第320話 健康優良児と活性炭
何故か分からないけど、ピュアトロン貰っちゃったから帰りにディーラーに寄ってフィルター買う事になっちゃたんだ。
即日には来ないみたいだから、何日か待つことになっちゃうんだけどさ、それでもピュアトロンなんて何の意味があるのかな? 私には必要ないと思うんだよね。
ホラ、私は健康優良児だからさ。
“ビシッ”
痛っ! 柚月め何するんだ!
「参りました~。ゴメンなさい~!」
そう簡単に許されると思うなよ。秘技、倍返しだ!
「もう何倍にもなってるよ~!」
うるさい! 口答えするない!
それにしても、貰っちゃったから付けるんだけど、これって何か意味あるのかな?
あの時は短絡的に気管支が強くない柚月には、これがピッタリだろうって思ったんだけどさ。
ちなみに、柚月の家は、一家でこっちに引っ越して来てるんだ。
柚月が生まれた時は、おじさん達は東京に住んでいて、東京に家と道場があったんだけど、柚月が虚弱体質で、気管支も弱いことが分かったからって、そこを売って、おじさんの故郷であるここに引っ越してきたんだよ。
そのくらい、子供の頃の柚月は体が弱かったからね。
今の柚月は、心臓に毛が生えてるくらい体に心配なんかいらなくなっちゃったただの菌だからさ、ここの気候ってそんなに凄いのかなぁ……。
「うるさいやい! 大体『心臓に毛が生えてる』って、体が丈夫って意味じゃなくて、無神経な事の例えだろーが、それから、ユズキンって言うなよ~!」
だから合ってるんだろーが、柚月なんかただの無神経だろ! 優子が二股かけられてショックで落ち込んでた時、『山之内なんて屑だよ~。あんなのと付き合ってる女の神経が分からないから~』なんて言って、優子に引っ叩かれただろ。
それから、菌と言っただけで、柚菌とは言ってない!
「おんなじことだ~!」
なんだと!
◇◆◇◆◇
昨日は、あれから柚月とくだらない小競り合いをやっちゃったから、うっかり見たいテレビがあるのを忘れちゃったよ。
そして、今日は午前からバイトなんだけど、その時、燈梨と一緒のシフトだったから、昨日の解体屋さんでのことを話したんだ。
「へぇ~、良かったじゃん! あれって買うと高いんだよ」
そうなんだ。
でもって、私のような健康優良児には不要なものだと思うんだよね。
私が言うと、燈梨は少しだけ考えるような仕草になって
「でもさ、マイちゃんって花粉症の傾向って無いの?」
と訊いてきた。
燈梨、自慢じゃないけど、田舎に住んでるからなのか、花粉症の傾向は全く無いんだよね。
ウチの家族も全員が……って、でもって芙美香だけが最近、年明けてしばらくすると、何かの花粉で……って、言ってたなぁ、ウチは芙美香だけ東京の出身だからね。
「でも、マイちゃんも、これからどうなるか分からないからね。最近の車には、エアコンにクリーンフィルターってのが入ってて、ある程度防げるけど、私達のみたいに昔の車だと、そういうのが無いから、有効だと思うよ」
燈梨が言って、なるほどと思っちゃったよ。
この間、私の車も現代化計画を発動したばっかりなんだけど、すっかり『現代化』ってところの根本を忘れちゃってたよ。
今の車は、コストダウンでショボくなってるところもあれば、エアコンみたいに、今の環境に合わせてバージョンアップしてるものもあるから、そこのところも見極めたうえで、いいとこ取りしなきゃね。
そうだ、毎年お父さんや芙美香の車はクリーンフィルターを交換してたよね。
なるほど、エアコンの中に組み込まれてはいないけど、働きは同じ物なんだね。
そうだよ、春の季節とかに東京に行ったりすることがあるかもしれないしね。そんな時にピュアトロンがあれば、怖いもの無しってことなんだよね。
ディーラーから電話があって届いたって言うので、帰りに取りに行ってきたんだ。
フィルターって言うから、ただのスポンジみたいなものだろうって思ってたけど、活性炭フィルターも入っていて、何層にもなってるんだね。
