第333話 待ち合わせとデッドニング
それから数日が経過した土曜日、私はカー用品店にいたんだ。
目的はバッ直配線なんだよ。
自作も考えたんだけど、本当に直に引くと、車両火災の原因になっちゃうらしいから、ヒューズをつけて……と思って、さっき柚月とホムセンを見ていたら、ヒューズとホルダーを買って配線加工してカットして使う手間とお金考えたら、売ってるのを買った方がお安いって事に気付いたんだよ。
「ヒューズホルダーとヒューズに~、あれだけお金かかるとね~」
柚月はすっかり弱気になってこぼしてたけど、DIYにはそういう事もあるんだよ。なんでもかんでもDIYの方が安いって訳じゃないんだからさ……って、なんで柚菌がいるんだ?
「ユズキンって、言うなよ~!」
うるさい、柚菌! 大体、なんでここにいるのよ。
今日、私はアンタなんか呼んでないんだからね!
「さっき~、ホームセンターの駐車場で、偶然会ったんだろ~」
それは分かるよ、ホムセンの駐車場で、不覚にもこの菌に会っちゃったんだよ。
だから、挨拶を済ませると、そそくさとその場を後にして、目的の物だけ見終わったら、速攻でここまでやって来たんだよ。
なのに、何故か、ホムセンで撒いたハズのこの菌が、今私の目の前にいるんだよ。分かったぞ! こいつ、人の車をつけて来たな! このストーカーめ!
「そんな訳あるか~! 今までの作業の流れから見て~、次はカー用品店だって~察しくらいつくもんね~!」
ええーい、とにかくアンタなんか呼んでないんだから、さっさと家に帰ってエンゼルパイでも食べてろよ。
「そんな事、するもんか~……ぐぎぎぎぎぎぎ……」
この野郎、柚月のくせに生意気な!
あ、優子だ。
「そんな手に引っかかるもんか~! 優子がこんな所にいるはずないんだもんね~!」
勝ち誇ったように言った柚月の背後で
「そうだよね、本当はホームセンターで待ち合わせ……だったもんねぇ、ユズ?」
と、抑揚のない声がして、優子がその姿を現した。
なんだ、コイツ、優子と待ち合わせしてたのに、私の後つけて来たっての?
どんだけ失礼な奴なんだ、そして、なんで私の後をついてくるんだよ、やっぱりコイツは私の犬なのか?
「マイの犬なんかじゃないもん~!」
「それより、私と待ち合わせてるはずのユズが、なんでこんな所にいるのかなぁ?」
私に反論した柚月に優子が静かに返すと、柚月は真っ青になっちゃったよ。
まったく、これでようやく邪魔者がいなくなったぞ。
ところで優子は、柚月とホムセンで何する予定だったの?
「アーシングの件で、ユズに相談したの、そしたら今日、ユズの家で一緒にやろうって言うから、ホームセンターで待ち合わせて、端子とか選ぼうって話だったの」
自分が言い出しっぺで呼び出したくせに、その待ち合わせの現場から勝手にいなくなるって、どんだけクズ野郎なんだ、柚菌は。
まぁいいや、とにかく柚月め、ここで優子に引き渡してやるから、後で優子にたっぷりお仕置きされてろ~!
「ところでマイは、今日は何するの?」
え? あぁ、オーディオの電源をバッテリーから直に引こうと思ってね。
「だったら一緒に、デッドニングやスピーカー線の引き直しもお薦めだよ」
どしたの優子? なんで私の作業にそんなに積極的なの?
え? どうせ配線作業でやる事は似たようなもんだから、一緒に柚月の家でやろうって?
それは良いけどさ、でもって、そのどっでにんぐとか、スピーカー線なんか幾らするのか知らないけど、そんな余裕はないよ。
優子に連れられて、3人でオーディオコーナーに行ったんだよ。
ホラ見ろ優子、このデッドニングキットとかいうやつさ、5千円もするじゃん! 5千円もあったら、ちょっとオシャレなアウターが買えちゃうんだよ、こんな車のドアの中の見えない物になんか、そんなお金出せないよ。
スピーカー線は500円くらいだから、まだ良いけどさ、こんな得体の知れない物に出す5千円なんてないよ、却下だよ却下!
