第364話 年明けと1つの誘い

 年明けは、悠梨の伯父さんの別荘で過ごしたんだ。

 正確には、元旦はオリオリさんの知り合いの別荘で迎えたんだけど、イベント的には悠梨の伯父さんの別荘っていう触れ込みだからね。


 燈梨やアマゾン、沙綾ちゃんに若菜ちゃんや七菜葉ちゃん、陽菜ちゃんなんかも呼んで大人数で楽しかったよ。

 向こうも唯花さん達4人と、今回初めて桃華とうかさんっていう、高校生の頃、唯花さん達のグループのリーダー格だった人とも会ったんだ。見た目は結構目つきがきつくて、冷たい感じのする人なんだけど、そんな事なくて、楽しくてイイ人だったんだ。


 唯花さん達が言い出して、年越しは闇鍋そばになったんだけど、あのフー子さんって人は要注意らしくて、あとの4人と、オリオリさんからマークされてたよ。

 今回は、フー子さんが生クリーム入れたおかげで、妙に甘いそばになっちゃったんだけど、燈梨や唯花さんなんかが言うには『今回はかなりまとも』なんだって、一体あの人は、どんなものを入れていたのか、ちょっと気にはなっちゃったんだよね。


 その後で、色々な部屋を見せて貰ったんだ。

 地下室があって、そこにはワインセラーや、大型モニターのあるシアタールームなんかもあって、凄かったんだよね。

 なんか、みんなとシアタールームで映画見てた時、トイレ行こうとして方角間違えちゃって、入った部屋が、なんかテレビで見るような射撃場だった気がするんだけど、きっと見間違いだと思うんだよね。

 後で唯花さんに訊いたら、見間違いだって言われたから間違いないね……ただ、あの時の唯花さんの目がマジだった気がするのは、唯花さんがワイン飲んでたからだよね。


 そして、メインのご来光なんだけど、バッチリ見えたんだよ。

 私らは寝ちゃってて、オリオリさん達大人組に起こして貰って、コーヒー飲みながら待ってたんだけど、山並みの向こうから現れた太陽が昇っていく瞬間を見る事ができたのは感動だよね。


 私らの街からだと標高が足らないのと、建物が多いせいで、こんな綺麗なのは見られないんだよね。

 こっちは別荘地で高台に建っていて、綺麗に山々が見渡せる立地になってるから、こんなに綺麗に見えるんだろうね。


 そして、元旦は、悠梨の伯父さんの別荘にみんなで行って、おせち食べながら、カラオケしたり、持ってきた羽根つきしたりして楽しかったんだよ。

 きっと、お酒が飲めるようになったら、もっと楽しくなるんだろうなって思うし、オリオリさんたちも言ってたよ。

 『お酒が飲めるようになったら、セラー開けて楽しもう』

 ってね。


 楽しい3日間を過ごした後は、特に面白い事も無く、しばらくは学校にも行けないから作業も中断だし、する事もなく家でゴロゴロしてたら、柚月が訪ねてきたんだ。


 どしたの柚月? 

 今年は餅つきやってないから、お餅配りに来たって訳でもなさそうだし。


 「ちょっと~、一緒に来てよ~」


 なんだよ、私は柚月と違って暇じゃないんだよ、これから家でゴロゴロするっていう重要なミッションがあってね……。


 「そんな事より~、楽しいからさ~」


 なんだ、ケンメリGT-Rより貴重な私の睡眠をそんな事呼ばわりとは、大体柚月はねぇ……。

 柚月に手を引っ張られて無理矢理サニーの助手席に放り込まれると、柚月は有無を言わさずに出発した。


 なんか、柚月の家の方に向かってるんだけどさ、一体なにしようってのさ。

 言っとくけど、私は柚月の家の餅つきを手伝うつもりはないよ!


 「そんな事しないよ~」


 って言ってる間にも、どんどん進んでいってここは柚月の家じゃないか!

 だから、柚月の家の餅つきは手伝わないって言っただろ!


 「今年は~餅つきやってないよ~」


 そうなの?

 だったら何の用なのさ。まさか、道場の片付けを手伝わせようってんじゃないでしょうね!


