第375話 ROMライターとエゴサーチ

 まったく、芙美香の口からとんでもないことが飛び出したおかげで、我が家の知りたくもない事実が次々に発覚しちゃったよ。


 あれから土日を挟んだ今日は、なんかいつもの月曜日なはずなのに、凄くモヤモヤしたものを感じちゃうんだよね。

 まったく、ウチにはクルマバカ共しかいないと分かっただけで、私の将来がとても真っ暗な感じにしか思えないよ。


 「あ~マイ~、おはよ~」


 あ、柚月だ。

 “ボカッ!”


 「痛いなぁ~、なにするんだよぉ~!」


 うるさいっ!

 柚月のせいで、私の家の週末は家庭内不和の真っただ中だったんだからねっ!

 柚月が、取説を出させたりするから……このっ! このっ!


 「痛い、痛いよぉ~!」


 当たり前だぁ、痛くなるように殴ってるんだからなぁ!

 こっちは芙美香にサディスト呼ばわりされるわ、お父さんがサディストだったって事実に直面するわ、芙美香がカークラッシャーだったって気付かされるわで、ロクなことが無かったんだからなぁ。


 「そんなの、マイの家の家庭内の問題じゃん! 私には関係ないもん~」


 なんだとぉ、柚月が余計な事をしなければ、その家庭内の問題とやらも発生しなかったんだよぉ。


 “ボカッ! バシッ! ビシッ!”


 「痛いったら~!」


 えいっ! えいっ! 柚月め、今日の私は一味違うんだからね。


 「お、マイ~! なに柚月とじゃれ合ってるんだ?」


 悠梨がやって来て間に入ったので、柚月への制裁は中断となったよ。


 ◇◆◇◆◇


 その後、優子と結衣も珍しく早くやって来たので、この間からの話をしたんだ。


 「そうだったんだ。マイのR32は、おばさんの乗っていたR32だったんだね」


 優子はしみじみと言った。

 優子のお祖父ちゃんは、ウチの爺ちゃんの同級生だけど、さすがにその息子の嫁の車の事までは知らなかったみたいだね。


 「でも、マイって自分の両親の事、本当に何も知らないんだね」


 優子は続けてため息交じりに言った。

 なんだかとげのある言い方だよね。普通はそんな自分の親の若い頃の事を根掘り葉掘りは訊かないものじゃね?


 「ウチは~、聞かなくてもおじいとか~お弟子さんが勝手に話してくれるよ~」


 柚月の家は例外じゃん。

 頼まなくてもお弟子さんなんて、リスペクトして入門してきてるんだからさ。


 「でも、ウチの父さんも、マイのおじさんがジムカーナで有名人だったって事は知ってたぞ」


 そうなの結衣? 

 そうか、結衣の所のおじさんは、昔ハチロクに乗ってた走り屋だから知ってるんだね。


 「とは言え、私も母さんの昔の事はあまり聞いたことないなぁ……無理に聞き出すのも何だしな」


 そんなもんだよね。結衣。

 私はね、私の車があの芙美香のものだったって事だけでもショックだったのに、まさか芙美香までもがクルマバカのカークラッシャーで、ウチの一族全員がクルマバカだったって事まで判明して、ショックで寝込んじゃいそうなんだよ……。


 「なんだかなー、しかも、マイのおばさんがR32とR33をぶっ壊したってのもウケるな」


 悠梨、笑い事じゃないからね。

 しかもR33に至ってはブーストの上げ過ぎっていう初歩の初歩みたいなマヌケなミスで壊してるんだよ。


 「R33はリニアチャージコンセプトで、全域で低ブーストをかけてるから、下手にブースト上げちゃいけないんだよなー」


 悠梨もすっかりR33に詳しくなったよね。その通りだよ。

 どうも芙美香の奴『ターボの効きが足りない』とか言い出して、勝手にECU書き換えた上、ブーストコントローラー取り付けて、R32の感覚でブースト圧0.9までは安全圏だとか勘違いして上げたらしいよ。


 「マイのおばさんって~、相当詳しいよね~。普通は~ECUなんて自分で書き換えられないよ~」


 さぁ、どこかに頼んだんじゃないの?

