第319話 暴挙と天井吊り下げ式
土曜日の午後、私と柚月は解体屋さんに行ったんだよ。
それにしても柚月は、今日も豪快に結衣に殴られてたなぁ……朝からの半日だけの日程の中で、何回結衣に追っかけられてたのよ!
「6回だよ~。でも、そのうち半分は、言いがかりなんだよ~。最近のユイは暴力症なんだよ~」
うん、それは分かる。
前から結衣は、なにか話の矛先が自分に向きそうになると、柚月に当たって誤魔化そうとする傾向があったんだけど、最近はその傾向が顕著になってきたよね。
でも、6回のうち3回は柚月に原因があるのか、なら仕方ないなぁ……。
「仕方なくなんて、ないやい~!」
だって、柚月が結衣に付け入る隙を与えてるから、結衣がそれに乗じて謂れなき暴力に走るわけでしょ?
それは柚月にも責任ありだよ。だって私も優子も悠梨も、誰もそんな隙を与えてないから、結衣は手も足も出してこないよ。
「そんなことないもん~、みんな悪い事してるのに、ユイは、私にだけ暴力振るうんだもん~。ユイはマイと一緒でサディストなんだもん~!」
この野郎! 柚月め! 私は結衣の暴挙を憂慮してあげてるのに、その私に向かってまで牙を剥くのかぁ?
そんな柚月はこうしてうやるっ! えいっ! どうだっ!
「参りました~、ゴメンなさい~!」
まったく、最初からこうなるのが分かってるんだから、余計な事言わなきゃ良いんだよ。雉も鳴かずば撃たれまいって、まさにこの事だよね。
大体さ、さっきの柚月の論理で言うと、それは柚月がマゾヒストだってことを認めた事になるんだよ。
「マゾヒストじゃない~!」
だってさ、結衣がサディストだからって、柚月だけがやられる理由にはならないじゃん。
「ううっ……」
ようやく自分の論理の破綻に気付いたようだね。
「と、ところで~、今日はなんでここに来たの~?」
それは当然柚月のためだよ。
今日こそは柚月を廃車のトランクの中に閉じ込めて帰ろうかなってさ
「なんでだよ~!」
さて、冗談はこのくらいにしておいて、この間、優子の車の中にピュアトロンがあったじゃん。
アンタの車の中にもあった方が良いと思ったからさ、ここに探しに来たって訳。ここになら1個くらいありそうな気がするんだよね。
あんな古い車のオプションパーツだから、新品は期待できないだろうし、出たとしても恐ろしく高いだろうからね。
「マイ~」
なんだ柚月、妙にウルウルした目で、私にすり寄ってくるな。キモい!
さて、早速おじさんに訊いてみよう。
「おおっ!? 今日は何を探してるんだい? R32用のピュアトロンかぁ、20個以上あるよ。みんな完動品だから、どれでもOKだよ」
どうもおじさんの話によると、ピュアトロンも時期や車種によって、色々なタイプのがあるらしいけど、R32に付いてるようなリアトレイに設置するタイプのものが一般的らしいよ。
変り種では、U11型っていう30年以上前のブルーバードのピュアトロンは、ルームランプ一体型の凄いゴツイものだったらしいよ。
ピュアトロン自体は車種用でも、ほとんどの場合はリアトレイに固定するだけのタイプだから流用も可能らしいけど、一部の車種用では、リアトレイの鈑金を切って取り付けるタイプもあるから、よく取り付けを見てから、流用を考えた方が良いんだって。
「前に、R32にU13ブル用をネットオークションで落としたけど、板金カット知らずに取り付けられなくて、ここに引き取ってくれって来たのがいたからね」
なるほどね。
今回は車種用があるから良いけど、もし、無い場合はよ~く注意した方が良いってことね。
よしっ、さっそく探してみよう……って、ピュアトロンをしまってる倉庫は、いつもの部品庫と違って結構清潔なんだね。
モノは他の部品庫と同じトラックのパネルなんだけどさ、なんかこっちは埃や油っぽくないし、エアコンまで完備してるよ。
なるほど、こっちは室内部品を保管しておく倉庫なんだね。
それにしてもピュアトロンって一口に言っても、おじさんの言う通り色々な種類のがあるんだね。
これは、なんか背面にストップランプみたいなのが組み込まれてるよ。
え? これは、ハイマウントストップランプ組み込み型? そんなのもあるんだ。
2005年以前は、ハイマウントストップランプは任意装備で、むしろ、カー用品とかに興味がない人以外は、わざわざオプションでつけたりしなかったみたいだから、ピュアトロンに組み込んで便利感と高級感の一挙両得みたいなのを狙ったみたいなんだね。
おおっ! これがルームランプ組み込み型だね。
思ったよりも結構分厚いから、スカイラインに取り付けるには向かないね。
ブルーバード向けとは言え、ブルーバードにつけても結構圧迫感があるんじゃね?