 「違うったら~」


 なにせ柚月には前科があるんだからさ、そうやすやすとは信用できないんだよ。

 柚月の家に到着すると、車から降りた柚月が隣に置いてあるGT-Rを指さして言った。


 「これに乗ろうよ~」


 私は耳を疑った。

 えっ!? これって、GT-Rでしょ。柚月が勝手に乗って行っていいの?


 「借りたんだよ~」


 借りたって、よくそんな簡単に貸してくれたね。

 今年は雪が少ないとはいえ、冬場の道路には塩カルという大敵が潜んでいるのに、貸してくれるんだね。


 「だから~、終わったら洗うんだよ~」


 ん!? なんかおかしいぞ。

 もしかして、柚月の奴はおじさんに洗車を頼まれてたんじゃないの? だからってそのついでに、勝手に持ち出そうとしたんじゃない?


 「勝手に持ち出したりなんて、してないよ~」


 そうかな? 柚月、姉さんの目を見て言うんだよ。


 「マイは、姉さんなんかじゃないやい~!」


 なんだとこの野郎! 柚月め、成敗してくれる!


 「参りました~」


◇◆◇◆◇


 おじさんに訊いたら、良いってさ。

 『マイちゃんだったら、春になってから好きな時に乗って行っていいからね』

 なんて言っちゃってさ、一体どういう風の吹き回しなんだろ?


 それじゃぁ、折角のご厚意だし素直に甘えておこうかな。

 実は、兄貴の車として乗った事はいくらもあるんだけど、自分で運転した事ってのは一度も無いんだよ。

 ちょっと緊張しちゃうけど、まぁ落ち着いてゆっくり動かそうね。同じR32とは言え、どんな動きするのかは分からないからさ。


 室内には特にブースト計以外のメーターやコントローラーは付いてないから、恐らく吸排気系だけの基本ノーマルだと思うんだよ。

 そしたら、定番だけど学校を過ぎて向こうの県まで行って道の駅でUターンして帰ってくるってルートで行こうかぁ。


 まぁ、柚月の家を出る前の段階で分かった事は、結構クラッチからの反動が大きいって事だよね。

 確か、柚月の家にあるのは最終型だから、クラッチの方式がタイプM以下のものとは基本の方式が違って、少し軽くなったんだよね。

 だけど、それでもこのなんて言うんだろ、反動というか脈動と言うか、そう脈動だ! 良い表現を思いついたぞ。 この脈動が足の裏に凄くビンビンと伝わってくるんだよね。この感覚って何だろって、素直に驚いちゃう感じなんだよね。


 そして、このシフトレバーの動きと重みも、また私のタイプMとは違うものだよね。

 確かに私のタイプMもレバー自体はこれと同じものだよ。

 だけど、シフト自体の重みはここまでガッチリしたものじゃないんだよね。うん、もう重みが全く違うんだよね。

 きっとシフトレバーを交換する前の私だったら、自分の車のシフトの動きのちゃちさが、ちょっと嫌になっちゃうんじゃないかってくらいの違いに感じられたよね。


 「確かに~、クラッチとシフトの重さは、私も凄く感じたかな~」


 だよね。

 これが感じられないとしたら、よっぽどの不感症か、普段から凄い車に乗ってるかのどっちかだよね。


 早速クラッチを繋いで出発しよう……そう言えば柚月、このクラッチって純正品なの?


 「確か~予防安全的に、社外品の大容量にしてるって言ってた~。ツインプレートとかではないらしいよ~」


 なるほどね、今の柚月の言葉でも分かったけど、このGT-R、基本的にノーマルだね。だけど、クラッチなんかは余裕を見て大きめにしておいた方が安心だから、ちょっと大きめの社外品にしたんだ。

 純正でも大容量だけど、マフラーとかで上がったパワー分を吸収させて、全開走行も安心できるようにって考えなんだろうね。


 そうと分かれば安心して走れるね。

 それじゃぁ、さっそく出発するよっ!

 私は、クラッチを静かに繋ぐと、柚月の家を滑るように出発していった。


 そう、その時は、まさかその姿を後ろから観察されていたなんて思ってもみなかったんだよ。


 

 ──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『GT-Rって、やっぱり全然違うものなの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。 

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