第313話 突然の展開とご来光

 その日の帰り、家に到着してミラーを畳もうとスイッチを格納側にしたが、無反応だった。


 あれ? おかしいな?

 スイッチをカチカチと何度も展開と格納にしているうちに、思い出したかのようにミラーが格納された。

 もう、冬だからって、サボっちゃダメだよ。


 そして、翌朝、ミラーを展開させようとすると、また無反応だった。

 困ったなぁ。

 昨夜と同じように何度もスイッチを格納と展開で動かしてみたが、今朝は全く無反応なので、仕方なしに手で展開させたんだけど、手でやるときちんと開かれたところでロックしないんだよねぇ……。


 学校に着いてもそれは変わらなくて困っちゃったよ。

 まったく、どうしちゃったんだろうね。

 教室に入ると、既にいた柚月と悠梨が私を見つけると、悠梨が嬉しそうな表情で言った。


 「おーーい、マイ、聞いてよ聞いてよ!」


 なに、悠梨?

 私はさ、今朝は悩み事があって、悠梨の話はあまり聞いてあげられないかもしれないんだけど……。

 ……って、悠梨聞いてる?


 「え? あんまり聞いてない。あのさ、大晦日から、おじさんの別荘にご来光ってやつを見に行かないか? 別荘のリビングから見えるから、外に出る必要もないし」

 

 え? ご来光? ご開帳じゃなくて?


 「ご開帳は門とM字開脚だろ! そうじゃなくて、分かりやすく言うと初日の出ってやつだよ」


 初日の出かぁ……そう言われてみればまともに見た記憶はないなぁ。

 子供の頃、お父さんが張り切って家族皆を連れて初日の出を見に山の上の方まで行ったんだけど、私は途中で寝ちゃったからね。


 でもさ、それは良いんだけど、柚月はどうするの? 柚月の家は、お正月は、ねじり鉢巻きにふんどし姿で餅つきって決まってるからさ。


 「それはクールポコだろ~! ウチはふんどしでなんてやらないやい!」


 まぁ、照れないでいいからさ、どのみち柚月はこのタイムスケジュールだといけないじゃん。


 「私も~、今日聞いたばかりだから、帰ってから訊いてみないと分からないよ~」


 だよね。

 私も訊いてみようっと。

 でもって、兄貴の家が近くなって最近は会う機会も増えてるから大丈夫な気もするけどね。


 その話を、昼休みにチラッとしたところ、燈梨が


 「みんなが行くんだったら、沙織さんに訊いてみるね。近くの別荘に泊まりで来てくれると思うんだ」


 と言った。

 そうか、オリオリさんも、知り合いの別荘が近くにあったんだよね。

 そうすると文化祭の時に会ったあの4人も呼んだら面白そうだね。


 「それも含めて訊いてみるね」


 と言ってスマホを取り出してLINEしていた。


◇◆◇◆◇


 帰りに駐車場まで来て、ようやく今朝の事を思い出し、みんなに話したら、優子が


 「それって、結構出る症状じゃない? 私のだって1週間に1~2回は起こるよ」


 と言った。

 それを聞いた柚月と結衣は


 「そんなこと、ないやい~!」

 「私は起こらないぞ」


 と、否定した。

 しかし、こういう場合の原因はなんだろう?

 こういう部品ってのは、スイッチと配線とミラー本体の構成になってるんだろうね。


 「でも~、マイの話を聞くに、ミラーのモーターはきちんと動いてるっぽいよ~」


 確かに、モーターがおかしいなら、右が止まっても左は動いているのが普通だし、逆も然りだけど、私の車のは左右同時にピタッとストップしたからね。


 となると、スイッチかな? じゃぁ、手っ取り早く誰かの車のを借りよう。


 「私のじゃ参考にならないと思うよ」


 確かに優子も似たような症状が出てるから、交換して動かなかったら、どれが原因か判断できないもんね。

 そして、悠梨はR33だから対象外……となると


 「私のは~イヤだからね~!」


 なんでだよ柚月、そんな減るもんじゃないんだから、ちょっと貸してくれたっていいじゃん!

