第378話 艶めく黒とワンランク上

 この間の作業で、1、2年生からお礼言われちゃったけど、そんな大したことはしてないんだよ。

 ただ、こういう一見細かくて、意味に薄い作業でも、見た目が変わるっていう大きな要素があって、その見た目が変わるっていうのは、物凄くやる気を起こしてくれるきっかけになるから、バカにしたもんじゃないんだよ。


 「確かに~ワイパー周りが黒く引き締まっただけで~、車が新しくなったみたいに見えるもんね~」


 そういう事なんだよ。

 見た目が引き締まってた方が、ヤレてるよりも、何かしてやろうって気になるでしょ?

 部車っていうのは、どうしても自分の車を持つと関心が二の次になりがちなんだけど、あくまで部車も第2の愛車っていう考えで綺麗に大切に扱おうっていう意識が大切なんだよね。


 「マイは~そんなこと思ってないでしょ~」


 この野郎、柚月!

 そんなこと思ってなかったら、ワイパーの塗装なんかやると思ってるのかぁ? 大体柚月なんか、そんな考えなんて全く持ってないから、この間、何も出来なかったんじゃないか! そのくせして私を批判するとは……このっ! このっ!


 「参りました~、ゴメンなさい~!」


 ええーい、今日はそう簡単に許さないぞぉ、ていっ! ていっ!


◇◆◇◆◇

 

 さて、この間のワイパーの塗装の件で1、2年生から改めてそういった細かい点でのコツを教えて欲しいって言われて、呼ばれたんだよ。


 正直、こういう事はお掃除名人の燈梨がいるから、私の出る幕は無いような気がするんだけど、でもって、『部屋の掃除と車だと勝手が違うから』って言われて、燈梨から頭下げてお願いされちゃったからねぇ……。


 今日は結衣と優子がバイトだから、私と柚月、悠梨の3人で行ったんだ。

 まぁ、結衣は元々汚部屋の住人で、今回の作業には不向きだったから良いか。


 「マイちゃん、ゴメンね。今日はわざわざ」


 いいんだよ燈梨。

 私は、燈梨とキャッキャウフフできれば……もとい、1、2年生の役に立てればさ。


 まずは、車の見た目のリフレッシュに必要な用品たちは用意して貰えた?


 「うん、ここにあるよ」


 さすが燈梨、バッチリ用意してあるね。

 それじゃぁ、まずはこの樹脂やゴムの保護つや出し剤を使って、あちこちを綺麗にしていくよ。

 それじゃぁ、燈梨と若菜ちゃんと七菜葉ちゃんは私の所に来て一緒にやろうか。


 「マイ先輩、セクハラはやめるっス!」


 何言ってるんだよアマゾン、これのどこがセクハラなんだよ。

 私は助手を指名したに過ぎないんだよ。それをセクハラ呼ばわりとは心外だなぁ……。


 それはさておき、今日の教材車もGTEだね。

 これって、洗車とかは


 「しましたっ!」


 おぉ! 1年生の美桜みおちゃんだね。

 え? 主に洗車は1年生の担当にしたんだって? まぁ、確かに1年生だとまだ作業は補助の段階だろうし、積極的に車に関わるって意味で洗車っていうのは重要なポジションかもね。きっちりやっていけば部車に愛着も湧くしね。


 「洗車って、やっぱりそういうものなんですか?」


 ええっと、1年生の……希愛のあちゃんだね。

 え? ちなみに妹は清麗奈せれなちゃんだって? それって、なんかの偶然?


 さてと、本題に戻ると洗車をしっかりしていく事によって、より綺麗にしていこうという気持ちが芽生えてきて、ひいては、それが車に対する愛情になっていくものなんだよ。

 それに、しっかり洗車をする事によって、普段と違う車の兆候や、ダメージが溜まっていそうな場所も、段々わかってくるようになっていって、それが、予防安全的なメンテナンスに繋がっていくんだよ。


