第354話 親子三代の秘密
お昼に部室で昨日の話をしたところ、驚いたのは燈梨だけだった。
あれ? アマゾンや、沙綾ちゃんは、なんで平然としてるんだろ?
「ズッキー先輩のお父さんがGT-Rに乗ってる話は、道場の人達は結構知ってるっスよ」
そうなの? 柚月の奴は、私らにだけ隠してたっての?
アマゾンの話に噛みつく私に、沙綾ちゃんが言った。
「ズッキー先輩は、前はああいう車に関心が無かったから、隠してたっていうより、眼中になかったんだと思いますよ」
確かに、柚月は去年の初めくらいまでは、クロカンやSUVが欲しいって言ってたから、関心が無かったのかもね。
「でも……見た事は無いっス! いつもガレージに仕舞いこまれていて、その存在すらも都市伝説級っス」
アマゾンの実感のこもった言葉に、沙綾ちゃんが
「私は、乗せて貰ったことあるんだよね~」
と言うと、アマゾンは凄い表情で沙綾ちゃんに詰め寄っていた。
「なんで!? なんで沙綾っちが、あの伝説のGT-Rに?」
「小学生の頃、夏休みの間だけズッキー先輩の家の道場のスクールに参加したことがあるの。その時、怪我しちゃって、病院まで乗せて貰ったんだよ」
なるほど、道場の人達の間では知られた存在だったんだね。
恐らく柚月の奴、みんながスカイラインとかに急に乗るようになっちゃったから、今更になって言うに言えなくなっちゃったってところなのかな?
それにしても、GT-Rもなんだけども、スカイラインっていう車は、幅広い世代の人の心をガッチリ掴んでるものなんだって、今回の事で実感しちゃったね。
柚月の家では、これで親子二代に渡ってスカイライン、しかも、R32系に乗ってるんだね。
「何言ってるの~? マイの家なんて~、親子三代で乗ってるじゃん~」
なんだと柚月、そんな話、聞いたことないぞ。どういう事なんだよ。
「く、苦しいよ~。マイのお祖父さんも、おじさんも……スカイラインに乗ってたんだよ~」
柚月は言ったんだけど、私はそんな話は知らないんだよなぁ……ウチは、兄貴のせいなのか、あまり車の話題については触れなかったからね。
確かに、私が知ってるのは、爺ちゃんが若い頃、サニーからカローラレビンになったって話を聞いたのと、そのレビンでラリーをやってたって事は、この間の優子の話で知ったくらいなんだよね。
「レビンの後、スカイラインRSに乗ってるよ」
そうなの優子?
最初はノンターボで、その後に1台スプリンターGTを挟んで、鉄仮面に乗ってたって?
最初のRSまではラリーをやってたんだけど、そこで引退して、鉄仮面は普通に乗ってたんだって?
でもって、ウチのお父さんは、釣りが趣味の普通の人だから、スカイラインになんて乗ってないよ。
なんで優子ったらため息つくの? え? あまりに自分の家の事に関心が無さすぎて呆れるって?
「マイのおじさんは、R31から34まで乗ってたよ」
優子が言い放った一言に、私は仰天しちゃったよ。
更に優子が続けた。
「R31はGTS-Xツインカムターボのクーペ、以降は子供が生まれたから4ドアで、R32のGTS-t、R33のGTS25tタイプM、R34の25GTターボの順で乗ってたんだよ」
そんな事、知らなかったよ。
だって、私が物心ついた時は、ラフェスタに乗ってて、その次がエルグランドだったもん。
「ちなみに、マイのおじさんが、どんな人だったか知ってる?」
なにその妙な物言い。
爺ちゃんと兄貴はクルマバカだったけど、お父さんはさすがに違うよ。きっとスカイラインにだって、爺ちゃんあたりに勧められて乗ってたんでしょ?
……って、またため息つくの? なんで? え? 私がバカすぎるからだって?
私は、周囲を見回したけど、結衣や悠梨も特には知らなかったみたいで、私と優子のやり取りを
「マイのおじさんは、ジムカーナ名人だったんだよ!」
え? ジムカーナって、私と柚月が出た、駐車場にパイロン立ててぐるぐる回りながらタイム競う競技だよね。
あれに、お父さんが出てたの?
でもって、アレは小さな車が有利で、スカイラインみたいな大きくて重い車だと圧倒的に不利なんじゃない?
「ホントに、マイは何にも知らないんだね……」
優子がため息をつきながら、スマホを見せてくれた。
そこには『二刀流、沢渡淳矢! 今年も全勝』と言う昔の雑誌記事があった。
確かに、この目の感じとかは、若い頃のお父さんで間違いなさそうだね。その記事の下の方には、2台の車の競技中のカットが写っていた。
1台はR31のクーペだね、黒と銀色のツートンだ。
そして、もう1台は同じく黒/銀ツートンのハッチバックだね。……車種は分からないけど。
なになに? 『沢渡は高速主体のコースではハイパワーなスカイライン、旋回と立ち上がり主体のコースではカルタスGT-iを使い分けて盤石な体制で王者の基盤を強固にしつつある』だって?
マジで?
じゃぁ、ウチの兄貴は、突然変異で産まれてきたクルマバカじゃないって事?
ええっ!?
それじゃぁ、私にもあのクルマバカ共のDNAが埋め込まれてるの?……って、みんなして何その羨ましそうな視線は? 私は、こんな物全く欲しくないんだからね!
言っとくけどマジだから、ツンデレとかじゃないからっ!!
私が言うのをみんなニヤニヤして見てるんだけど、私は本当にまっぴらごめんなんだよ。
小さい頃から、兄貴があちこちに迷惑をかけてはウチの親が謝りに行ってるのを見てるし、兄貴のせいで閉鎖された道路なんてのも存在しててさ、負のイメージでしか、うちの地元では認識されてないんだから。
「そんな事ないよ! マイのお兄さんは凄い人なんだよ!」
あぁ~、兄貴のシンパの優子の言う事なんて全く響かないから~!
それにしても、そんな知りたくない事実と共に、ウチがもう親子三代に渡ってのスカイライン乗りだったって事に凄く驚いちゃったよ。
なんか、改めて思うけど、親子三代で乗る事になる車って、なんか凄いなって、ほんの一瞬だけ思っちゃった。言っとくけど、一瞬だからね!
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『舞華の家にはまともな人はいるの?』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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