 それとも、柚月は友達の私が困っているのに、平気でそんな冷たい事が言える冷血漢なんだ。


 あそ、マジガッカリだよ。

 その車だって、あちこちの伝手に私がお願いして探して貰ったのにさ、柚月はホントに友達甲斐の無い奴だよね。


 いいや、じゃぁ、悪いんだけど結衣、貸してくれる?


 「いいぞー」


 じゃぁ、ちょっと外しちゃうね。

 柚月はついて来なくていいよ。お疲れちゃん、さっさと帰れば?

 柚月は何か言おうとしたが、みんなからの無言の圧力を感じて黙り込んでしまった。


 ええ……っと、R32のミラーのスイッチは運転席のドアアームレストのパワーウインドーのスイッチの先っぽに付いてるから、スイッチを外す要領でいくんだよね。

 ドアを閉める時に手をかけるポケットみたいな窪みの底にあるキャップをマイナスドライバーで外して中にあるネジを緩めていくと、後は爪で引っ掛かってるだけなんだ。


 「なんか、最近の車って、そのキャップを省いてるのが多いよね」


 優子が言うところによると、コスト削減の一環でやってるつもりなんだろうけど、優子は冬場にドアを閉めようとしてネジに手が触れて静電気がバチってなるから、凄く嫌なんだって。

 優子は指が長くて綺麗だからね。優子らしい悩みだね。

 しかも、キャップが無いせいで埃が溜まったり、ドアの開閉時に雨がかかってネジがサビ付いて、頭がボロボロになっちゃったせいで、ネジ山を舐めちゃったりしたから、そういうのはメーカーの怠慢だって思うって?


 「そう言われてみれば、父ちゃんが仕事で使ってるエブリィがそれだったって言ってたぞ」


 そうなの結衣?

 結衣のお父さんが仕事で使ってるエブリィの、運転席側のスピーカーから音がしなくなったから、工場に持って行ったら、運転席側のドアポケットのボルトがサビサビになってて、外すのに10分くらいかかって、工場長が参ってたんだって?


 なるほどね。

 そんなボルトキャップ談義をしている間にスイッチが外れたからハーネスを外して、ミラーのスイッチだけを、裏側から外して、結衣ちょっと借りるね。


 そして今度は自分の車に戻って同じ作業をすればいいんだ。

 結衣のは4ドアだけど、ミラーのスイッチ自体は同じだからさ、別に問題ないでしょ……ほら、コネクターの形状も一緒だし、それじゃぁ、コネクターに結衣のスイッチを繋いで、エンジンをかけてミラースイッチオン……って、反応がないねぇ。

 やっぱりだなぁ……よしっ、私の車と同じように何度かオンとオフを繰り返そう。R32の格納スイッチはオンとオフの他に中立の3段階だから、今の車みたいに素早くオンオフってのができないんだけどさ……。


 「そう言えばさ、このスイッチって、どの位置にするのが正解なんだ?」


 結衣は説明書を読まないタイプだね。

 ちゃんと書いてあるよ、展開する時と格納する時はそれぞれの位置にして、終了したら中立に戻すって。


 「あ、ホントだ。でもって、なんでこんな面倒なスイッチになってるんだ?」


 恐らくだけど、電気の流れっ放しによる無駄と、モーターの破損を防ぐためじゃないかな?

 パワーウインドーもそうだけど、スイッチを入れっ放しにしてるとモーターが回り続けてるのってあるよね。でもって、展開しきってたり格納しきってる状態で電流が流れてると、モーターは回り続けようとするから、焼き付きとかが起こっちゃうよね。


 「でも、さすがに回り続けはしないだろう」


 きっと安全装置みたいなのはあると思うよ。

 でも、今の車のミラーって展開か格納の2段階でしょ。

 あれで、展開になってる時に障害物に当たってミラーが畳まれると、瞬時に展開してくるから、もしかすると……ってことはあるかもね。


 とにかく、兄貴から教わった16連射で、展開と格納を繰り返し押すんだ。


 「マイ、そのネタ分かる人、この中にはいないからね」


 いや、少なくとも優子は分かったじゃん。

 何回かその動作を繰り返した時に、動きがあったんだ。

 

──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『ドアミラーのスイッチに中立なんてあったの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 

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