第358話 最強マシーンとバッジの色

 それじゃぁ、レシピができたところで調合してみようよ。

 私と悠梨は早速調合を開始した。


 実はね、この間水野がどこからか持ってきた調合マシーンがあるんだよ。

 操作パネルに配合量を打ち込むと、なんと自動で調合して缶の中に注入してくれる優れものなんだよ。


 しかし、これって元々なんの機械なんだろうね?

 ペンキなんか入れていいのかな?


 「これって、恐らくカー用品店に置いてあった、実際のタッチアップペイントの調合用マシーンだと思うよ。確か、麓のカー用品店にもあると思う」


 そうなの優子?

 確かに、操作のタッチパネルなんかが明らかに塗料の調合用に見えるし、なんか不自然に真っ黒に塗られた機械本体も気になるしね。

 なんか、元々は商品名とかが書かれてたのを、分からなくするために塗ったように見えるね。

 ……って事は、まさか水野の奴、どこかのカー用品店に忍び込んで盗んできたのかぁ?

 まずいぞアイツ! ただでも不審人物なのに、遂に泥棒なんかしたのか!

 こうなったら、悠梨の作業が終わったところで、警察に通報しないと! 取り敢えず今回のところまでは終わらせたところで通報しようね。その後に気がついたって事にしようよ。


 よし、こうすれば水野は今度という今度こそ刑務所行きになるぞ。

 だけど、私らの素早い通報の功績が認められて、部だけは何とか存続の形に持ち込めるようにしないと、燈梨たちに迷惑がかかっちゃうからね。

 どう悠梨? 順調?


 「あぁ、この機械、凄く調子がいいからあと10分かからないで必要な量が配合できると思うよ」


 よしっ! でかした悠梨!

 そろそろ通報しないと、ところで110番ひゃくとうばんって、何番だったっけ?


 「マイ! 落ち着いてってば!」


 ええ~い! 止めるな優子!

 これは正義と悪との闘いなんだよ!

 そして立派な危機管理だよ。悪い事を発見した場合は、最初のうちにすべてを明らかにしておいた方が、後で発覚した時に、被害を最小限にできるんだよ。


 取り敢えず早くあいつをお縄にしてもらわなきゃね。

 って、なに優子? いきなり私の前に立ちはだかって?


 「あれ、盗んだ物じゃないと思うよ」


 どうしてよ優子? だって、アイツは本来店舗にしかないはずの調色マシーンを持っていて、しかもそのマシーンも後から真っ黒に塗られていて怪しさ満点なんだよ! 盗んでないんだったら、一体何だったっての?


 「恐らく、どこかの古道具屋さんかなんかで見つけたんじゃないの?」


 あぁ、確かに水野の奴なら古道具屋さんとか好きそうだもんな。

 そこで見つけて買って帰ってきたってかぁ……確かに、整合性は取れそうだね。

 なに? 恐らく水野が最初に見た時から真っ黒に塗られた状態だった可能性が高いって?


 う~ん、優子がそこまで言うなら仕方がないなぁ……今回に限っては水野の奴を見逃してやるかぁ……。でもって、私はアイツを刑務所送りにしようって思いは1ミリも変わってないんだからねっ!


 「マイ、学校でそんな物騒な事、言わないようにしようよ」

 

 優子が言うと


 「そのマシーンの出所は、今のところ私らにも分からないんだから、水野がどこからか買ってきたっていう事にして、こっちの作業を進めちゃおうぜ」


 と悠梨も同調した。

 それじゃぁ、このスペシャルブレンドを、早速柚月の車に吹きつけていくんだね。

 よしっ、それじゃぁ早速柚月に連絡してみよう。


◇◆◇◆◇


 柚月と結衣が、柚月のGTS-4に乗ってやって来た。

 おぉ、ようやくバンパーとフェンダーが取りついてるよ。

 よしっ! じゃぁ今からはじめようね。


 「ところで~どうやって塗っていくの~?」


 柚月が訊いてきたので、私は言った。

 柚月の車をブースに入れて塗って、乾かすっていう工程は変わらない。

 だから、しばらくは柚月の車は使えないよ。


 「なんで~?」


 言った通りだよ。

 普通の鈑金屋さんだって、普通に車を預かって塗装したら即日になんて返してくれないだろ。

 悠梨、実際どのくらいかかりそう?


