第355話 醤油と野次馬
まったく、お昼はとんでもない話になっちゃって、とんだ目に遭っちゃったよ。
さて、放課後になったからみんなで柚月の家に行って、様子を見てみようよ。
やっぱりみんなでやると、捗るよね。
あっという間にフェンダーとバンパーが外れて、内部がよく見えるようになったからね。
うん、見た感じは、中は大丈夫そうだね。
フレームの曲がりも無いし、外装以外に損傷してる箇所もないよ。
てっきりラジエターくらい潰れちゃってるかなって思ったけど、それもないから、純粋に外装の交換だけでいけそうだね。
ライト脇のマーカーランプと、バンパーと右のフェンダーがあれば、修理は完了だね。
良かった良かった。一時はどうなるかと思ったけど、これでサクッと解決だね。
今からだと暗くなっちゃうから、明日にでも解体屋さんに行って、バンパーとフェンダーを探して来ようよ。
「たださ、マイ。問題はその後だと思うな」
なに悠梨? なんでそんな含みのある言い方してるの? そんなに問題になるような事なんてあるかな?
私は、その時は分かってなかったんだよ。悠梨の言ったことの本当の意味ってやつをさ……。
◇◆◇◆◇
翌日は終業式で、午前で学校が終わったので、午後からみんなで解体屋さんに集合したんだ。
さすが、ここの解体屋さんは色々な車があるし、その中でも地域柄、日産が強いっていうのもあって、日産車の部品には困らないレベルなんだよね。
R32もゴロゴロしていて、バラされた部品の在庫も豊富なので、私らは、手分けして、ヤードにある車とバラされた部品の方から、それぞれ柚月の車に合うのを探してみたんだ。
私と優子は、ヤードを探したんだけどダメだったね。
年式的に、ほとんどが後期型ばっかりで、前期型専用色の柚月の色と同じ車は、皆無だったよ。
なので、私と優子も部品庫の方に合流した。
私らの姿を見た柚月が
「どうだった~?」
と訊いてきた。
あっちはダメだったね。ほとんど後期型ばっかりで、あれと同じ色のタマは無かったよ。
ところでそっちの状況は?
「こっちもダメだなー。唯一見つかったのはマーカーランプだけ」
結衣が苦虫を嚙み潰したような表情で言った。
そうかぁ……じゃぁ、色違いで代用するしかないかなぁ……。
「イヤだ~!」
そんな事言ったって、無いものは探せないんだから、どうにもならないだろ。
さて、現状どれが柚月の車の色に似てるかだね。
柚月の車は、前期型専用色のグレーなんだけど、あの色ってパッと見、どう見ても青が混ざってるんだよね。
暗めのグレー感を出すために、意図的に配合してるんだけど、この青の微妙な配合が、単純な流用を阻んでるんだよね。
後期型で似た色合いって言うと、ガングレーメタリックとか、結衣の乗ってるグレイッシュブルーパールとかなんだけど、どっちも、遠目で見てもバレちゃうくらい、色合いが違ってるから、単純にポン付けは難しいかな……。
「いい事思いついたぞー。ここに、グレイッシュブルーのフェンダーがあるから、これを買って、テレビドラマの小道具みたいに醤油を塗ってくすませるんだよ」
「イヤだー!」
結衣が言って、柚月が即座に拒否した。
さすがにちょっと無理があるよ。
しかも醬油なんて、水溶性なんだからさ、雨が降ったら流れちゃうよ。
「そうかー、いいアイデアだと思ったんだけどなー」
「いいアイデアなもんか~!」
結衣がため息交じりに言うと、柚月がその言葉に噛みついた。
しかし、結衣は、ホントにそれで上手くいくと思ってたのかな?
それにしても柚月はイヤだイヤだって、そんなにみんなが必死に考えてるのに文句ばっかり言ってないで、柚月なりの対案を出しなさいよ。
「ううっ……」
ホラ見ろ何にもないじゃん!
現状に反対するんなら、何か自分なりの解決策を出さないと、ただのヤジになるんだからね。
という事で、や~い、柚月の野次馬~! 飛べない豚のくせに野次馬~!
