第380話 水野と秘密とASCD

 遂にもう3月に突入したよ。

 来週には卒業式だし、もうぶっちゃけ学校に来てもやることなんて無いんだよね、部活も引退したしね。

 でもって、部活を引退しちゃうと、燈梨の頬をスリスリできないから困っちゃうよね。


 「部活は、そういう事をする場所じゃないけどな」


 結衣は分かってないねぇ~、部活の目的の中には、先輩後輩の垣根無く親交を深めるっていうのも含まれてるんだよ。


 そう言えばみんな、大学入学の準備とかってしたの? え? 特にしてないって?

 そうだよね、いや、ウチはやたらと芙美香がうるさくてさ『2年生までに卒業までの8割の単位を取得しなさい!』とかやたらガミガミ言うんだよ。


 「それは、ある意味正しいんだけどね」


 優子は正論派だなぁ。

 それに対してお父さんが言ってたのは『やりたいと思う事ができるまで、程々にやりなさい』なんだよ。

 お父さんは、ダブった上に卒業もギリギリだったんだってさ。それで、その後にやりたい事ができて大学院に行ったんだって。はじめて聞いたよ、そんな事。


 それじゃぁ、帰りに皆でスイーツでも……って、悠梨と結衣はバイトなの? 優子は、お爺ちゃんが足を骨折したから、お見舞いに行かなくちゃいけないんだって? 


 ……あっという間に私と柚月だけになっちゃったよ。

 それじゃぁ、帰ろうか?


 「なんで、私だけだと何処にも行かないんだよ~!」


 だって、柚月と2人でお茶なんかしても盛り上がらないんだもん。

 どうせ大学行っても学部同じだから、授業とかでも会うだろうし、家が物理的に離れる訳でもないから、どうせ嫌でも会う事になりそうだしさ。


 「イヤって言うな~!」


 あぁー、イヤだイヤだイヤだー-!


 そんな事を言って柚月を軽くおちょくっていたところ、背後に気配を感じた。

 あぁ、なんか今朝から妙な胸騒ぎがしてたんだけど、やっぱりかぁ……。

 背後に立っていたのは水野だった。

 どうして、コイツだけは相も変わらず気配を消して人の背後に立つんだろうなぁ……デューク東郷かっての! ある意味、尊敬に値するよ。


 「今日は、諸君に是非見て貰いたいものがあって来た。ちょっとご足労願えないだろうか?」


 良いですけど、『諸君』って、ここには私しかいませんけど?


 「私もいる~!」


 あれ? 柚月じゃん! 今日はてっきり学校休んでるのかと思ってたけど、いたんだ。


 「朝から一緒だったろ~!」


 そうだっけ?

 そんなやりとりを苦笑しながら見ている水野に言った。


 そうだ、その背後から音もなく現れるの、燈梨たちも交えて何度も話し合ったのに、全く直らないんですね。

 私らは慣れてるけど、1、2年生はそうはいかないんですから、少し気を付けて貰わないと、本気で困るんですよ。


 「母にもいつも言われてるんだが、この癖は直そうと思ってもなかなか直らないもので、私なりに努力はしているんだ……」


 母? 水野の口から家族の話なんて初めて出たな。

 しかも、いつも言われてるって事は、水野は母親と同居してるんだな。

 私がボソッと言うと、水野が


 「母とは、学校で毎日会っているぞ」


 と突如意味不明な事を言い始めた。

 それを聞いて全く理解不能になっている私に柚月が慌てた様子で


 「水野の母親って、教頭の事だよ~」


 と耳打ちしたので


 「なぁ~にぃ~!」


 と思わず驚いてしまった。

 いやぁ、今年一番の驚きだったよ! まだ3月なのにさ。

 水野の天敵で、あのやたらガミガミうるさいおばさんの教頭は、水野の母親なのか?

 でもって、苗字が違ってるよ。たしかあの教頭って瀧上とかって言わなかったっけ?


 「瀧上は、母の旧姓だ」


 そうなんだ。

 それ以上聞く気も起こらなかったんだけど、どうやら水野と教頭が親子だって事だけは、分かったよ。


 水野についてここまで来たんだけど、ここって教員用の駐車場じゃね?

 一体ここに何があるんだって言うんだろう?


 なんか、R32の4ドアが止まってるね。

 ブレーキの感じからタイプMなのかな? それにしても、一体なんだろう?


 「これが私の車だ」


 あぁ、やっぱりそうだったのか。

 初めて私の車を追って来た時にも、4ドアに乗ってるって言ってたもんね。

 ところで、自分の車の自慢をしたいのかな? まぁ、確かに初めて見る車だけどね。


 それにしても変わった色だね。

 薄い水色だね。色としては悪くないし、カッコ良いとは思うんだけど、なにぶん見かけたことがない色だね。オールペンなのかな?


 「前期の4ドア専用色のうちの1つ、ライトブルーメタリックだ」


 どうやら、R32って当初は色に関して結構分けていたらしくて、前期には4ドア専用色が2色あったらしい。

 1つはホワイトパールで、そしてもう1つがこのライトブルーメタリックだったらしい。

 代わりに2ドア専用色がブラックパールメタリックで、GT-R専用色がガングレーメタリックだったらしい。


 だけど、4ドア専用色の2つは人気が今一つ盛り上がらずにマイナーチェンジで廃止されて、逆に要望が多くてブラックパールが4ドアに、ガングレーがGT-R以外にも拡大採用されるようになったんだって。

 まぁ、見た感じ結衣のGTS25の色にも似てるよね、後期型になった時に、結衣の色と入れ替わったっていう見方でも良いのかもね。


 「確かあれは~グレイッシュブルーパールとか言う色だね~」


 でもって、水野の車を見ても特に驚かないんだけどな、確かに4ドアのターボ車は無いけど、でもって4ドア車は部に2台もあるし、別に2ドアと4ドアのホイールベースが違う訳でもないから、走らせた感じも同じ訳じゃん。

 私と同じタイプMだし。


 「ちなみに私の車はタイプMではなくGTS-tだ」


 はぁ!? でもって、どう見てもタイプMキャリパーになってるから、わざわざ今更GTS-tって言っても仕方なくね?

 ブレーキが同等になれば、GTS-tもタイプMも変わらないんだからさ。


 「よく見たまえ、ここが違うんだ」


 水野がドアを開けて中を指さした。

 見た感じ、私らの車でも見慣れたインパネだね。

 ハンドルが社外品に変わっていて、ブースト計がついている以外は特に目立った変更点は無いように見える普通のR32に見えるけど……。

 

 水野が指さした先って、ハンドルのボスのところだった気がするけど、なんかホーンボタンの所にスイッチが幾つかついてるように見えるよ。

 なんだこれ?


 「メーカーオプションのASCDだ」


 なに? ASCDって?


 「クルーズコントロールの事だよ~、昔の日産はASCDオートスピードコントロールって呼んでたんだよ~」


 へぇ~。

 どうやら柚月の話だと、R32の前期型では、GTEとGTS、GTS-tにメーカーオプションで装着できたらしいけど、他の2グレードはともかく、GTS-tはほとんど売れていなかった事もあって、マイナーチェンジ時にGTS-tが姿を消すと、ターボ車のASCD装着車が消えたらしい。


 それで、水野は私らをわざわざ呼び出して、ASCDとやらの自慢をしたかったのかな?


 「それも全く無い訳ではないが、本来の目的は別にある。そう、先走らないでくれたまえ」


 やっぱり、それもあったんだ。

 まぁいいや、水野の一挙手一投足にツッコんでたら、きっと3日くらいかかっちゃいそうだし、今日のところはさっさと済ませて貰って、さっさと家に帰らなきゃ。


 あーあ、今日は折角の放課後に柚月以外いなくなっちゃうし、水野には変な自慢されちゃうし、最悪だよー。


 「なんで~、私が関係あるんだよ~!」


 もう! これだから嫌なんだよー!


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『水野が見せたい物って、一体なに?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。 

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