 「ベストにするなら、1週間は欲しいところだね」


 なになに? 部のノートみたいに取り敢えずそこそこの綺麗さが保てて、その上でまた塗り直すなら、3日くらい置いておけば良いけど、自家用車をしっかり塗るんであれば、塗装が柔らかいうちは寝かせておかないと、後で剥げたり、褪せたりしちゃうから、最低1週間、できれば半月くらいは欲しいって?


 なるほど、表面が柔らかいうちは気が抜けないんだね。なんか、塗料って生き物みたいでデリケートなんだね。


 「敢えて言うなら、肌に近い感じだよね」


 あぁ、確かに。

 悠梨が言ってる事って、お肌の手入れにも一脈通じるものがあるもんね。

 塗装って奥が深い世界なんだね。


 「ええ~~っ!! そしたら~冬休み中の私の足は~?」


 なんだよ柚月、しょうがないでしょ。

 そもそも、ぶつけてフェンダー塗り直さなくちゃならなくしたのは他ならぬ柚月なんだからさ、文句言わないの!


 大体足だったら、バイクがあるでしょ、バイクが。

 まだ冬用タイヤだって残ってるんでしょ? 文句なしじゃん!


 「寒いよー-!」


 大丈夫大丈夫、去年までだって普通にバイクで過ごしてたんだし、そうだ! 柚月確か、2年の春にハンドルの握りのところにヒーターつけたって言ってたじゃん! 防寒対策もバッチリバッチリ!


 「イヤだー!」


 うるさいな、文句ばっかり言ってるんじゃないの!

 大体、冬休み中なんだから、部車は貸せないからね!

 前に柚月に貸したのだって、本来はヤバいけど、平日の通学に使わせるくらいなら言い訳できるからって貸したんだからさ。

 冬休み中に柚月に貸して、万一の事が起こっちゃったら、責任問題なんだから。


 「イヤだイヤだイヤだー-!!」


 ささっ、柚月は無視してとっとと進めよう。

 まずは何をすればいいの?

 フェンダーについてるエンブレムを外して、テープ跡を綺麗に剥がすのね。

 ……って、このエンブレムって後期型用じゃね?


 「どこが違うんだ?」


 結衣のような、後期ばかり乗り継ぐブルジョワジーには分からないんだね。

 GTバッジが前期は小ぶりで銀色なのに対して、後期はちょっと大きくなって色付きになるんだよ。

 ……しかも、これって青だから、タイプMじゃないね。


 「なにそれ?」


 おおっ!? 結衣はスカイライン乗りのくせに、GTバッジの色の法則を知らないのか?

 スカイラインの歴代モデルのサイドには、盾形でGTと書かれたエンブレムがあるんだけど、それのGの文字とT側のベース地の色が最強グレードとそれ以外によって色分けされてるんだよ。

 ちなみにR32の後期では、タイプMだけが赤で、その他のグレードは青、そしてスカイライン35周年記念特別仕様の、GTEタイプX・Vだけには緑バッジが採用されてるんだよ。


 「じゃぁ~GXiは何色なんだよ~!」


 “ビシッ”


 「痛い~!」


 なにをたわけた事言ってるんだ。考えてから発言しなよ。

 GXiはGTじゃないから、GTバッジなどつくわけがなかろう。

 でも、R30型まではTIにもTIバッジがついてたんだけどね。

 ちなみにTIバッジの場合は、GTとは色が逆転して、T側のベースとIの文字に色がついてるんだよね。


 「マイ、それじゃぁRSの場合はどうなるんだ?」


 結衣は良いところに着目したね。

 RSバッジも存在するよ。だから、R30型にはRSとGTそれぞれに赤バッジが存在するんだよ。

 更に言うと、ジャパンにはTI-ESというTIのスポーティバージョンが存在したから、TIの赤バッジも存在したんだよね。


 「へぇ~」

 「全然、感心しない~!」


 なんだよ柚月、そうだ。

 はい、今そこのフェンダーから外した青のGTバッジ。車が直るまでバイクにでも貼ってなよ。


 「しない~!」


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『柚月はバイクでこの冬を過ごすの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。 

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