第331話 先走りと応急処置

 取り敢えず、結衣の作った極太アースケーブルは外しちゃって、まずは元に戻したんだけど、きっと結衣の場合は、単純に柚月のケーブルでアースしてもダメなような気がするんだよね。


 「なんでさ?」


 恐らくだけど、結衣の車の場合は、プラスのケーブルが弱ってきてるから、マイナスアースを太くした場合にインとアウトのバランスが崩れて調子を崩しちゃったんだよ。

 たまに、古い車のアーシングは良くないって言われてる事があるけど、そのゆえんはこういう事なんだよね。

 要は、アーシングして、電気の流れが活発化したことによって、元々劣化していたケーブルの状態が浮き彫りになってくるって事だよ。


 「なるほどね~」


 肝心の結衣はどうにも懐疑的で、この件に関しては当事者でない柚月が妙に納得してるんじゃ、正直ダメなんだけどなぁ……。


 結衣の車について思い返してみるんだけど、この車って、ミッションの載せ替えはしたけど、エンジン自体は元々載っていた物をそのまま使ったはずだから、特に補器とか、アースなんかについてはノーチェックだったんだよね。

 走行距離と保管状況にすっかり安心しきっちゃってたんだよね。


 こうなったらさ、結衣の場合は思い切って


 「思い切って?」


 純正アースの引き直しってのはどうだろう?


 「えーー!! なんでだよーー!!」


 分かってないね、結衣。

 純正のアースが弱ってるのに、無用に太いケーブルでのアーシングが、ダメを押したんだよ。

 純正が弱ってるのは、私らの車も同じなんだけどさ、より顕著なのが結衣な訳じゃん!


 古い車の鉄則だよ。

 弱ってる場所を直さずに強化しても、強化されないどころか壊すリスクが高いって事。

 特に、このレベルとかだと、直さずにいてもだましだましいけちゃうから強化したことが逆効果になるんだよ。


 「どういう事だ、マイ」


 悠梨、それは下手に強化しちゃうと、強化したことによって得られるパワーアップとかに騙されて、元の不調がかき消されちゃうって事だよ。

 今回だって、上手くすれば、柚月のケーブルで、パワーアップを体感するかもしれないけど、その事によって、さっきまで出ていた諸症状がかき消されて、すっかり治ったみたいな勘違いをする事になっちゃう訳だよ。


 「なるほどな。上手く弾けない箇所を誤魔化して乗り切る事を覚えちゃうと、楽器は上手くならないからな」


 悠梨の例えは、ウチの部だと、ほとんどの人間に通じないから、面倒だな……でも、言ってる事は正しいよ。


 まぁ、論より証拠で、結衣、ココ見てごらんよ。

 私は純正のアースポイントを1ヶ所見つけ出して、そこを指さしながら結衣に見て貰った。


 「なんか、端子が真っ黒で、もしかしたら焼けちゃったのか? と思っちゃうくらいに汚かったよ」


 結衣の口から『汚い』と言う言葉が飛び出してくるのは、凄く意外だったけど、逆に言うと、結衣の車のはそこまで劣化してそうだという事は分かっちゃったよね。


 だから、これを思い切って引き直してみちゃうんだよ。


 「えーー!? そんな事したら、1回車をバラバラにしなきゃならなくなるじゃん!」


 いや、そこまでバラバラにする必要はないよ。

 弱ったアースポイントを交換していくだけなんだからさ。

 実は、私が自分でやったアースの中にも、似たような狙いのポイントがあったんだよ。


 「分かった~、ダブルで落としたところでしょ~!」


 まぁ、柚月は私と一緒に作業してるからね。

 でもって、まぁ、見抜いたことは凄い事であることは間違いないよ。

 どれどれ、さすが私の犬だぞ、頭を撫でてやろう。


 「私は~、マイの犬なんかじゃないもん~!」

 「いや、柚月はマイの犬だな!」

 「犬だね」

 「そうだね」


 柚月が反論なんかするから、結衣、悠梨、優子の3人に即刻援護されちゃったじゃん!


 「でも、マイ、引き直すって言っても、どうするんだよ」


 まぁ、今のところは走るから良いんだけど、結衣自身がこのままじゃ嫌だろうからね、最も良いのは、純正部品で取って交換していく事なんだろうけど、今のところ、結衣はケーブル買う予算も捻出できないみたいだから、取り敢えず後回しにして、結衣が買ったこの極太なケーブルを使って、私がやったみたいに純正のポイントを補助するような取り回しにしてみよう。

 

 このケーブル、太過ぎて取り回し辛過ぎだよ……。

 正直、純正のケーブルの太さを考えると、社外品のスピーカーコードくらいでもいいくらいなんだよね……。


 え? 悠梨? あるの?

 前に、スピーカーコードを引き直した時の余りがあるんだって?

 じゃぁ、ちょっと分けて貰える? 代金は結衣が出すからさ。


 「なんでだよー!」


 当たり前じゃん、結衣の車に使うものなんだからさ。

 だったら今日のところは純正状態に戻して帰るけど、結衣はそれでも良い訳?


 「う……」


 ホラ見ろ。

 結衣は、いつもそうなんだけど、秘密主義すぎるんだよ。

 今回の事だって事前に相談なり報告してくれれば、私と一緒に柚月のケーブル分けて貰えたのにさ、一人で先走って、お金が無駄になっただけじゃなくて、調子まで悪くなっちゃうんじゃ、そもそもの目的から逸脱してるじゃん。


 まったく、もう。

ガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミ


 「マイ~、取り敢えず~ユイも分かったみたいだから~、ガミガミ言わなくても~」


 なんだ、柚月?

 柚月も一緒にガミガミ言われたいの? 

 え? どうしたの優子? なに? 雰囲気が悪くなるから楽しい事考えながら作業しようよ、だって?

 ああっ! すっかり部活中の下級生のいる前だって忘れちゃってたよ。


 とにかく、私が落としたポイントと、他に今柚月に検索して貰って、いくつか見つけたポイントにアースを落としていったから、これで幾分かは調子が戻ると思うんだよね。

 他のポイントと、プラスに関しては、もう少し詳しく調べてみてやった方が良いかな……と思うよ。


 よしっ!

 取り敢えずこれでバッテリーを繋いでみて、調子を見てみよう。

 “キュルルルル……グオオオオオオオオーー”

 

 うんうん、音を聞いた感じは、純正よりちょっと元気がいい感じくらいの感じに聞こえるね。


 もうすっかり暗くなっちゃったし、今日のところはこれで良いんじゃないかな?



──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『結衣の車はどうなっちゃうの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る