第359話 埃とガシガシ

■まえがき

 昨夜の地震により停電があり、書く事ができなかったため、本日の話はいつもより文字数が少なめです。


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 柚月のGTS-4を塗装ブースに入れる前に、悠梨が言った。


 「水洗いして」

 「え~、なんで~?」


 柚月が噛みついたが


 「塗装は埃が大敵って知ってるだろ? 柚月は。それにそんな汚れた上から塗料なんて乗せられないから」


 と言われて納得したようだった。


 そうだね、柚月はプラモとか作ってて塗装に拘ってたはずだから、そのくらい知ってるもんだと思ってたけど、案外抜けてるね。

 それとも、本物の柚月は宇宙人に連行されちゃったのかな?


 「うるさいやい~!」


 ガレージの前で柚月の車を水洗いさせると、結構汚れがついていたよ。

 心が汚れてると車も汚れてるって話を聞いたことがあるけど、まさにその通りだね。柚月の汚れた心を鏡写しにしてるみたいだよ。


 「そんな事、ないやい~!」


 洗車が終わると、ブースの中にGTS-4を運んだ。

 いつもこのブースの中は、埃っぽくならないように注意してるんだけど、今日はそれに輪がかかっていて、車が入った途端に、悠梨はブースの奥にあった大きな送風機のスイッチを入れたんだ。


 「ばびぶるんらろなにするんだよ~!」


 柚月が叫んだけど、悠梨は送風機の向こうから


 「埃は大敵だって言っただろ~。とにかく外部から来たものと、塗装の対象の柚月の車からは埃を飛ばすんだよ」


 と表情一つ変えずに言ったんだ。

 そうそう、柚月みたいな埃は、飛んで行っておしまい! それに、こいつは柚菌っていう菌だしね。


 「ユズヒンって、言うなろ~!」


 埃を飛ばしたところで、ブースを締め切った悠梨は防塵マスクをすると次の作業に入った。


 「2人共、これでフェンダーを磨いていって。適当でいいから、満遍なくね」


 と悠梨は言うと、私らに紙やすりを渡した。

 ちょっと待って悠梨。磨くって言っても、これで磨いたら、鏡面が傷だらけになるんじゃね?


 「そうだよ~、悠梨、やってる事が逆だよ~」


 柚月も言ったが、悠梨は次の瞬間


 「このフェンダーって、今まで綺麗にしてあったんだよ。だから、それが故にワックスとかがかかっていて、新しい塗料の喰いつきを悪くしてるんだ。これの傷なんて下地塗装で消えるから、満遍なくやっていっちゃうんだよ」


 と言って、自分からフェンダーにやすりがけを始めていった。

 分かったよ。そういう事なら早速始めないとね。

 私は、渡された紙やすりを持って、ガシガシとフェンダーを一定の力で幅広く擦っていった。


 柚月は何故か始めようとしたものの、キョロキョロして動かないので、私は言った。

 柚月、アンタもやりなさいよ! 自分の車でしょ!


 「なんで水がないの~?」


 柚月は言った。

 それを聞いて私は気がついた。

 そう言われてみれば、夏休みに柚月の家でプラモ作った時、水研ぎって言って紙やすりを水につけてたなぁ。

 私もプラモ作るんだけど、確かに無意識に水を紙コップに注いで用意しちゃうもんね。


 すると、悠梨は


 「この作業の場合は、水は使わないんだよ。もし、この段階で地金じがねが露出してるところに水が入って、その上から塗装しちゃうと、塗装の下で錆が発生するだろ?」


 と言ったんだ。


 そうか、なるほどね。

 プラモの場合は、削りカスが出てくるのと、そのカスでやすりの目が詰まるのを避けるために水研ぎしてたんだけど、下地がプラスチックだから問題なかったんだ。

 でも、実車の場合は塗装を剥いた下地は鉄だから、そこに水が入り込むと錆の原因になっちゃうんだね。

 だから必要になる防塵マスクだったのかぁ……。

 そうと分かれば、とにかくガシガシやっていっちゃおう。


ガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシ


 ……どうかな? ボンネットも開けて、フェンダーの裏側も含めて結構ガシガシ満遍なく磨きができたと思うけど。


 「こんなもんだね」


 良かった。これで第一段階は終了だね。

 そして、次は?

 

 「そしたら、このフェンダーを外しちゃおう」

 「ええー---!?」


 悠梨の発言に私と柚月が同時に驚いた。

 それじゃ、何のためにフェンダー交換したの? ここまで持って来ておいて、外すの?


 「そうだぞ悠梨~、これじゃぁ、私らの頑張りが無駄じゃん~!」


 柚月も噛みついてきたが、悠梨はそれを制して言った。


 「付けたままだとフェンダーの裏側までしっかり塗れないんだよ。そうなると縁の部分の塗りが甘くて、ボンネット開けたり、バンパーとの際の所を見た時に、元の黒が顔を出すことになっちゃうんだよ。それでいいの?」

 「ううっ……」


 柚月はその言葉に黙ってしまった。

 そうなったら、やるしかないね。

 私と柚月は当該箇所のボルトを外すと、フェンダーとバンパーを外したんだ。

 すると、悠梨が固く絞った雑巾を持って来て


 「これで洗って」


 と言って、自分でも雑巾でフェンダーを拭き始めたんだ。

 なるほど、水洗いはできないけど、さっきの削りカスとかはあるもんね。固く絞った雑巾でなら、なんとか洗えるって事だね。


 よしっ! 満遍なく拭いていこう!

 ……綺麗に拭けたね。

 柚月はどう? 


 「おっけ~。裏側まで綺麗に拭けたよ~」


 それで悠梨、この後はどうするの?


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『この後は遂に塗装に入るの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。 

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