第322話 '80年代とケーブル
やっぱりピュアトロンは効果てきめんだったねぇ。
元々、この辺は都会に比べれば空気は綺麗な方なんだけどさ、それでもやっぱり、埃や花粉は入ってくるからね。
もう、空気の綺麗さが3ランクくらい増したんだよ。これは大袈裟じゃなく言ってるんだよ。
ただ、難点は掃除機みたいな音がする事だよね。
もっと静音なら言う事は無いんだけど、これがするだけで、なんか安っぽい感と、'80年代感がするんだよね。
'80年代なんて中途半端な昔で、当時は良かったとしても今から回顧して良かったなんてものがある訳ないじゃん。
公衆電話探さなきゃ連絡も取れないし、待ち合わせで駅の伝言板見ようとしたら、後から来たガキに消されて『XYZ』とか書かれてて、エレベーターも間違えた階数押してもキャンセルできないから、凄く気まずいし、車だってまだ3分の1くらいがエアコンついてないし、軽自動車にはパワステなんてついてないし、その上でまだ3分の2がマニュアル車だった時代で、営業車をオートマにしてくれって言ったら、上司から『明日から自転車で営業行くか?』って言われちゃった時代なんだよ。
カセットテープが全盛で、繰り返し録音してたらテープが劣化して、前に撮った音が混ざっちゃって、心霊レコードみたいになっちゃったり、車のデッキに120分テープ入れたら巻き込んでデッキ壊しちゃったり、あと、パワーウインドーなんて付いてる車が少なかったから、外から見て、無いと見破られないように腕の関節から下だけでハンドルを回して窓を開ける術を会得しなくちゃいけなかったりして大変だった時代なんだからね。
まぁ、本題に戻って、欠点と言えばそんなところくらいかな。
あとは、花粉症の人なんかからすれば、今のエアコンみたいに車内に入ってくる前にシャットアウトできないで、車内に入っちゃってから清浄するから、ちょっと清浄する段階が遅いってのもあるかもね。
なんか、悠梨が言ってたけど、エアコンのエバポレーターの前にフィルターを加工して入れちゃえば、理論上は、私らの車でも現代車と同じくクリーンフィルターつけられるんだってさ。
でも、そうするためには、エアコンのガス抜いて加工しなくちゃいけないじゃん。そのために、誰が人身御供になってくれるのって話だよね。
今になって思えば、もっと早い段階で知ってれば、優子か結衣の車でエアコン換えた時にやっちゃったのにね。
昨日は、あの後で燈梨のも付けたんだけどさ、やっぱり世代の違いを感じちゃったよね。
あっちはワイヤレスリモコン付きで、オート機能付きなんだもん。こっちみたいにマニュアル操作で強弱変えなくても、自動なんだよ、自動。ここって大きいよね。
どうも、R33も同じタイプみたいだから、もし、悠梨がつけるなら、燈梨と同じタイプになるみたいだね。
学校に到着すると、柚月が私の姿を見てこっちにやって来た。
あ、柚月おはよ、ちゃんとピュアトロン洗ってきた?
「おはよ~、マイ~! ちょっと見て欲しいものがあるんだよ~」
え? なによ? 悪いんだけど、私柚月と違ってマッチョ写真集とかに興味ないからさ。
「そんなもの、私だって興味ないよ~!」
そうだったっけ? まぁいいや、それで、見て貰いたい物ってなに?
なんか、前もそうやって柚月が大騒ぎするから見たらさ、大抵がしょーもないものなんだもん。
柚月が集めたビール瓶の王冠とか、近所の犬の午前5時の定点画像とか、変わった模様のマンホールの蓋とか、毎日の富士山の画像とかさ。
最後のは東京に住んでる人とかには意味あるんだろうけど、私らの街からなんて、普通に見えるからね。
「そんなんじゃないんだって~、まぁ見てよ~、ホラ」
柚月が鞄から出したのは、結構太い銅線に見えた。
チューブが赤い結構な太さの銅線だね、これで電源とか引くと、オーディオの音が良くなるって、前に兄貴が言ってたなぁ……面倒だから試してないけどね。
「どう~?」
どうって言われても……なんに使うんだろ? でもって、柚月の表情からは、もう知ってるでしょ的なオーラが出てるよ。
うーん、困ったな。
よかったね柚月、縄やロープだけじゃなくて、そんな銅線でまでも楽しめるんだね、マゾヒスト部の活動は。
「違う~! マゾヒスト部じゃない~!!」
え? 違うの? じゃぁ、何に使うのよこんな赤い銅線さ。
私が言うと、柚月はきょとんとした表情になってしまったよ。
まさか、見せただけで私が瞬時に理解してくれたとでも思ってたのかな?
「なんで~? 分からないの~?」
分かる訳ないじゃん。私らは今日、柚月のピュアトロン取り付けの話をしてるんだからさ、まさかとは思うけど、ピュアトロンの電源をそんな太いケーブルで引き直そうとか思ってないよね。
私は機械類にはそんなに強くないんだけど、そんなケーブルで電源引き直したら、きっとピュアトロンのモーターが超高速回転になって焼き切れちゃうと思うよ。
「違う~!」
だったら何なのさ!
柚月のそう言うところ、良くないよ。
何でも自分の中で完結させて、それをさもみんなが知ってるのが当然みたいに思って言ってくるのさ。
もし、ウチでそんな事したら、芙美香に殴られちゃうからね。
“ビタンッ”
「殴ってるじゃないか~!」
殴ったってのは、グーでボカッといくんだろ、今のは平手でビンタじゃん!
私の言う事が不服そうな表情だな柚月。
あ、良いところに優子が来た。
おはよ、ねぇ、優子、このケーブルって、何に使うか分かる?
「さあ?」
ホラ見ろ、優子だって知らないじゃないか!
「マイと優子だけが、察しが悪いんだもん~!」
なんだと!
結局、結衣と悠梨も知らなかったが、柚月に真相を問い詰める前に、ホームルームが始まってしまって、その後の追及ができなかった。
昼休みの部室で、私はみんなにその話題を振ってみた。
ねぇ、これって何に使うか分かる? 柚月の奴が持って来たんだけど、私らが使い方が分からなかったからって、まるで私らの察しが悪いみたいに言うんだよ。
燈梨は、まじまじと見ていたが
「ゴメン、分からないや。オーディオの電源を強化するか、ウーファーでも付けるくらいしか、考えられなくて」
と言った。
やっぱりそうだよね、燈梨。私もオーディオの電源強化かと思っちゃったんだけど、どうやら違うみたいなんだよね。
アマゾンの答えはどうせ分かってるよ。
マゾヒスト部で使うロープの代用品だよね。
「マゾヒスト部じゃないっス! しかし、自分にもオーディオ系のチューニングにしか思えないっス!」
柚月は、さっきからのみんなの回答を一瞥して、ふふんと鼻で笑ってるだけなんだよねぇ……どうやら正解ではないみたいだ。
柚月ごとき、いつもみたいに拷問して吐かせちゃえば楽勝なんだけどさ、それだと面白くないし、正解して鼻をあかせてやりたいんだよね。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『ケーブルで柚月は一体何をするつもりなの?』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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