 サブコンとかなら、即書き換えられるでしょ。

 お父さんの話だと、出張に行ってる間にやられてたって言ってたから、ブーストアップは1日くらいでやったらしいよ。


 「でもって~、それでもライター店行かないとできないけど~、ウチの県だと~県境くらい行かないと~だよ」


 そんなに遠いものなの?


 「あれって、結構大きなチューニングショップじゃないとやってくれないんだよ。この辺になんてそんなにある訳ないでしょ」


 優子が冷静な口調で言った。

 でもって、お父さんの話から考えられるのはそのくらいの時間なんだよなぁ……。


 「あとは……」


 優子は続けて言った。


 「マイの家に、ライターがあるくらいしか考えられないよ」

 

 何言っちゃってるんだよ優子、ウチは、普通の家だよ。そんなもの、どこにあるって言うのさ。

 私の言葉に、みんながとっても白々しい表情になっちゃったよ。

 一体、どうしたって言うのさ?


 「あのさマイ、今までの話を聞いてて、マイの家になら、あってもおかしくないって思うのが普通だぞ」


 なんだと結衣。

 そんな事がある訳ないよ……と言おうとしたところに、優子がスマホを差し出した。


 え? なにこれ? 

 古い雑誌記事みたいだね。

 あ……『城戸芙美香』だって? あの芙美香の事もエゴサーチしたのかよぉ。

 『女性最高位で、総合3位の実力は決して伊達ではなく、実力を兼ね備えた努力派のドライバーと言えるだろう。まさにジムカーナクイーンの名に相応しい結果だ』

 あぁ……身体が痒くなってきたよ。


 「こっちにもあるぞ!」


 なんだよ悠梨、そんなものを探すなよぉ……。

 今度は、車がR32になってるよぉ。

 『ジムカーナクイーンの芙美香嬢が、遂にマシン変更した。ジムカーナに不利なスカイラインに変更した裏には、とある人物の影響があったのでは? とも噂される』

 だってぇ……くそぅ、身体中が痒いぞ!


 「これも見ろって!」


 オイ、結衣まで、いつの間にウチの親のエゴサーチ大会になったんだよ。

 今度は、昨日アルバムで見たR32のセダンになってるねぇ、しかも、ゼッケンが2枚貼ってあるよぉ。

 『チャンプの沢渡が、クイーンの芙美香嬢をモノにした衝撃のニュースから数ヶ月、夫妻のニューマシンが登場した。やはりスカイライン、しかも、旧モデルをチョイスしたところに、芙美香嬢への愛が感じられる』

 だとぉ……あんな暴力女がクイーンだなんて、どんな国なんだよ。


 「ほらマイ~、こっちこっち~」


 柚月まで何やってるんだよ。

 まだあったのか? ……って、車がR33になってるね。

 『チャンプ沢渡は夫妻で1、2位を独占した。コンパクトな4駆マシンが台頭する中で、大柄になったR33スカイラインを駆っての結果は、素晴らしいとしか言いようがない。 夫妻のスカイラインにはチャイルドシートが取り付けられており、既に次世代への英才教育が行われている模様だ』


 これって、兄貴の事じゃね?

 最悪な英才教育だな。

 それで受けた教育のおかげで、兄貴はクルマバカでカークラッシャーの迷惑者に育っちゃったんだぞ!


 もうお腹いっぱいだよ。

 ウチの親のエゴサーチはもういいから!


 「さすが、マイの家は名ドライバーを輩出する土壌があるんだよ」


 優子、目を輝かせながら妙な事言うな! 大体メイの字が間違ってるんだよ。『名』じゃなくて『迷』ドライバーだからねっ!!


 「そんな事言うと~、マイも『迷』ドライバーになっちゃうよ~」


 うるさいやい、柚月め!

 こうしてやるっ! このっ! このっ!


 「ゴメンなさい~、参りました~」


 それにしても、調子狂っちゃうなぁ……。

 


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『舞華の家には一体何が隠されているの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。 


 

 

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