1回買ってみて、ただのスポンジとかだったら、100均のスポンジとかで、次回からは代用しちゃおうとか思ってたんだけど、どうもそうはいかないみたいだね。
燈梨も一緒について来てくれて、見てたんだけど、ディーラーの担当者と、ピュアトロンについての談義になっちゃったんだよね。
やっぱり、年代によってピュアトロンにも変化があって、R33や燈梨のS14の世代になると、ワイヤレスリモコンで操作できるようになって、オートモードまであるんだって。
なんか、聞いてるうちに燈梨が妙に話に乗ってきちゃってさ、帰り際に
「マイちゃん、今日、ちょっと良いかな?」
なんて言ってくるから、2つ返事でOKしたよ。
まぁ、行き先は昨日に引き続き解体屋さんなんだけどね。
「おおっ! 今日も何か探しに来たのかい? へぇ、新しい部長さんもS14なのかぁ……」
そうか、おじさんは燈梨の車は初めてだったんだね。
早速訊いてみると
「S14用も、豊富に在庫してるから、好きなの持ってって良いよ」
と言ってくれたので、さっそく探し始めた。
ディーラーですでに廃盤になってる本体を調べて貰ったところ、リモコン付きだって事と、リアワイパー付きと無しの品番があるみたいなので、取り付けの配線をよく見ながら探す必要があるって言われてたから、この2点を注意しながら探したんだ。
でもって、おじさんは凄くマメなんだよね。
1つ1つの本体の所に養生テープで、何年式のどのグレードでどのオプション付きでという情報と、色まで記載されてるんだよ。
しかも、完動品とジャンク品もしっかり分けてあるから、凄く分かりやすいんだよ。
解体屋さんって、一見するとただ無秩序に車を重ねて、手当たり次第に潰してるだけみたいに見えるけど、ここを見てると、マメじゃないとできないんじゃないかって気がするんだよね。
だって、ガサツだったら、部品庫の中がゴミ山みたいになって、どこに何があるのかなんて分からなくなっちゃうんだよ。
ここは地域柄、日産が多いけどさ、他のメーカーだってたくさん入ってくるし、外車だって結構あるんだよ。だけどそれらもピシッと、メーカーや車種、どのジャンルの部品化によってきっちり分けてるから、おじさんは、どんな車の事を聞かれても瞬時にどこにあるか案内できるもんね。
「マイちゃん。ここって凄く細かく整理されてるよね」
燈梨も感心してたよ。
なんか、これを見て思うのは、部のガレージの中とかも、こういう感じで整理整頓してみたいなぁ……って思っちゃうよね。
「あははは……私も、今そう思ってたよ」
歴代部長をそう思わせちゃうなんて、いつもながらここのおじさんは謎キャラだよなぁ……。そして、ウチの部はこの解体屋さんによって支配されていると言っても過言じゃないんだよなぁ。
「あはははは……」
燈梨もそう思ってたなぁ。
さて、燈梨のピュアトロンは結構すんなりと見つかったよ。
同じ年式で同じ仕様の車についてたのがあってさ、それが凄く綺麗だったんだよね。
ホラ、昔は花粉症がそれほど深刻じゃなかったから、こういうものつける人って、喘息とかの人じゃなければ、煙草吸う人っていうパターンが多かったんだよ。
だけど、これは黄ばんでも無いし、黒ずんでもないから、きっと禁煙車についてたんだよ。
よしっ! これにしようよ。
「うんっ!」
おじさんに訊いたら、やっぱり学割価格で売ってくれて、更にフィルターまでくれたんだよ。
どうやら、前に解体に入った車のグローブボックスに入ってたんだって。きっと交換するつもりでいるうちに、車検が切れちゃって解体……ってことになったんだと思うって言ってたよ。
それじゃぁ、明日は遂に取り付けだね。
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『ピュアトロンの効能について勉強になった!』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は遂に取り付け編です。
お楽しみに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます