第336話 スナップとお新香
それで、あとはDSPか。
でもって、これは完全に電子の力で音場を改変させてるもんだから、好みが分かれるよね。
このホールとかいうのは、その名の通りコンサートホールだとかにいるような感じの音に作られちゃうからさ、妙にハウリングしてるような違和感があって、私は好きじゃないなぁ……。
チャーチって、これは教会みたいに天井が高くて、音が抜けてっちゃうような所の感じを出してるんだね。
これも、私にとっては違和感と感じちゃうから、パスかな……。
「なんか~、妙に音が電子的だしね~」
まぁ、イコライザーもそうだけどさ、最近の機器は結局電子の力を使って改変させるから、組み合わせによっては、違和感を感じちゃうのがあるんだよね。
「だったら~、これはいじらない方が良いの~?」
ぶっちゃけ初心者が闇雲にいじるのはお薦めしないよ。
曲によっても最適な音場ってものがあるんだし、正直、好き嫌いの要素もあるしね。
電子改変された音場だけで聴いてて、原曲聴いたら、あまりの音の違いに、違う曲だと思ってた……なんて笑い話もあるくらい、この手の機構では、音が激変するからね。
まずはフラットで原曲を楽しんだ後で、こういう物を副次的に組み合わせてより良くしていくって考え方なんだよ。
柚月だって、ご飯も無しにお新香や福神漬けだけで一食分食べたりしないでしょ? それと同じだよ。
……なに、そのギクッとした顔は? もしかして、アンタそんな事してるんじゃないでしょうね?
「そ、そんなこと~……ないよ~」
いーや、その顔はやってるな! ダメだぞ柚月、そんな濃い味付けのものをご飯も無しにバクバク食べたら体に悪いに決まってるだろ!
私はね、姉としてアンタの将来の事を心配してるんだよ! 今すぐやめなさい!!
「マイは~、私の姉じゃないだろ~!」
姉に口答えする生意気な口はこうしてやるっ! えいっ! どうだっ! 参ったか!!
「参りまひた~、ゴメンなさひ~!」
まったく、柚月ったら!
たくあんとか、福神漬けだけなんて、食べたら胃の中が真っ赤や真っ黄色になって体に悪そうだって思わないのかね。
いい? 胃の中を色で染めるのなんて、歳取ってから、健康診断で嫌でもバリウム飲まされてやられるんだから、若いうちから体験する必要なんてないんだからね!
「マイは~、言う事がいちいちおばさんみたいなんだよね~」
なんだと! え? 何も言ってない? 本当だろうなぁ?
さて、話を戻すとね、原曲をよく聴いて、車の中だとどういう騒音が入って音が乱れるのかを勘案した上で、足らないと思ったところを強調してみると良いんだよ。
「なるほどね~」
でもって、私、実はこの手のDSPで好きなモードがあるんだ。
ジャズってモードが大抵あるんだけど、このモードに入れると、適度にメリハリが生じてきて、同じ曲でも力強く聞こえるんだよ。曲にもよるけどね。
よし、ジャズモード……っと、あったぞ。
うんうん、こういう感じかな。よしっ、これで私的な音場づくりは完成したよ。
「なかなか~、これだけの調整でも、奥が深いよね~」
確かにね。
なんか、'70年代から'90年代のカーオーディオの広告とか見ると、凄く仰々しいイコライザーやDSPつけてて、物凄く仰々しいんだけどさ、これだけの調整ってできるの? って素直に思っちゃうんだよね。
昔はさ、イコライザーやDSPだけで、もう1デッキ分のスペース取ったんだからね。正直、今じゃ考えられないよね。
「それだけ、需要があったんだろうね~」
まぁ、そういう事だろうね。
今や、オーディオ換えるなんて人も少なければ、車側もそういう物を換えない前提になって設計してきてるからね、これじゃぁ、カーオーディオのメーカーが減ってきてるのも納得だねぇ、世知辛い世の中だよ。
え? おじさんみたいなこと言ってるだって? 私がおじさんな訳ないだろ!
