたくなるほどかったるいんだ。

 マフラーだとか、アースだとか、手を入れた直後は体感できるほど低速が鋭くなるんだけど、段々乗っているうちに感覚が慣らされてきて、また、他車との比較で低速が悲しくなるほど足りない感じになってっちゃうんだよね……。


 「そうだね~。特に私らの場合は、身近にシルビアがあるからね~」


 そうだね。

 部車にもあるし、燈梨も乗ってるから、乗る機会が結構多いんだよね。

 シルビアのSR20エンジンの低速の元気さと比べちゃうと、私らのRB20エンジンは、同じ排気量だけに、低速の弱さが際立っちゃうんだよね。

 あれに触れちゃったからなぁ……。


 なるほど、それをカバーするための2500ccな訳だね。


 「昔は~RB20を排気量アップして2300ccとかにするのが流行ったけど~、25化の方がお手軽だから~、主流はすっかりこっちになったね~」


 確かに、2300ccに排気量上げようとしたら、エンジン降ろして、エンジン自体を上と下にバラしてから、ピストンの入っているところを削って、更にはピストン自体を大きいものに換えないといけないから、ほぼエンジン全バラになっちゃうけど、25化する場合は、前もって手に入れておいたエンジンを入れ替えるだけだもんね。


 「まぁ~、本来は配線加工とか、色々あるんだけどね~」


 まぁ、そこはそれとして、作業自体の大変さを考えたら、こっちの方が圧倒的に楽でしょ。


 「まぁね~」


 ちなみにRB26はどうなんだろう?

 

 「載っかることは載っかるみたいだけど~、パワーがありすぎるから大変みたいだよ~」


 あれ? そう言えば、兄貴がクルーやセフィーロにRB26積んでたような気がするな?

 ちょっと後で聞いてみよう。確か、兄貴は何かを言ってた気がするんだよなぁ……。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『25エンジンの変更ってどんな違いが出てくるの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。 

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