第321話 埃の報酬

 燈梨と別れて家に帰った後で、ピュアトロンの本体を洗っておこうと思ったんだよ。

 ホラ、解体屋さんは綺麗好きだけど、元のオーナーがそうだとは限らないじゃん。存外結衣みたいなガサツで汚部屋に住んでる人かもしれないしね。

 それに、そうじゃなかったとしてもさ、これって空気清浄機で、汚れた空気がのべつ出入りしてたわけなんだから、そう考えるだけでも汚くなってそうだって予想はできるんだよね。

 私の車のエアコン吹出口を交換した時の事を思い出してみると、きっとそうだよっていう確信があるんだよね。

 私は普段から車内は綺麗にしてるのにもかかわらず、エアコンの吹出口外したらダクトが薄茶色になってたもんね。


 よしっ、早速バラバラにして……って、やっぱりマジで汚かったよ。

 裏返してネジをいくつも外すと中にアクセスできるんだけどさ、埃だらけでさ……もう、こんなものをそのまま作動させたら、逆に具合が悪くなっちゃうんじゃないかってレベルだったよ。

 電気を無駄に使って車内に埃を噴出させてるレベルだよ。


 バラバラになった後で見てみると、結構構造はシンプルだね。

 モーターがあって、導風板があって、クルクル回るルーバーみたいなのがあるんだね。

 まぁ、どの構成部品も埃だらけだから、石鹸水でガシガシ洗ってやろう……って、モーターだけは水厳禁だから、これは雑巾で拭いておこうね。


ガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシ


 よしっ、綺麗になったぞ。

 本来なら、もう少し簡単に蓋が外れて、雑巾とかでマメに拭いてあげれば綺麗になるんだけどね。


 カバーに関してもこの機会だから綺麗に洗っておこう。

 ここだって、結構埃を吸ってるに決まってるよ。


ジャブジャブジャブジャブジャブジャブジャブジャブジャブジャブジャブジャブ……


 ホラ見ろ綺麗になったぞ。

 くすんだ色だと思ってたけど、やっぱり埃のせいで色が変わってたんじゃないか!

 まったく外観からこれじゃぁ、何のための空気清浄機なんだよぉ。

 ……そう考えると家庭用の空気清浄機も、定期的にバラして掃除しないとダメってことだよね。

 結衣の家にある空気清浄機の中なんて考えたくもないよぉ……くわばらくわばら。


 綺麗になったら乾かして元に戻していこう。

 折角だから、この機会に樹脂の保護材を塗っておこう。

 おおお……凄く綺麗になったぞぉ、この艶やかさは新品みたいだよぉ。

 そして、組み込む前にモーターだけは注油しておこう。お父さんがそういうの持ってたと思うんだよね。早速借りに行こう。

 “ガチャ”

 あ、芙美香だ。


◇◆◇◆◇


 昨日あの後、芙美香の野郎、私の事を3発も叩きやがって、マジムカつくんですけど。

 『アンタの考えてる事なんて、私にはお見通しなのよ』

 なんて言いやがってさぁ、私はお前の事なんて何も考えてないっつの!


 お父さんは、あんな暴力女のどこが良くて結婚したんだか全く分からないよ。

 もしかして、お父さんも芙美香に暴力で支配されて結婚させられたんじゃないかって気になってきたよ。


 「マイ~、早速今日、取り付けしよぉね~」


 朝から柚月は元気だな、柚月には低血圧って言葉は無いのかな?

 ところで柚月、本体バラして清掃してきた?


