第309話 戦闘スタイルと異なる性格

 「どういう事っスか?」


 柚月はさ、普段から安定してる4WD車にしか乗ってないからさ、RX-7みたいなカミソリ並みのキレ味の車に耐性が無いんだよ。

 だから、ちょこっと乗るだけなら良いんだけど、それなりに乗ってくると緊張の糸が切れちゃうんだよ。


 「そう言われてみれば、ズッキー先輩の試合でのスタイルは、早期に勝負を決めてKOするか、早めに相手にダメージを与えて、時間切れに持ち込んで判定で勝つパターンが多いっス」


 そうなんだよ、だから、もう焦ってミスが連発してるよ。

 

 「例えば、どんなところっスか?」


 さっきから、オーバースピードで進入しては、強引にハンドル操作で内側に向けようとしてるんだけど、そのせいで、段々フロントのグリップが甘めになってきて、柚月の曲がりが外寄りになってきてるんだよ。


 「ホントっス!」


 乾燥路なら、熱ダレって言って、無理な操作によって起こる摩擦熱でタイヤの温度が上がると膨張していって、グリップが甘くなるんだ。

 今回はスタッドレスで、乾燥路じゃないんだけど、スタッドレスタイヤで無理矢理ハンドル操作だけで曲がる事を続けてると、ブロックがよじれたり、最悪は飛んだりしちゃうんだよ。

 さすがにこれだけ凍ってるとそれも無いんだけど、今度は溝の中に氷や水が詰まってきて、結果、グリップを落としちゃうんだよ。


 「なるほど」


 ホラ見て、フロントのタイヤハウスに氷の粒がびっしりついちゃってるし、無理矢理に曲がるから、フラフラしてきちゃってるよ。

 しかも、柚月の乗り方が、4WDを基準にしてるから、RX-7の特性とズレちゃってるんだ。


 「それって、何が違うんっスか?」


 4WDは、ちょっとだけ重たいのと、立ち上がりは4輪が動いてグリップが強力だから、早めにブレーキングして、早めにアクセルを開けるんだよ。

 柚月は、それ自体は理解してるんだけど、いざRX-7がどのくらい曲がるのかがイメージできてなかったから、ブレーキのタイミングが遅れちゃったんだよ。

 しかも、アクセルの開け方が自分の車を基準にしてるから、FRだと支えきれずにお尻を振りながら走ってるんだ。


 でも、RX-7は基本的に曲がるから、そんな運転でも、なんとか形にはなってるんだけど、柚月の性格とあの走らせ方だと、もう少し見てれば自滅すると思うよ。


 「どういう事っスか?」


 柚月は、持久戦が苦手で、短期決戦に持ち込めないと、イラつき始めて、自分の意思と、車の動きのズレがコントロールできなくって、コントロールミスしてるから。

 そして、無理させて走らせてるから、RX-7も限界に達して、柚月のコントロール下に置けなくなるから。

 つまりは、車もドライバーも限界を超えるって事だよ。


 「なんで分かるっスか?」


 1年の頃、柚月がNSR80とかいうバイクを借りてきて、山を越えて向こうの県にできたカフェにみんなで行こうって無理矢理セッティングしてきたのさ。

 最初は、みんなを引き離してたんだけど、30分位走ってたら、路肩で止まってるの。

 柚月にしては、みんなを待っててくれてるなんて殊勝な心がけだねって思ったらさ、『疲れたから帰りたい~!』って言い出したの。


 「マジっスか?」


 さすがに結衣も私もムカついてさ、柚月が言い出した事でしょって言ったらさ、柚月の奴、普段乗ってるメイトと、あまりに回転域が違うから、その高回転域をキープできなくて、更に、あのおもちゃみたいな外観だから、ホイールベースが短すぎて、パワーに対してピーキーな動きをするから、途中で集中力切らして、嫌になっちゃったって言うんだよ。


 「なるほど、それで、その後どうしたんっスか?」


 でもって、柚月以外みんな原付免許だったから、仕方なくみんなで戻ったんだよ。

 さすがにその時は、みんな怒っちゃって、柚月は優子と結衣からしばらく口きいてもらえなかったからね。


 「そうだったんっスね……でも……そうか!」


 そうだよアマゾン。まさにNSRの挙動はまんまRX-7に当てはまるんだよ。

 持久戦での柚月は、初手に全力でダメージを与えておいて、後半はそれなりの実力で時間いっぱい使うような戦い方のスタイルなんだよ。

 だから、RX-7みたいに、パワーバンドが狭めで、挙動がピーキーなのだと、柚月の得意な『後半それなり』的な動きができないんだよ。


 「じゃぁ、どうすればあの車を上手に走らせられるんっスか?」


 でも、それは普段のアマゾンのバイクと走らせ方は一緒だと思うよ。あの、アプリリアとかいうスポーツ原付と特性は一緒だから、私的に言うと、持久走の走らせ方かな? 7割のペース配分で走り続けて、いざって時は9割くらいまで上げていって、また7割……みたいなの。


 柚月はねR32みたいな、ちょっとダルい部分があるんだけど、そのダルい一瞬の間を使って次の動きを考えて、組み立てるような走りがピッタリなの、案外、勘違いされがちなんだけど、柚月って頭脳派で『考えるな、感じろ!』って感じの動きは苦手なんだよ。


 柚月の格闘スタイルって、一撃必殺で、致命傷を与えるから、柚月はその分野においては天才的なんだよ。

 だから、柚月のペースって普段4割で、ここぞって時に10割出し切っちゃうんだよね、だから、車の走りの場合だと、ゼロヨン以外ではそんな短期で勝敗が決まらないでしょ、だから、ある程度ダルな車の方が柚月のスタイルに合ってカバーしてくれるって訳。


 ホラ、見てみて、柚月の曲がりに精彩がなくなってきたでしょ。

 

 「ほんとっスね!」


 本来、FCに対してR32だと、鼻先半分くらいカーブで外に膨らむ特性があるんだけど、柚月の運転が荒くなったせいで、FCの方が外に膨らんでいってるでしょ。

 柚月のFCは、カーブの途中から外へとフラフラと膨らんでいったため、私は、ブレーキングで前輪に荷重を移動させておいた内寄りのラインから立ち上がって、一気にFCを抜き去った。


 どうだ! 柚月、敗れたり~!


 「ズッキー先輩、止まるっス!」


 バックミラーで、後ろの様子を見た私は瞬時に言った。


 ななみん! しっかり見てて、柚月が取っ散らかるよ! 

 

 急な事だったので、ついついアマゾンって呼ぶの忘れちゃったけど、それが本気だって分かったのか、ななみんは後ろをキッと凝視した。


 するとFCは、外にフラフラ膨らんだ後、一瞬左を向いたかと思うと、今度は右に一挙に巻き込んでスピンして止まったよ。

 ……私は、R32をFCの真横につけると、ななみん……もといアマゾンが、FCの運転席に飛び乗って柚月を捕まえていた。


 「さぁ、ズッキー先輩は降りるっス! さもないとアマゾンキックっス!」

 「イヤだ~!」


 アマゾンと一緒に柚月をFCから降ろすと、私は言ったんだ。

 ダメだよ、柚月。

 だって、柚月の運転じゃ、FCに完全に嫌われてるもん。私の勝つのなんて10万年と4日早いよ。


 「そんなことないもん~! そのR32の方がチューンされてて速かっただけだもん~!」


 そんな訳ないじゃん、このコースの狭さだったら、曲がりやすいFCの方が速いに決まってるよ。柚月の運転の仕方が車に合ってないだけなの。

 とにかく、向こうに戻るよ。

 柚月にFC運転させるとまた逃亡するから、私とアマゾンがFC乗るから、柚月はR32乗って戻ってね。


 帰りは、案の定、柚月が私らのFCを追撃してきたので、コースを2~3周してあげたよ。

 結果は、私の圧勝だったよ。

 横に乗ったアマゾンが


 「マイ先輩の言ってた意味が分かったっス! 確かに先輩の運転スタイルがR32とFC3Sでは違うっス!」


 と言っていたのが印象的だったよ。

 アマゾンが言うには、R32の方が、リアタイヤを積極的にスライドさせていたのに対して、FCだと、車なりに曲がりつつ、ハンドルを小刻みに切り足していくような運転だったらしいんだけど、私も口にして説明できるほど、運転を切り替えてる訳じゃなかったんだよね……実は。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『R32対FC3Sのバトルは手に汗握った!』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 次回は 

 ようやく柚月を捕まえた舞華たち。

 1、2年生のFC3SとR32の運転に同乗します。


 お楽しみに。

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