第368話 3学期と色々な色

 冬休みも終わって、遂に高校生活も残すところあと僅かになっちゃったよね。

 冬休みはご来光イベントと、柚月の家のGT-Rに乗ったなんてイベントがあったくらいだけど、例年になく色々あったなぁ……って思っちゃったよ。


 年明けの学校は、やっぱり他の生徒は受験の事とかで頭がいっぱいで口数が少なめなんだよね。

 ウチの学校は進学校の部類になるから、ほぼ全員が進学なんだけど、私らみたいに推薦入学で進学が決まってる生徒もそれなりに多くて、正直二極化しちゃってるんだよ。

 とは言え、私らもこれから受験っていう生徒の前で先が決まってるからって羽目を外してるって訳にもいかないから、教室なんかでは大騒ぎしないようにしながら過ごさないといけないんだよね。


 となると、息抜きに部に顔を出す機会が多くなっちゃうんだよね。

 まぁ、今は柚月のフェンダーの塗装作業があるからってのもあるけどね。


 よしっ! 早速再開だね。

 確か前回は下地を完璧にした後で、色を乗せていって、色が乗ったところで終了にしたんだよね。

 

 塗装ブースに入ると、前回終了した時のままのフェンダーが私たちを待っていた。

 まぁ、当然なんだけど、半月も置いておいたからすっかり乾いたよね。


 「あぁ、バッチリだし、色も完全に乗って塗装面も硬くなってきてる」


 悠梨、やっぱり柔らかいとダメなものなの?


 「そりゃぁ、肌の手入れと同じで、不安定な時や荒れてる時にファンデーションとかの色物使っても乗りが悪かったり、仕上げがダメだったりするだろ?」


 あぁ、そういう例えで言われると納得できるかもね。

 車の塗装面も、安定してから仕上げにかかると良いのか。


 「そういうこと。それじゃぁ、早速今日の作業に入るよ」


 ちょっとその前に訊きたいんだけど、心なしか、前回と比べて色合いが変わってるような気がするんだけど、それは気のせいなの?


 「さすがマイ、目のつけ処が違うね。これが私が時間を置いたもう1つの理由なんだよ。塗装面が安定することで、色乗りが良くなって、前回は薄かった色合いが、しっとりと馴染んできたんだよ」


 なるほどね、塗装は奥が深いって言われるゆえんだね。

 ところで、今日の作業はなに? またやすりで磨いていくの?


 「その通り、今回はかなり細かい番手で、水研ぎの上でそーっと撫でるような感じで、それで均一の力でお願い!」


 悠梨、それ注文が多すぎて難しいよ。

 まぁ、柚月と一緒にやってみよう。ホラ柚月、やるよ。

 本来、水研ぎはご法度みたいだけど、塗料がこれだけ乗ってれば大丈夫だよねって事と、水研ぎしないと傷が入っちゃうからっていう理由で水研ぎしてるんだって。


 よし、こんなもんで良い?

 私、指先の神経をフル稼働させて磨いたからね。正直自信あるんだよ。


 「うん、おっけー」


 悠梨はフェンダーを透かすようにじっくりと眺めてから言った。

 そして悠梨は、送風機を持ってくると、フェンダーに向けて風を送った。どうやら、埃を飛ばしてるみたいだね。


 すっかり埃が飛んだ後で悠梨がガンを操作して何かを吹きつけた。

 パッと見は水に見えるけど、私もプラモを作ったから分かるよ。これってクリアーを吹きつけてるんだ。

 柚月の車もメタリック塗装だから、仕上げにクリアーを吹かないと艶消しみたいなくすんだ色になっちゃうんだけど、クリアーを吹くことで、しっとりとした艶が出て美しい仕上がりになるんだ。


 「よしっ、こんなもんで良いかな」


 悠梨がニカッとして言った。

 これでほとんどの作業が終了した。


◇◆◇◆◇


 それから3日が過ぎて、ようやく最後の仕上げが行われたよ。

 最後の磨きはコンパウンドを使って、細目→極細→鏡面仕上げの順で磨いていったら、遂に艶々のまるで鏡みたいなフェンダーになったんだ。

 それを柚月の車にあてがって見ると、懸念していた色のズレは全くと言っていいほど見られなかったよ。むしろ、持ち主の心と一緒で車が汚れてるから、塗ったフェンダーのクリアが艶々過ぎて浮いちゃうくらいでさ。


 「うるさいやい~!」


 この色って、微妙に青が混じってる上に、色焼けとかしそうだからすごく難しい色なのに、悠梨は全く違う色から見事にきっちり調色してきてマジで凄いよね。

 なんで、こんなに凄いセンスしてる悠梨が白い車に乗ってるのか、そこが世界の七不思議だよね。


 「別にそれとこれは関係ないだろーが!」


 きっと悠梨もGT-R専用色だったミッドナイトパープルとかにしたいに違いないんだよ。今回の柚月の車を練習台に、卒業式の日に悠梨の車はミッドナイトパープルに……イヤーッ!!


 「やかましい!」


 ちぇー、ノリの悪い奴。

 でもって、悠梨はどんな色がいい訳? だって、どう見ても悠梨のセンス的に白ってないじゃん!

 私は柚月がフェンダーをつけてる脇で、悠梨に聞いてみた。


 「特にこだわりはないけど、R33の場合ははっきりした色が合うと思ってるだけだよ。白とか、黒とか、濃いグレーとかね」


 あぁ、確かにS13シルビアみたいな中間色っぽい色は合わなさそうだね。

 でもって、R33の前期って、赤が特別色なんだよね。まるで今のマツダの赤みたいにさ。


 「そうなのか?」


 うん。

 スーパークリアレッドって言って、ワイン系の赤なんだけど、塗料が特殊みたいで特別塗装色だったんだよね。

 ちなみにS14シルビアにも設定されていて、そっちは最廉価のJ'sには選択不可になってたくらいの特別色だからね。

 でもって、よっぽどコストがかかる色だったみたいで、両方ともマイナーチェンジの時に廃止されてるんだよね。

 だから、R33の前期でワイン系の赤だったら特別塗装色のスーパークリアレッドなんだよ。


 「へぇー」


 あと、R33で言うとチャンピオンブルーってのも希少色だよ。


 「なにそれ?」


 GT-Rの専用色の1つなんだけど、'95年にR33ベースのGT-R LMがルマン24時間に出場して完走し、日本車として最高位の10位に入った事から、不振だったR33のテコ入れとしてそれを記念したGT-Rの特別仕様車のLMリミテッドに設定された専用色なんだよ。


 「そうなんだ」


 でも、LMリミテッドは色が目立ち過ぎたのか、反響が微妙で結構売れ残ってたから、あまりメジャーにならなかったかな……。


 「う~ん、GT-Rだと微妙な感じに見えるな……でも、タイプMだとどうなるんだろうな……」


 スマホの画面を見る悠梨は、満更でもなさそうだぞ。

 もしかしたら、チャンピオンブルーにするのかな?


 そんな色のあれこれを悠梨と話して、柚月の一連の騒動は終了と相成ったよ。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『悠梨の好みの色って何だろう?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。 

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