 「なるほど! 勉強になりますっ!」


 良かった、分かって貰えたみたいだよ。

 とは言え、これってカークラッシャーだった兄貴の受け売りでもあるんだけどね。


 まずは、ドアを開けて車内側のウェザーストリップをつや出し剤でしっかりと拭いてつや出しをしておくんだよ。

 R32はサッシュレスって言って、ドアを開けた時に窓枠が無いタイプだから、このゴムのウェザーストリップの劣化が、風切り音の増大や、雨漏りにも繋がるからね。


 ついでに言うと、滑りも良くするんだ。

 R32で結構見られるのは、窓の角の部分がウェザーストリップのゴムを突き破って、穴が開いちゃうんだけど、これだって、ゴムの滑りが良ければ少しは防げるものなんだよ。


 次にドアの内側にもウェザーのゴムがあるから、ここもしっかり保護つや出ししておこうね。ここが劣化すると、隙間風がお尻に吹きつけてくるっていう最悪な事態に発展するからね。


 そして、ドアを開けた時、一緒に見ておくのはキッキングって言って、ドアの開口部の下の部分だね。

 ここには、靴とかで傷がつかないように樹脂のプレートがあるけど、その周囲も綺麗にしておくんだ。靴で踏んだりするところだからって、放っておくと傷が入ったり、砂が詰まって水はけが悪くなって、どちらもサビの温床になるからね。


 「ハイッ!!」


 おおっ! 良い返事だね。

 さっすが1年生はピュアで良いなぁ。

 アマゾンみたいにすぐに先輩に楯突いてくるケガレとは大違いだ。


 「私はケガレじゃないっス!」


 そうやってすぐに噛みついてくるところが、ケガレだって言ってるんだよ。


 1年生が、4枚のドアのキッキングを綺麗にしていくと、やっぱり靴の跡とみられる傷がいくつか見つかった。

 1つだけ結構深いのがあるから、後でタッチアップして、他のは薄めのコンパウンドで磨いておこうね。

 それから、半年に一回くらいは、このキッキングも外して綺麗にしよう。外し方はこの樹脂のプラスネジを緩めていくと、ネジ部分が抜けてくるから、抜いたらプレートも抜けるって寸法だよ。


 「マイ先輩! 抜けません!」


 あぁ~この樹脂のネジは弱いからすぐに噛まなくなって空回りするんだよね……。

 こういう時は、そこの千枚通しを使って、ネジの隙間に突っ込んじゃうんだよ。突っ込んで、隙間を埋めながら、プラスドライバーで回す……と。


 「出てきましたぁ~!」


 そう、このコツを覚えておくと、後々で役に立ってくるよ。

 そしてキッキングを抜くと、下に穴が開いていて、そこから水や埃がサイドシルっていって中空の空間を通って、水抜きの穴から車外に放出されるんだよ。

 その仕組みを目で見て知っておくと、どういう風なメンテナンスをすればいいかって分かってこない?


 「溜まっている砂埃を洗い流しますっ!」


 良いねぇ。


 「穴の周辺にサビや傷がないかチェックしますっ!」


 うん! 良いよぉ!!


 「マイ先輩の、セクハラをやめさせるよう徹底します!!」


 うんうん……って、なにアマゾンは、1年生に混じって余計な発言してるんだよっ!

 大体、こういう基礎的な作業は、2年生が中心となって1年生に指示を出すもんだろぉ、それを代わっているってのに、その私に文句つけるとは、どういう了見だよぉ!


 「ゴメンね、マイちゃん……私たちのせいで」


 燈梨は何も悪くなんて無いんだよ。

 問題はアマゾンただ1人だけなんだよ。

 ねぇ柚月、格闘技系連合総代として、どう思う?


 「ななみん~、ちょっと一緒に話そうか~」

 「お許しをー-!」


 さて、作業にチャチャを入れてくるアマゾンもいなくなったところで、みんなの作業を見守っていたんだ。

 そして、手の空いていそうな1年生を10人ほど集めて次の説明をした。


 この間のワイパーでも分かったと思うんだけど、元々黒いところはしっかりとその黒を保つことで、引き締まるんだよ。

 今、パッと外から見てこの車の黒いところって、どんなところがあると思う?

 

 「タイヤです!」


 うん、正しいよ。

 洗車した時に、ボディはとってもピカピカになったのに、なんか今一つ綺麗になってないような感じになった事って、経験ない?


 「いつも教習車を使った後に洗うんですけど、どうも今一つくすんだような感じになってます」


 そう、その原因の1つで、パーセンテージの高いのは、タイヤがくすんでいるからなんだよ。

 それじゃぁ、ここからは1つ上の洗車法を伝授するね。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『1つ上の洗車法って一体なに?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。 

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