さて、私の作業はすっかり終わったから、次は優子の車の作業でも手伝おうかねぇ……。
オイオイ、作業が全く捗ってないぞぉ。
一体、どうなってるんだよぉ。
「私は、精一杯急いでるんだよ!」
うん、優子の言いたいことは分かるんだけど、実際のところ、滞っちゃってるからね、そういう言い訳じゃなくてさ……。
「お願い、手伝ってください!」
そう来なくちゃね。
さて、ケーブルカットまで終わってるのか、じゃぁ、私と優子は端子づくりやってるから、柚月は、この間の柚月の車の要領でやってくから、ポイントのボルト緩めるのやってよ。
「おっけ~!」
これで、着々と準備は進んでいって、優子の車にもアーシングが完了したよ。
もう、3台目の作業だから、私らも慣れたもんだし、柚月がいればネジが緩まない心配もいらないから、ホントに、オイル交換と同じレベルで出来ちゃったんだよね。
しかもさ、優子の場合はノンターボだから、より一層効果が感じられそうな気がするんだよ。だから、正直、これからの試乗の時間が楽しみだよね。
さて、まずは優子からだろうけど……って、優子どうしたの? まだバッテリー繋がないの?
「まだ、やりたい作業があるんだよ」
そうなの?
だったら、せっかくだから一緒にやっちゃおうよ。
……優子は、後ろの席から大きな紙袋を取り出すと、その中から箱を取り出したよ。
あぁ、スピーカーね。
そう言われてみれば、優子の車って、スピーカーとかに関しては、作業してないから分からないんだよね。
ただ、なんかオーディオ関係は、純正っぽかった気がするんだけど
「伯父さんは、そういうところに関しては特に何もしてなかったみたいだよ」
やっぱりだ。
それで、最近、オーディオをつけるとビリビリと音がするから、スピーカーの寿命だと思って、この機会に交換しちゃおうと思ったんだって。
分かったぞ、この作業があるから、デッドニングの準備もしていて、私にも勧めたって訳だね。
「うん、そういう事だよ」
なるほどね。
じゃぁ、スピーカー交換とデッドニングのダブル作業な訳だね。
デッドニングは、さっきもやったからノウハウはバッチリだよね。
ビニールをはぐって、ベタベタを剥がして、スピーカー裏の制振は、スピーカー交換と同時にやっちゃえばいいから、まずは配線の見直しと、シートの貼り付けだね。
作業自体は同じなんだけどさ、優子の車のドアの内側って、今まで剥がしたことが無かったから分からなかったんだけど、凄く苔とカビだらけでさ、一回、徹底的に掃除しないとダメな状態だったんだよ。
そう言われてみれば、この車の最初だって、外装が緑色なんじゃないかってくらい、苔とカビに侵されてたもんね。
柚月は、取り敢えず表に出てて! いいから! 柚月がこんなカビ吸っちゃったら、体悪くなっちゃうでしょ。ただでもお新香や塩辛の食べ過ぎで体中が
「蝕まれてなんてない~!」
いいから外に出る! 出ないとビンタだよ! 今日のビンタは手首にスナップ利かせるから痛いよ!
柚月を表に出して、優子と2人で運転席と助手席のカビを綺麗に拭きとったんだけどさ、雑巾が5枚も真っ黒になっちゃったよ。
優子さぁ、この汚さは想像を絶するよ! これで柚月が乗ったら呼吸困難で死んじゃうかもしれないから
「でも、前にマイ達とドライブに行った時に、ユズが乗ってるよ」
そうか……って、でもさ、あの後、柚月2~3日具合悪そうだったよ。
てっきり優子の車の中で、蘊蓄を聞かされまくったから参っちゃったのかと思ったんだけど、今になってみると、車内に浮遊してるカビとかを吸っちゃったんじゃないのかな?
「そうなのかな?」
私も、今この状況を見るまではそうは思わなかったんだけど、これは確信に近いものがあるよ。
ちょっと今からやってみようよ!
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『車内での音って、そんなに変わる物なの?』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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