第367話 全制覇と水陸両用

 私はクラッチを繋ぐと、ちょっと深めにアクセルを踏んだ。

 このコースももう何度も走ってるから、道路のうねりだとか気を付けるポイントも分かってるし、1人とは言えそんな危ない領域まで飛ばすわけじゃないけど、それでもこれだけ凄い車なんだから、少しくらいはその片鱗を見てみたいっていう願望はあるんだよね。


 最初の左カーブを私のタイプMで進入するより心持ち速めの速度で入って行った。

 すると、スッと車の先端が入って行くのと同時に、カーブの中盤からは強烈な力で前から引っ張られた。

 

 うん、やっぱりだ。

 この前から引っ張られるのは、スカイライン独自の4WD、アテーサE-TSの挙動でFRで進入した後、スリップを感知して前輪が介入してきたって事なんだけど、やっぱり柚月のGTS-4よりもクイックに動いている感じが強いんだ。

 やっぱりパワーが強力な分、押し出す力が適度に強いんだろうね。むしろ柚月のGTS-4は完全に安定したシャーシ性能を持つ完璧な車なんだって事がこの車に乗った事でよく分かるよね。

 4WDなんだけど、私のタイプMに近い挙動を持っていて、でも、FRのタイプMとも明確に違う不思議な車なんだよ。


 ちょっと長めの直線だね。

 私の後ろは燈梨のシルビアで、柚月はあやかんのNXクーペに乗ってるのか……だったら、追ってこられないから安心だね。


 ちょっとアクセルを踏み込んで、直線ダッシュしてみようっと。

 ……っ!!

 うわっ!? 凄いねこの車! の一言だよ。

 そして、こんな車に最初に乗って、きっと他の車に乗り換えたら事故っちゃうかもっていうくらい、車側のアシストが凄いんだなぁ……って思っちゃった瞬間だよ。

 私自身でも予想外にアクセル踏んじゃって、ちょっと危ないかも……って思っちゃったけど、ホイールスピンすることなく推進力に変えて車を前に引っ張りながらも押し出してくれてるんだよね。


 このエンジンのパワーを活かすための4WDなんだっていうのが凄くよく分かる瞬間だよ。

 私のタイプMでこのくらいアクセル踏んじゃったら、タイヤがキュオオオオオ……って音を立ててホイールスピンしちゃって前に進まないか、下手したら横滑りしちゃうんだけど、カタログ値で3割増しのパワーで同じように加速してるのに、何事も無かったかのように推進力に変えられるってのが凄いんだよ。


 しかも、4WD状態で走ってるのに素直に曲がっていくっていうのが更に凄くてさ、部にあるサファリなんて4WDにしてハンドル操作すると、如実にゴリゴリいって『曲がってくれるなよ!』的空気を醸し出してるのに、このGT-Rの素直な曲がりは、一瞬4WDであることを忘れさせてくれるくらい素直な感じで曲がれちゃうんだよね。


 ここからは、カーブが続いていく区間だから、車の潜在能力が分かるよね。

 この車の自然な感じで効いている4WDが、最も効果的に感じられるのがこういう区間だからね、だから、正直楽しみで仕方なかったりするんだ。


 強力なエンジンで直線路を駆け抜けた後、ブレーキで速度を落としつつ、重いエンジンの重量とブレーキによる慣性力で、車の重量を全て前寄りに持っていくようなイメージで、前傾姿勢が取れたところでハンドルを少しずつ切っていって、グリップを確かめていく。

 スカイラインはバランスが前寄りな傾向があるから、ハンドルを切りやすいんだけど、同時に前が重いっていう事でもあるから、調子に乗ってハンドルを切りすぎると、前輪がキュオオオオって鳴きはじめるから、その境目のギリギリを見極めて走るのが最も速いんだ。


 そして、曲がったなっていうのが体感で感じられるくらいになったら、アクセルを踏み込んでいくんだ。

 ここで私のタイプMの場合は、もうワンテンポ待たないと後輪が鳴いちゃって、グリップしてくれないけど、GT-Rの場合は少し早めにアクセルを開けちゃっても大丈夫なんだよ。


 ほらっ!

 なんか、同じR32型のスカイラインなのに走らせ方が全く違うんだよ。

 私のタイプMが、薄氷の上を一歩一歩確かめながら渡っているのに対して、このGT-Rは、水陸両用だから、氷が割れても大丈夫的な感じで進んで行ける……みたいな感じかな?


 そして、そこからアクセルを踏んでいった時に得られるパワーが段違いにあるから、速いったらありゃしないんだよね。

 私が走らせて体感的に自分の車との差が明確だから、きっとタイムなんか取ったら、恐ろしいくらいの違いになるんだろうね。


 この辺からは更にきついカーブが続いてくるんだ。

 こういう低速主体のヘアピンカーブとかになると、さすがに重さが効いてくるのか、さっきまでの無敵感とは一変して、どうしても外への膨らみが気になっちゃうようになるんだ。

 まぁ、車自体の大きさもそこそこあるし、車自体の性格も高速主体だから、どうしてもこういう区間に関しては、やや苦手っていう言い方もできるよね。

 ただ、低速からのダッシュは相変わらず強いから、こういう区間でも平常心で持ちこたえられれば良いと思うよ。


 全てにおいて強い車ってのは世の中に存在しないんだよ。

 だから兄貴がGT-Rに乗ってた時も、シビックと一緒に持っていて、街乗りとカーブのきついコースに走りに行く時は、いつもシビックで出かけてたからね。

 兄貴曰く『悪魔の組み合わせ』だったらしいよ。

 当時は意味分かんなかったけど、今となっては何となくだけど、分かるんだよね。


 低速のヘアピン区間を抜けると、遂に頂上を越えて、ここからは下り区間に入ってくるのと同時に、またカーブが緩くなってくるんだ。

 その区間に入ったら、またこの車が俄然楽しくなってくるよね。

 ただ、さっきまでと違って下りに入って、慣性の法則で止まり辛くなるから、アクセルの開け過ぎには注意だよね。


 この車の走らせ方で思うのは、ダラダラした感じじゃなくて、メリハリをしっかりつけた走りが一番速いんだよね。

 だから、カーブでダラダラスピードを上げて、漫然とグリップしていくんじゃなくて、このカーブをどのくらいのスピードでなら安全に抜けられるのかを目算して、そこに合わせて先もって減速しておく、そして、立ち上がりの圧倒的なパワーで短距離で加速していく。

 この繰り返しこそが、この車を最も速く走らせる方法だね。ドリフト走行がしたいんだったらタイプMのハイキャスキャンセルでもするか、ぶっちゃけスカイラインじゃなくてシルビアの方が向いてるよね。


 そう、そしてハイキャスなんだよ。

 この車の曲がりをサポートしていて、切っても切れない関係になってるのがハイキャスだよね。

 私のタイプMも充分ハイキャスの動きが感じられるんだけど、このGT-Rのそれは、切っても切れない関係だってのを改めて認識させてくれるんだよ。

 カーブでの曲がりを確実にサポートしてくれて、曲がりやすくクイックに導いてくれているのが凄くよく感じられるんだ。

 恐らく、ハイキャスが働いてなかったら、GT-Rは曲がる時に思い切り外に膨らんじゃって、アクセルを開けるタイミングがもっと遅くなってくると思うんだよね。


 うん、この車がハイテク戦闘機だって言われる理由が分かってきたよ。

 私も思えば色々なR32に乗ってきたけど、唯一抜けていたのがGT-Rだったからね。

 今回は凄く勉強になったよ。これを知らずしてR32について語るのは、やっぱり少し違う気がするんだよ。


 それにしてもさ、CA18搭載車からGTE、GTS、GTS-t、GTS25、そしてGT-Rって制覇したJKなんてさ、全国で……いや、全世界でも私らだけじゃね?

 そう考えると凄い事をしたような気になるけど、私的に全く嬉しくないのはなんでだろ?


 そう考えているうちに、学校の前に到着したよ。


 

──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『R32全制覇って凄くない?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る