「豚なんかじゃ、ないやい~!」
だったら、みんなの案に文句ばっかり言ってるんじゃないの!
それにしても、私の思いつく一番有効な案って言っても、パッと見色ズレが大きく無いガングレーとか黒とかのフェンダーと、バンパーで誤魔化すって手だよね。
そして、バンパーに関してはさほど損傷がひどくないから、補修して再利用って手だよね。
柚月と私のは、オプションのエアロバンパーなんだよ。だから、ここにだって何本かしか在庫してないんだよね。しかも、結構傷だらけで汚いし……。
「エアロバンパーは、低いから結構擦っちゃうんだよね」
優子が言ったけど、そもそも優子の車はノーマルバンパーじゃなかった?
「一般論だよ」
そうなのか?
そして、私は知恵を絞って、ある人に尋ねてみた。
悠梨、どうにかできる?
「やってみないと……だよなぁ~」
そうか、だとすると、ここで適当なフェンダー1枚買って行って、塗ってみるって訳にもいかないかぁ……。
すると、おじさんがヒョイっと顔を出すと
「おぉっ! 色が合わなくて困ってるのかい? ベストはプロに任せるだけど、沙和子から自動車部にはブースがあるって聞いたぞ。だから、今ある壊れたフェンダーで調色のテストをすればいい」
とニカッとして言った。
なんか今、おじさんが水野の事を下の名前で呼んでなかったか?
この2人の関係ってなに? と思って、口に出そうとしたが
直後に悠梨が
「そうか! 今ある壊れたやつで調色してみて、できたらウチらで塗ればいいじゃん! ダメだったら、問答無用で板金屋さんに行けばいいんだし」
そうなの? 悠梨、できそう?
「マイ、ウチらって、バンドの時もそうだったけどさ『できそう』なんじゃなくって、『やる』んだろ? いっつもそうやってきたじゃん!」
そうか! とにかくやれるだけやってみて、ダメだったら、その時また考えればいいんだよね!
「そういう事だよ!」
あぁ、なんか、今の言葉を聞いてると、涼香に誘われて軽音楽部に入った頃を思い出しちゃったよ。
美沙とはすぐ仲良くなったんだけど、香菜美と悠梨は、私と最初の頃は口もきいてくれないし、悠梨なんて最初の頃、私にガン飛ばしてたもんね。
だけど、初めてのコンサートのリハの時、なかなか1パートだけ上手くいかなくて不安になってる私に、悠梨が、さっきの言葉を言ったんだよね。
なんかさ、私もそれを聞いて、根拠は無いんだけど凄く上手くいくような気がしてきちゃったよ。
柚月、取り敢えずやるよ。
アンタの車は、取り敢えず悠梨のチャレンジが終わるまで、黒かガングレーのフェンダーかバンパーでも付けておきなさいよ!
「ええ~!?」
ガタガタ文句言わないの!
それともここでパンツ脱ぐ?
「イヤだよ~!」
だったら、それで決まりだね。
結衣、優子。
どの色が違和感が無いか、今から私と柚月も入れて選んじゃおうよ。
「おっけー!」
「分かったよ」
私ら4人が、柚月のフェンダーとバンパーを選んでいる間、悠梨はおじさんに呼ばれて、奥の方へと姿を消しちゃったよ。
まぁ、いいや。
私らはフェンダーを選ぼう。
後から塗っちゃう前提だから、艶が引けてるとか、ちょっとした傷は良いとしても、へこみや錆の少ないものを探そうね。
「この黒なんて良いんじゃね?」
どれどれ結衣……結構上物だね。
へこみも無いし、傷もほとんどない。しかもワックスをマメにかけていた特有の跡があるから、これはステイだね。
「マイ、このガングレーは?」
優子のガングレーは、極上物だね。
ピカピカの
でもこれは、上から塗るの勿体無いから、やめておこう。このフェンダーは同じ色の人の車にそのまま活かすのがベストだよ。
こんな汚れ切った柚月の車に、そんなピカピカのフェンダーなんて勿体ないからね。
「私は~汚れ切ってなんてないやい~!」
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『悠梨は一体どこに消えたの?』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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