おじさんがその隣にあるピュアトロンも見せてくれたよ。
これは改良された第二世代のルームランプ組み込み型なんだって。
結構薄型にはなってて感心しちゃうんだけど、でもってこれさ、ここまで薄くなると肝心の空気清浄機能はどうなっちゃうんだろ? って思っちゃうんだよね。
そして、これがR32用だね。
なんか、結構な長さの配線が付いてるけど、リアトレイに設置して、運転席で操作するからこんな感じなのかぁ……。
まぁ柚月、ここにあるから好きなの買っちゃいなさいよ。
私のじゃないからお気楽なもんだよ。ほらっ、柚月、私はこのルームランプ組み込み型の初代モデルが良いと思うよ。この観光バスを彷彿とさせるシャンデリア感がたまらないよ。
「普通のにする~」
普通のって言うと、ルームランプ組み込み型2代目って事?
私はあまりお勧めしないよ。
薄型になった分、どうも空気清浄の機能が怪しいし、それに何と言ってもゴツさが無くてさ、私的に言わせて貰うとこの2代目は中途半端に古いだけの'90年代のルームエアコンみたいで、風情に欠けるうえに、機能的にも今の機種にかなわないっていう、一番中途半端な立ち位置なんだよね。
「違う~!」
え? そうなんですか?
柚月~。おじさんに教えて貰ったんだけど、初代モデルはね、イルミネーションが七色に替えられる機能が付いてるみたいだよ。
やったね柚月、これで初代一択だね。
「吊り下げ式にはしない~!」
ちぇー、面白くない奴。
だから、結衣に殴られるんだぞ。
「関係ないもん~!」
さて、R32用は1種類しかないから、程度重視で良いと思うな。
リアトレイに設置するものだから、保管状況や、リアウインドーにスモーク貼ってたかなんてところが、この場合、見ていくポイントになるよね。
この外枠のカバーみたいのの、色合いや触った感じを見てみると、程度が判別できそうだよね。
……柚月と触り比べてみた結果、一番程度が良さそうなやつを買う事にしたよ。……それにしても、おじさんはピュアトロンの本体、スイッチ付きで1500円って、爆安だな。あ、そうか、学割だね。
まぁ、良かったね柚月、あとでディーラーに寄って、フィルター買って来てから取り付けるんだよ。こういう物はフィルター交換しないと何の意味もない電気の無駄遣いになっちゃうからね。
あ、おじさんが呼んでるよ。
おじさんが、柚月にピュアトロン付き車用のリアトレイを渡してくれたんだ。
そうか、リアトレイに置くから、その部分をカットしないといけなかったんだね。
このトレイ自体は随分と汚くて使い物にならないから、型紙代わりに使えそうだね。
「あ、それから」
おじさんが私も呼び止めたんだよ。
「友達のために、わざわざここまでやってくれる感心な娘にご褒美だよ」
え? ピュアトロンを私にもですか? いやぁ、悪いなぁ、柚月の用事についてきただけなのに。
そんな、友達思いなんかじゃないんですよ。柚月は私の奴隷なんですよ。
「マイ~!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます