第335話 オッペケペーとイコライザー
よしっ! まずはドアを閉めて音楽を聴いてみよう。
なにせ、今回の目的はそこだからね。
“ボンッ”
おおっ! ドアの音に妙に厚みが出てる感じがするよ。
え? これがデッドニングの効果の1つなんだって?
あちこちから抜けていた空気の逃げ道が塞がれた事によって、反響音がするようになったんだって?
でもって、それさ、いい事なの?
空気の抜け道を無くすってさ、火事の時くらいしかメリットが無いように思うんだけど。
なに? 今まではだらしなく抜けてたのを、整列させて抜けるようにしてるんだって? まぁ、物は言いようだね。
まずはエンジンをかけてから、音を聴いてみよう。
こういう作業やった後って、アクセサリーの位置とかで試聴しちゃいがちだけど、あれじゃ意味ないよね。
だって、音楽はさ、車のエンジン切ってる時に聴くもんじゃないじゃん! だから、静音状態でのチェックなんかしても、普段の音が良くなったかなんて実感が湧くわけないんだよ。
“キュルルル……グオオオオオー”
スカイラインらしい、お腹の底から響くような感じの音がして、室内が賑やかさに満たされてきたねぇ……よしっ、ここでいつもの曲を聴いてみよう。
これも重要な事なんだよね。
よく、お店なんかにある試聴用のディスクとかで聴いてもさ、普段聴いてない音楽に、神経が無意識に聴き取ろうと鋭敏になっちゃうから、その部分に向いた注意に気を取られちゃって違いが分からないんだよね。
だから、試聴用ディスクで聴いて良かったからって、デッキやスピーカーをセットした後で『あれ?』みたいになるケースって、結構あるらしいよ。
「なるほどね~」
まずは試しにスイッチ入れて、いつもの曲を聴いてみよう。
◇◆◇◆◇
うん、聴いてみた結果は、思わず感動しちゃったレベルだね、分かる?
さっきの電源線のレベルアップでは、音の奥行きと広がりが増したんだけどさ、今回のデッドニングは、主に重低音と高音域の響きが、今までの物とは段違いに良くなって、今までと同じスピーカーなのに、こんな音をどこに隠し持ってたんだよっ!……ってレベルなんだよ。
部車のタイプMについてた得体の知れないスピーカーだったけど、それがこれだけレベルアップすれば、今回の手間暇お金は、充分に元が取れたかもねぇ。
「でもって、今回のマイはあまり出費してないじゃない」
優子、結果はそうだけどさ、もし、これが元々の金額を出していたとしても、その考えは変わらないよ。
……ただ、私の収入からすると、とんでもない額であることは、間違いないんだけどね。
「あと~、そのスピーカー自体の性能が悪くないのも、関係あるよ~」
まぁ、エッジの破れてる純正とかじゃ、確かに良くなっても分からないもんね。
でも、これで私のオーディオのレベルアップは思わぬほど効果が上がったぞ。
私って、今まで音なんて鳴れば良いと思ってたんだけどさ、ここまで違うと、ちょっと圧巻と言うか、なんか、凄く違う世界を覗いちゃったような、そんな気分になっちゃったよ。
「まぁ~、ミュージシャンだったにしては~、音に無頓着すぎたんだよね~、マイは~」
やかましい! 柚月め! アンタなんかに論評されるような覚えなんてないよ。
「痛いよ~、やめろよ~!」
えいっ! このっ! こいつめっ!
「参りました~、ごめんなさい~!」
まったくもう、ちょっと目を離すとこうなんだからさ。
「マイ、本体の方では何もしてないの?」
なに優子、本体って?
え? イコライザーやDSPだって?
私が買ったのって、一番安いモデルだよ。そんなのある訳ないじゃん。
なに優子、なんで黙ってため息ついちゃってるのよ?
「マイって、説明書読まないで家電とか使い始めて、壊れて捨てるまで1回も使った事ないボタンとかがあるタイプでしょ?」
なんだよ、優子め。
ウチの人間は、総じて誰も困らない限り説明書なんて読まないんだよ。
え? それがダメ人間だって?