 「してないよ~」


 じゃぁ、取り付けは明日にした方が良いよ。

 私は昨夜ふと思いついてバラしてみたけど、内部はおびただしく汚かったからさ。


 「ええ~!? ヤダよ~!」


 嫌だったらつけても良いけど、スイッチ入れたら埃っぽい空気が噴出されるけど良いの? それってわざわざ付けた意味ないよね。


 「ううっ……」


 そういう事だから、柚月は今日の私の取り付けを見て予習してから明日取り付けすれば良いんだよ。


 放課後になって、早速私らは作業を開始したんだ。

 まずはリアトレイの加工だね。

 その前にリアシートを外さなければならないところが、R32の面倒なところだよね。

 シルビアだったら、リアシートの背面を倒せば良いだけだし、慣れると倒さなくても隙間に手を突っ込んで外せちゃうみたいだからね。


 リアトレイを外したら、解体屋さんで貰ってきたトレイと合わせてカットしたり穴を開ける位置を決めちゃおうね。

 ぶっちゃけR32のピュアトロンは、ネジ穴だけ開ければつくみたいだけど、新車時に取り付けると、下の部分をカットするように指示されてるみたいだから、それに従っていこうよ。


 大きめのカッターで作業すると結構ガシガシ切れちゃうよね。

 穴開けまで終わったら、あとは結構簡単なんだよ。ピュアトロンをつけたリアトレイを戻しつつ、本体のアースを取って、あとは配線類を運転席側に伸ばしていくんだ。

 アースに使うボルトは結構あるから苦労しないで取れたけど、配線に関しては選択式なんだよね。

 スイッチをセンターコンソールにつけるのか、それともハンドルの右下のスペースにつけるのかでね。


 ピュアトロンはディーラーオプションだから、取り付けたディーラーの考え方や、同時装着オプションによって取り付け位置がまちまちなんだよ。

 取り敢えず、R32の場合は、この手のスイッチを取り付けられるようになってるのは、センターコンソールか、ハンドルの右下のスペースなんだよね。そこにはある程度切れ込みが入っていて、簡単にスイッチを取り付けできるようになってるんだよ。


 でもって、よく考えたら、私の車のセンターコンソールのスペースって、カップホルダー取り付けの時にカットしちゃってるから、スペース的にも強度的にもヤバいかもしれないね。

 となると自動的にハンドル右下ってことかぁ。


 そうなると、車の右端にある配線スペースを使って配線を運転席前まで引っ張っていくんだけど、これって、シート外さないでやると結構、大変な作業なんだよね……。

 難関であるBピラーの付け根と、そこから続く手の入り辛い箇所もクリアして、遂に運転席まで引っ張ってきたよ。


 最後に、電源線を引くんだけどさ、この配線のカット跡から見て、間違いなくこの電源は配線コネクターでつけてたっぽいんだよね。

 折角の純正オプションなんだからさ、専用のハーネスキットだとか、配線の枝分けキットとか入れておけっての。


 私は前に使ったヒューズ型の電源取り出しキットで、電源を取り出してみたんだよ。

 これで、仮付けは終わったね。

 まずはこの状態で試運転だよ。この状態のうちに動作チェックしておかないと、内装やシートを完全につけちゃってから動かない事が発覚しちゃうと、全てが終わった後だけに、もう1度チェックする気力すら起こらなくなるからね。


 取り敢えず、配線チェックはOKだね。

 キーをオンにしてみよう。

 スイッチに青い光が点いたよぉ……取り敢えず電機は流れてるってことだね。

 このスイッチは、真ん中がオフで、それぞれの側がオンになってるんだけど、描いてあるファンの絵が小さいのと大きいのがあるから、大きい方が強で、小さい方が弱なんだろうね。


 取り敢えず弱の方で

 えいっ

 “パチッ”

 “フォォォォォォォォォォォォ~”


 「動いたよ~」

 「やったじゃん!」


 柚月と悠梨の歓声が聞こえてきた。


 「私の車のよりも、勢いがあるような気がするよ」


 そうなの優子?

 逆に優子のピュアトロンは、バラして清掃した方が良いかもね。


 一応強の方も試しておこう。

 ホラ、スイッチが故障してるって可能性もあるからさ、チェックするなら念には念をってやつだよね。

 “パチッ”

 “ヒュォォォォォォォォォ~”


 おおっ!

 なんかそれと分かるくらいに勢いのある音で、これは効果がありそうな気がして、期待しちゃうよねぇ。


 それにしても、ひょんなことから始まった私の車の現代化計画は、また一歩前進したね。

 よし、それじゃぁ、サクッと内装を戻しちゃおう!


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『ピュアトロンに興味が出てきた!』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。

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