「マイ、それじゃなくて、こっちだよ」
優子は私を引っ張ってコーナーの隅に行った。
なにこれ? さっきのキットの箱に貼り紙がしてある。
なになに? 展示品に使用して、一部欠品のため300円だって?
でもってさ、欠品してたらできなくね? たとえ300円でもゴミと同じじゃん!
「マイ、それって、シートだけを使っちゃったんだよ。だけど、シートならウチにあるからさ、それを使えばできちゃうよ」
そうなの? 5千円の内容を300円で出来れば、確かに安いかもな……。
よしっ、やってみよう。
でもって、なんかさ、私、優子に上手いこと乗せられてない? そんな事ないって?
◇◆◇◆◇
ポイントが結構溜まってたから、ほとんどお金出さないで買って来られちゃったよ。
それにしても、カー用品店のポイントが、こんなに溜まってるJKっておかしくない?
去年までの私だったら、絶対に考えられない失態だよ、まったく……。
「いい事じゃん~。お得なんだよ~」
うるさい!
“ガスッ!”
「痛いじゃないか~!」
カー用品店を出て、ホムセンに逆戻りをして、優子の端子を買ってからお昼にした後、優子はそのシートとかいうのを家に取りに戻ったから、私らは柚月の家で待つことになったんだよ。
まずは、優子が戻って来るまでの間にできる作業を進めてしまおうと思って、最初に電源の直引きをしたんだよ。
最初にバッテリーのマイナス端子を外してから、オーディオを外して……って、このシフトレバーからオーディオ周りにかけての内装を何回外したんだろ……普通のJKはこんな所をしょっちゅう外したりしないよね。むしろ、外し方すら知らないよね。『えぇ~、こんな所、外れるんだね。知らなかったなぁ~』って反応が普通だよ。
次に、エンジンルームに回って、バッテリーのプラス端子を外して、さっき買ってきた直付け配線をプラス端子の留め具に共締めしよう。
そして、プラス端子を元に戻したら、フロントガラスの際の辺りまでケーブルを引っ張っていって、サスペンションの取りつけられてる更に奥にある隅のスペースに、三角形の妙なホールがあるから、そこにケーブルを挿しこんでいくんだよ。大体、半分くらいまでケーブルが入り込んだら、今度は右前輪に移動するんだ。この作業をする前に、右にハンドルを全切りしておくと、作業がしやすくなるよ。
次に、フェンダーのインナーを、室内側だけネジを外して捲るんだ、すると、純正の配線が束になってあって、室内との境目に丸いゴムのパッキンがあるから、純正の配線に傷つけないように気をつけながら、カッターとかで配線が入るだけの穴を開けてあげるんだ。
最初だと結構大変な作業だけど、この車に関しては、兄貴が社外品のブーストメーターつけた時に結構カットしてたみたいで、最初から切れ込みが入ってたから、すんなりケーブルが入っちゃったんだ。
ただ、あまり必要以上に穴を大きく開け過ぎると、一応防水と防塵のゴムだからさ、足元に浸水とかしてくるかも……だから注意しないとね。
それが終わったら、元に戻す前に運転席の足元に行って、挿しこんだケーブルをしっかり捕まえて引き込む作業を先にやっておくんだ。
じゃないと、挿しこんだつもりで、分厚いゴムパッキンを貫通できずにいる場合とか、貫通はできても、運転席の足元から捕まえられないところまでしか行ってない場合があるからね。そうなったら、またインナー外して、ゴムパッキン外さなきゃならなくなっちゃうよ。
さて、上手く捕まって、思いっきり室内に引き込んだよ。
柚月、エンジンルーム見てたるんだり、余ったり、逆に引っ張られてキツキツだったりしてない?
「もう少し~引っ張って~」
こんなもん?
「おっけ~!」
よしっ! そうなったら、タイヤハウスとエンジンルームの片付けに入れるね。
綺麗に元に戻しつつ、可動部に当たったり、引っ張られ過ぎてテンションがかかってないかをチェックして、タイヤハウス完了! そして、エンジンルームもちょっとたるませてあるのは、この間のアーシングの束と一緒にタイラップで纏めて、配線を美しく処理するんだ。
ホラ、私自身も美しいから、ケーブルも美しく処理しないとね。
「マイなんか、美しくなんてないやい~!」
なんだと柚月、この野郎!
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『デッドニングって、一体何者?』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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