第379話 最後のレクチャーと最強ケミカル

 車を洗ってボディが綺麗になってるにもかかわらず、綺麗に見えない理由は、ボディが綺麗でも、そこについてるものが綺麗じゃない場合だよ。


 「それって、どんなところを指してるんですか?」


 まずは窓だね。

 ボディが綺麗でも窓が汚れていると、光が当たって出るボディの艶よりも、くすんで光が濁っている窓の方が目立っちゃうんだよ。

 特にR32は2ドアも4ドアもサッシュレスドアで、窓の端の部分を持って閉める娘達が多いと思うんだけど、そうなると、常にここが触れられてる事になっちゃうから、窓を綺麗にするのは必須項目だよね。

 窓を外と中から拭いて、乾拭きで拭き取るだけで大きく変わってくるよ。窓クリーナーとかは、車の使用頻度が高い場合はそんなにいらないと思う。汚れ自体は濡れ雑巾と乾拭きで充分だからね。

 まずは、騙されたと思ってやってみよう。


 「……できましたっ!」


 うんうん、ちょっと離れたところから見てごらん。

 ほらっ、透明感のある窓になって、ボディの輝き感が増したでしょ。


 「ハイッ! でも、まだ物足りないんですけど」


 そこで出てくるのが、さっきのタイヤとかの話になるんだ。

 まずはタイヤを艶出ししてみようよ。

 取り敢えず、安いのでいいから、ワックス入りのタイヤクリーナーみたいので、タイヤをシュッとひと吹きしてみようね。


 シュワシュワの泡が引いた後で、タイヤを見てみると、どうよ!


 「本当ですっ! さっきから大きく変わりました……でも」


 分かってるって、皆まで言わなくても。

 どうせまだ物足りないって言うんでしょ?


 そこで登場するのが、さっき私が使っていた樹脂やゴムの保護つや出し剤だよ。

 さっき、私の指示で、ウェザーストリップにはかけたと思うけど、その周辺にもかけるんだよ。

 例えば、窓の下側にある窓の開閉時の水切りゴムとか、周辺の樹脂部品とかにかけておくと、これだけだけで、綺麗度が3割アップするからね。


 次に、これはR32の標準ボディ車ならではなんだけど、リアのバンパー下の黒くなってる部分だよ。

 恐らくここはチッピングプロテクター、つまりは石跳ねとかからボディを守る意味合いでこういう処理になってるんだろうけど、ここもくすんできちゃうから、つや出し剤で軽くひと拭きしておくんだよ。


 「なるほど、凄いです!」


 私が拭き終わると、その変化が分かったみたいで、1年生が色めき立った。

 そして、ボディサイドの下側にある、同じくチッピングプロテクター的な処理をしてある所もひと拭きしておくと、同じく艶が出て、黒が引き締まるんだよ。

 やっぱり、ここも視覚的な効果が大きいみたいで、みんなの視線が集まってきていたよ。


 どう? 黒い部分を綺麗に磨いて艶を出してあげるだけで、かなり引き締まって見えてきたんじゃない?


 「確かに……そうですね」

 

 ちなみに、今の車の場合は、フロントのワイパー下の黒いところも樹脂になってるケースが多いから、この要領で磨いてあげると、凄く見違えるよ。

 ただ、R32の年代の車は、その部分は樹脂じゃなくて、金属を黒く塗ったものになってるんだ。

 だから、R32みたいな車の場合は黒用の水垢取りワックスとかかけて、汚れを落として、少しだけ輝かせて、黒をしっとりと綺麗にすることができるから、それで綺麗にしようね。

 ちなみに、この部分がワイパーアームみたいに剥げてきたりした場合は外して艶消しブラックで塗ってあげると復活するからね。


 「分かりましたっ!」


 ホラ、これでこの部分も綺麗になってさっきまでとは違ってきて見えたでしょ?


 「ハイッ!」


 他には、ライトやテールレンズも綺麗に磨いてあげれば、外から見える部分に関してはすっかり綺麗に見えるようになっていると思うよ。


 「見違えました!!」

 

 そうでしょそうでしょ~。

 そうなれば、外に関してはほぼ完璧だね。あとは、どうしても気になる場合はタイヤハウスの中なんかも綺麗にするんだけど、この場合は水洗いでOKだよ。

 でも、その水洗いの時も、高圧洗浄するか、ホースの先端を潰して勢いよく出た水でやらないと、泥とか汚れが落ちないからね。


 「ちなみに室内はどうするんですか?」


 おおっ! その質問が出たね。

 良い質問だよ。車内を綺麗にするには今使っている保護つや出し剤と、中性洗剤だよ。

 まずは、雑巾に中性洗剤を一滴たらして、よく揉んでから硬く絞るんだよ。

 そして、その雑巾で内装を拭くんだよ……すると。


 私が雑巾を開いて見せると、1年生たちはあっと驚いた。

 それはそれは真っ茶色になっていたからなんだよね。

 

 「そんなに内装が汚いなんて、思いませんでした」


 希愛ちゃんがビックリして言ったので、私は言ったんだ。


 みんな、車って止まっていても外気を採り入れているから、常に外気に晒されてるのと一緒なんだ。だから、内装も一見綺麗に見えても砂や埃が降り注いでるんだよ。

 更に言えば車の内装って、触感や質感を高めるためにシボっていう処理が表面にされていて、微妙に凹凸なんだよ。


 だからまずは、徹底的に汚れを落としてあげようね。

 車内の樹脂の部分を拭き終わると、今度は綺麗な雑巾を綺麗な水で浸し、硬く絞って拭き取った。

 まずは、これだけでも分かるでしょ? 結構綺麗になってるって。


 「こんな単純な方法で綺麗になるんですね~」

 「もっと凄い機材とか使うのかと思いました」


 1年生はかなり驚いていたので、更に説明した。

 それは、お金と機材があれば、そういう凄いものも使うけどさ、でもって、それだと普段みんなが綺麗にできないでしょ? やっぱり自分で出来る範囲で、効果を最大限に上げていく方法を考えた方が良いよ。


 「エンジンとかの油汚れは、換気扇の洗剤が良いとかね」


 そうそう燈梨、その通りなんだよ。

 あんなの専用のクリーナー買ってたら凄く高くつくけど、換気扇のクリーナーなら家にあったりするからね。


 それじゃぁ、続きにいくけど、今度はこのつや出し保護剤で内装の表面をコートしてあげようね。

 これをする事によって、内装の艶出しって効果は勿論なんだけど、埃とかの付着を防止して、更に次回の掃除の手間を大幅に低減してくれるっていう副次的な効果もあるんだよ。


 あとは、ハンドルやサイドブレーキレバーなんだけど、このGTEや教習車のハンドルはウレタン製だからそうじゃないけど、他の車の革巻きステアリングとかは、専用のクリーナーを使わないといけないから、普段のお手入れは硬く絞った雑巾で拭くっていうのが一番だよ。

 私だってそんなクリーナー使わないから、普段のお手入れはそれで済ませちゃってるよ。


 「シートのお手入れはどうするんですか?」


 これも難しいところなんだけど、専用のクリーナーって良し悪しで、逆に落ちすぎてシミになっちゃったりするんだよ。

 だから、基本的にクリーナーは汚れの酷い場所に使うくらいにとどめて、ここでも登場するのは硬く絞った雑巾なんだよね。バカにしがちだけど、雑巾って結構掃除において最強だと思うよ。


 それで、シートを使用頻度によって週一から月一くらいで拭いてあげて、更に私ら田舎ならではのお手入れとしては、月一くらいで外に出して干してあげるんだよ。

 やっぱりお日さまって最強でさ、シートもふんわりするし、そういう時に力一杯リクライニングさせて、隙間にたまった埃を取ったりできるんだよ。

 都会の人達は、駐車事情や、住宅事情で、シートを外して干すなんてできないだろうからさ、こういう時に田舎のメリットを享受しておくんだよ。


 レクチャーが終わったGTEを見ると、とてもピカピカになっていて、新車みたい……というのはさすがに言い過ぎだけど、納車されたばかりの中古車くらいの輝きは発していたよ。


 その姿を見た1、2年生は言葉を失っていたよ。

 まぁ、私らなんてこのくらいの事しか伝授できないんだけどさ、これからもこんなゆるゆる~って感じで、部を運営していってよ。


 私らは、その日を最後に、部活動を引退した。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『もう、残すは卒業式なの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。 

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