第330話 禁句と流しそうめん

 そうだよ、きっと結衣なんかはこのままアクアに乗り換えちゃうんだよね。


 「そんな訳ないだろー!」


 とにかく、調子が悪いって言うんなら、結衣の車を見てみない事には始まらないよね。

 あ、柚月がトイレから戻ってきた。

 おーい、柚月、結衣の車さ、アーシングしたら調子悪くなっちゃったんだって。


 「それって~、マイナス端子外すの忘れて作業してさ~、スパークさせてヒューズ飛ばしちゃったんじゃないの~?」


 やっぱり私と同じ事言ったよ。


 「マイと同じ事言いやがって、違うよー!」

 「それじゃぁ~、端子の周りに埃が溜まってるのに~掃除しないでつけちゃったんだぁ~」


 あっ! 柚月、結衣にそれは禁句だぞ。


 「コラぁ! 柚月、ぶっ飛ばしてやる!」

 「もうしてるじゃないか~!」

 「こんなもんじゃ済まないんだよ! このっ! このっ!」


 おーい、2人ともー、ホームルーム始まるぞー。


 昼休みの話題も、結衣のアーシング不調についてだった。


 「ちゃんと耐熱性のケーブル使ったの? じゃないと溶けちゃうからね」


 優子が、お弁当を食べながら言うと


 「それくらい分かってるよ。きちんと耐熱性のでやったし、端子もはんだ付けしたんだって」


 と反論してきた。

 まぁ、そう言うんなら、作業手順に間違いはなさそうだね。


 「なんか、難しそうだね」


 燈梨が心配そうな顔で言った。

 いや、燈梨、本来やり方を間違えなきゃ問題ないはずなんだよ。だから、きっと結衣のやり方がどこか間違ってる可能性が大なんだよ。


 「じゃぁ、私のやり方が問題だってのか?」


 あのさ、結衣。

 上手くいかなかったからって、みんなに喧嘩腰なのは良くないよ。

 最初に私が言ったけどさ、こんなの上手くいかなきゃいかないで、プラシーボ効果って事なんだからさ、そんなに目くじら立てる必要ないでしょ。


 「私のは、調子が良くならなかったんじゃなくて、調子が悪いんだぞー!」


 ハイハイ、後で見るって言ってるんだから、いちいちムキにならないの。


 「そうだよ~、どうせユイが間違ってるに決まってるんだからさ~」

 「やかましい! 柚月は口を出すんじゃない!」

 「なんでだよ~! 私はアーシングの第一人者であり先輩なんだぞ~!」

 「柚月は、ほとんど製作に絡まずに、取り付けてただけだろーが!」


 まったく、柚月とじゃれあっちゃって、2人はプリキュア……じゃなかった、2人は仲がいいね。


 「コイツとなんか、仲良くなんてないぞー!」

 「なんだよ、コイツと『なんか』とは~!」

 「『なんか』だから『なんか』なんだよー!」

 「このぉ~!」


 まったく、朝から暇さえあればじゃれあっちゃってしょうがないなぁ。


 「あはははは……」


 燈梨も呆れて笑っちゃってるよ。


◇◆◇◆◇


 放課後、燈梨がガレージの半面を貸してくれたので、結衣の車を持ち込んで見てみた。

 ボンネットを開けると、目立つな……このケーブルさ。


 「ホラ、取り回しやポイントは間違ってないだろー!」


 結衣は、それ見た事か……みたいな表情で言ってるんだけどさ、私と柚月は、あるポイントに注目していた。

 まぁ、取り敢えず結衣、エンジンかけてみて

 “キュル……ルルル……ルルル……ヴオォォォォォォー”


 なんか、セルが重いねぇ。

 初爆が起こるとスムーズにエンジンがかかるんだけど、どうも精彩が無いような感じだね。


 「なんか、エンジン自体も重い感じがするね」


 燈梨、そうなんだよね。

 下手したら息切れしそうな、そんな感じなんだよね。


 「マイ~、原因はアレじゃないかと思うんだけど~」


 柚月も同じところ見てたから、私と同じ意見だと思うよ。


 「私も、原因が分かっちゃったぞ」


 悠梨は、電気に結構詳しいもんね。


 「どうだ! 私のせいじゃないって事が分かっただろー」


 結衣、確かに取り回しやポイントに関しては、結衣のやったので問題ないよ。私が柚月にやったのと同じ内容だし、でもね、原因は結衣の作業にあるよ。


 「なんでだよー!」


 結衣さ、このケーブル、どういう基準で選んだの?

 

 「アースは流すものだから、効率よく流れるように、一番太いのにしたんだ!」


 結衣はドヤ顔で言った。

 うん、その考えが既にアウトなんだよね。


 「どこがー?」


 私らがやった作業って、マイナスアースの強化だよ。

 つまりは、出口を広くして、滞りがちな電流を適度にスムーズに流してあげようって、考えなんだよ。

 出口のマイナスがあるって事は、当然入口のプラスがあるってことだよね、分かるでしょ?


 「うん」


 入口が今まで通りの細さなのに、出口だけこんなバカでかくしちゃったら、物凄い勢いで電流が流れちゃうじゃん。そうすると、途中にある必要な所で、必要な量捕まえられないんだよ、勢いが速すぎて。

 結衣が『はにゃ?』みたいな顔になっちゃったよ。


 だからね結衣、流しそうめんしてるとして、結衣はちょうど中流あたりで箸を構えてるんだよ。

 普通の流速で流れていれば、結衣は箸を入れればそうめんを一束ゲットできるけど、ウォータースライダー並みの流速で流しちゃったら、流速が速すぎてそうめん取れないでしょ? よしんば取れたとしても1本とかの世界だし、下手すると箸が折れてゲームオーバーになっちゃうでしょ?


 今の結衣の車はそういう状態なんだよ。

 マイナスばかりが異様に強いから、凄い勢いで電気が引っ張られていっちゃって、必要な所を物凄い勢いで通過していっちゃってるんだよ。


 「それじゃぁ、どうすれば良いんだ?」


 だから、アースケーブルを細くするんだけど、恐らくだけど、それでもセルの回りが重くなりそうなんだよね……。


 「なんでだよ?」


 恐らくだけど、プラス端子の劣化が、私らの車より酷いのかもね。


 「ええっ!?」


 本来は、プラスの劣化ってそうそう出てくるもんじゃないんだけど、今回は、マイナスを強化したことによって顕在化しちゃったんだよね。


 「とすると、どうすれば良いんだ?」


 まず、今日のところは、このケーブルを撤去しよう。

 そうすれば、少なくともノーマルの状態に戻るから、その状態になったところから、純正の各端子の状態をチェックして、適時清掃や交換で対処して、最終的に柚月の持ってるケーブルでマイナスアースを作り直すしかないよね。


 「そうなのかー」

 「まぁ~、ユイも最後には~、私のケーブルが無いとダメって事だよね~」

 「もう1回買い直す予算は無いからなー」

 「だったらぁ~、私に土下座して、ケーブルを分けてくださいって~、言うしかないよね~」


 柚月が、結衣を見下ろして勝ち誇ったような表情で言った。


 「ふざけるな、柚月めー!」


 結衣が柚月に飛び掛かると


 「なんだよ~、だったら~、ケーブルは分けてやらないからな~!」


 と柚月が応戦して、またくんずほぐれつのじゃれ合いが始まった。


 おーい、結衣さ、自分の車なんだから、柚月と遊んでないで、ケーブルの撤去作業手伝いなよー。

 私は、ケーブルを撤去しながら、あちこちのアースポイントに目を凝らしていた。

 結衣と柚月がいないため、私と撤去作業をやった悠梨の目も鋭かったので、恐らく悠梨にも分かってたんだね。


 うん、まだ電気系の作業は終わらなさそうだよ。

 困ったなぁ……。

 

──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『結衣の車の問題点って?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。 

 

 

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