「マイみたいなタイプの人が多いから、メーカーはさりげなく、今まであった便利な機能とかを、しれっと廃止したりするんだよ。マイみたいなタイプが多いから!」
なんで優子が怒ってるんだよ?
え? これが怒らずにいられるかっての? 私みたいなタイプのせいで、ブレーキ灯が切れた時にメーターに警告灯が点いたりする機能とか、シートベルトガイドとか、助手席シートの中折れ機能とか、スイッチパネルの間接照明とか、水温計とかが無くなっちゃったんだって?
なんで、私がそれと関係するんだよ。
私みたいなボケっと車に乗ってるような、オッペケペーのせいで、その機能の恩恵にあずかっていた優子みたいな人間にしわ寄せがいくんだって?
なんだと優子! 誰がオッペケペーなんだよ!
「マイがオッペケペーだって言ってるのが、分からないの?」
この野郎、優子め! そこになおれー!
「やめろよ~、2人とも~!」
ええ~い、柚月め! 放せ、はなせぇ~!
まったく、優子に復讐しようと思ったら、優子は柚月に、自分の車の端子づくりをやるように言われて追い出されちゃったよ。
それで、なんで柚月はここにいるの?
「マイだけじゃ~、オーディオの調整できないでしょ~」
いくらなんでも説明書みればできるよ……って、柚月、今向こうに行くと気が立ってる優子に当たり散らされるから、嫌なんでしょ~。
「そ、そんな事、ないやい~!」
なんで私から視線を逸らして言うんだよ。
さぁ、柚月、私の目を見て言うんだよ!
「いいから~、はじめるよ~!」
しかし、このオーディオの音質調整はやり辛いね。
ファンクションボタンを2回押しでイコライザーモードで、2回目を長押しでDSPモードだって?
こんなに面倒なんじゃ、そうそうやる人がいなくてもしょうがなくない?
「まぁ~、最近はボタンの数を減らしてコストダウンする割に~、機能だけは増えてるのが多いからさ~、こういうビックリ技を使わざるを得ないんだよ~」
そうなの?
でもって、こうなるとオーディオ離れも頷けるよね。
これだったら、ケータイのリンク機能があるアンプだけあれば、使い慣れたスマホで操作できちゃうもんね。
でも凄いね。
車のオーディオって、こんな安い機種にもイコライザーなんて付いてるんでしょ? 正直、ラジカセとかだと高級機種にしかついてないよ。しかもDSPってさ、コンポとかについてる機能でしょ? こんな薄い車のデッキに内蔵できるんだね。
「まぁ~、どっちも簡易型だけどね~」
それでも凄いもんだよ。
なるほどなるほど、このイコライザーでは、低音型にするか、高音型にするか、インパクト重視にするか、バランス重視にするか……っていうようなメモリーイコライジングと、ユーザープリセットが1つできるのか。
じゃぁ、ユーザープリセットでいこう。
私はバランスを取りつつも、低音と高音のメリハリは付けたいタイプなんだよね。だから、最初と最後の山は高めにしつつ、真ん中を適度にバランスさせて……っと、どうだい!
「おお~! なんか、パンチがあるんだけど、音の広がりと深みがあるよ~!」
どうだい、恐れいったかい。
私は、バンドやってたけど、弾いたり歌ったりも好きだったけど、聴くのだって好きだったからね、音の出し方には一家言あるんだよ。
すぐに低音強めに出すとダメみたいな、『通』気取りがいるんだけど、低音と高音でメリハリを出してやる事は悪い事じゃないんだよ。
ただ、バランスのとり方が難しいから、低音だけにウエイトを置かずに、高音とのバランスを取る。そして、真ん中あたりはシャカシャカ音を出している場合が多いから、好みによって調節するんだ。
ちなみに私はシャカつくのは好きじゃないから、ここの山はやや低めにセットしちゃうんだよ。
どうだい、柚月。
「マイの調音は~、サイコーだよ~!」
そうだろ~? 一生私の靴を舐めても良いよ。
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『車内での音って、そんなに変わる物なの?』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます