第312話 冬休みと凄い予定
さて、柚月のオルタネータ交換と、部車にFC3Sが入ったおかげで、すっかりこの何週間かは部に入り浸りになっちゃったよ。
悠梨に至っては、FC3Sの外装補修に命かけ始めちゃって、すっかり毎日部に通いつめちゃってるんだよね。
でもって、時期的にはもう期末テストも終わって、そろそろ冬休みの時期になるんだよね。
まぁ、私らは受験も終わったから、そこら辺に追われる心配も無いんだけどね。
「マイ~、冬休みにどっか出かけるの~?」
なに柚月? 別にどこも出かけないよ。むしろウチは兄貴の一家が帰ってきたりで、迎える方だからね。
「それじゃぁ~、どっか行こうよ~」
柚月、私の話を聞いてたか?
聞いてたとしたら、どこら辺が『それじゃぁ』に当たるんだ?
大体、柚月の家だってお兄さんが帰ってくるでしょ? それに餅つきはどうするんだよ。柚月の家では毎年餅つきやってただろ? だからいつも柚月はお正月とかに誘いに行っても出かけられなかったじゃないか。
「ううっ……」
柚月め、言うだけ言って何も考えてなかったな。
こりゃぁ、もし、出かける計画なんて立てたら、確実にお正月におばさんに柚月が捕まって、ボコボコにされた挙句、柚月だけ来られない……とかいう状況になるのが確定だね。
それにさ、こんな時期にどこに行くんだよ。
スキーなんてそこら辺で出来るからパスだし、温泉だって町内で出るから、わざわざ遠くに行く必要なんてないじゃん。
もう、柚月ノープラン過ぎて全く行く気にもなれないじゃん!
人のところにギリギリのタイミングで持ってくるなら、もっと具体性のあるプランにしろっての!
「マイ~」
もうっ! ダメったらダメ!
最低、柚月がおばさんに外出のOK取ってから、言ってきなさいよ。
そうじゃなきゃ、私はテコでも動かないからね。
ホラホラ、そろそろ授業が始まるよ。柚月は冬休みの間、プラモデルでも組み立ててればいいじゃん。
この間買ったFC3Sのプラモデルで部車でも再現してみなよ。
「あんなFCには仕上げない~!」
なにあんなって。
あんなFCなのに、柚月は乗れなくて半べそになってたくせにさ。
そんな事言う柚月は、部車のFCに乗車禁止ね。
「イヤだイヤだイヤだ~!」
もう、めんどくさいなぁ……。
「マイ、それじゃぁ、泊まりじゃなければ良いんじゃない? それなら、どこか行けるでしょ?」
優子、それはそうだけどさ、日帰りで、どこかいい場所なんてあるの?
ウチらの街なんて、小さくて楽しめる場所なんて限られてるし、街を出るには1日だとせいぜい山を下った先の街くらいまでしか行けないじゃん。
あそこなんて、もう、ロクに遊べる場所なんてないよ。
ショッピングセンターも寂れちゃってる上に規模だって、ウチらの街のイアンモールの方が遥かに大きいし、一時期栄えただけに、寂れっぷりはウチらの街より酷いって話だしね。
温泉街だって、日帰り入浴やってないところが多かったせいで、廃墟旅館だらけだしさ、楽しめるのは結衣くらいなもんだよ。
「マイ、聞こえてるんだよ!」
だって、ホントの事じゃん……って、やっぱり廃墟探索動画見てる。『幽霊マンションと呼ばれたホテル廃墟〇×』だってさ。
やっぱり優子、やめとこうよ。
気が付いたら結衣だけいなくなってて、みんなで探したら、結衣が廃墟ホテルの大浴場のお湯も入ってないカラカラの湯船に浸かりながら『現役の時は、こんな眺めだったんだろうなぁ~』なんてスマホで録画しながら言ってそうだよ。
イヤーーーー!
「しないからっ!!」
あそ。
まぁ、でも優子さ、わざわざ行くような所でもないからさ、パスだよパス。
「いや、マイ、もっと近くだよ」
なに優子、勿体つけないで言ってよ。
「この間、ユイの車のテストした時に、ウチの持ち物のホテルに行ったじゃない」
あぁ、あそこ?
でも、あそこに行っても日帰りじゃぁ、楽しくないでしょ。
ああいう所は温泉に入って、料理に舌鼓うって、泊まってきてナンボのもんでしょ。
すると、優子はクスッと笑ってから私に耳打ちしたんだよ。
「そうじゃなくて、表のコースで走ろうって話。 凄い車、手配したんだ。きっと、みんなが乗りたがると思うよ」
そうなの? みんな、そう言う事なんだけど、どう思う?
「マイにしか聞こえてないよ~」
そうだったか……という事で私はみんなに改めて説明した。
「良いんじゃない~?」
「良いと思うよ。柚月とかマイは日程的に自由になり辛いでしょ?」
「私もオッケーだぞ」
それじゃぁ、冬休みのどこかで1日、その優子提案の凄い車とやらの試乗会をやってみよう。
それにしても、凄い車って、一体なんだろうね?
「私は、フェアレディZに乗ってみたいな」
昼休みにふと私がその話題を口にしたところ、あやかんが反応してきた。
そうか、あやかんは似非フェアレディZという別名を持つNXクーペに乗ってるもんね、やっぱり気になるんだね。
「まぁ、意識はしてないけど、とはいえ気にならないって言えば、嘘になるかな」
そうだよね。
ちなみに、Z32のフェアレディZは、ノンターボのモデルならまだ爆上がりというほどでもない価格だけど、排気量の大きさは維持費に跳ね返るよね。
しかも、この辺で冬場に乗るにはマジで向かないから、セカンドカー必須だよね。
「マイ~、ツインターボだとどうなるの~?」
柚月が質問してきたぞ。
正直、日本の道路で乗る分にはそこまで大幅に変わるもんじゃないよ。排気量も3000ccで、低速からパワーが出るから、最高速チャレンジするんじゃないなら、ノンターボで充分らしい。
兄貴から聞いた話だと、ターボの方が、高速域でのアシストが厚いっていう感じ方だったって、だから、本当に速さを追求するならターボだって言ってたよ。
だけど、兄貴はノンターボ推しだったね。
兄貴の知り合いに、ノンターボのZ32でゼロヨンやってた人がいて、マフラー交換だけでFC3SやS13のブーストアップに勝てるって言ってたって。
「そんなに速いのか?」
結衣が驚いていた。
そりゃぁ、3000ccもある訳だし、しかも、重いとは言っても軽量設計でシャーシもしっかりしたスポーツカーだからね。
そして、兄貴がノンターボ推しの理由の1つが壊れにくい事なんだよね。
Z32はあのデザインだから、エンジンルームに熱がこもりやすいっていう弱点があるんだけど、ノンターボなら故障要因が少ない上に、構成部品が少ない分、少しだけエンジンルームの熱が抜けるから、壊れにくいらしいよ。
「そうなんだ」
そうなんだよ、燈梨。
しかし、当日優子がどんな車を用意するか、楽しみだねえ。
そうだ、燈梨も来る? せっかくだからあやかんも来ればいいし、ななみん達も良いよね?
「アマゾンじゃないっス!」
そんな陽気な話題で、冬休みの話をしていた私は、その直後にあんなことが起こるとは思わなかったんだよ。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『優子の用意した凄い車って、一体何?』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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