第307話 遅かりし登場と初めて

 兄貴のしょーもない話は置いておくとして、早速本題のFC3Sを見てみようよ。

 やっぱりこういう車が1台あると部としてもカッコつくよね。R32も良いんだけどさ、やっぱりこう素人目に見てもスポーツカーって、感じのする車があるとね。


 それにして助手席ドアの後ろがべっこりいっちゃってるね。

 ……取り敢えず手鈑金で戻そうとした痕跡は見られるけどさ、テキトーなところで心が折れた的な放り出し方されちゃってるんだよね。

 そして、結構ガリガリやっちゃってるね。

 悠梨先生、この辺の今後の展望はどうなってるの?


 「任せといてよ! 私の卒業制作って事で、バッチリ元通りにしちゃうからさ」


 でもって、この車とは今日が初対面だから、元に戻すとなるとこの状態なんじゃね? って痛っ!


 「この状態な訳ないだろー! 新車並みって事だよ」


 マジ? こんなベコベコで色のくすんだFCが新車並みになるの?

 

 「私と、弟子2人で綺麗に直しちゃうから」


 悠梨の弟子って誰なの?

 2年生の美優みゆうちゃんと、陽菜ちゃんだって?

 この2人に悠梨の持てる技の全てを教え込んであるから、このFCも元通りにしちゃうんだって?


 一応、グレードはフェンダーについてるステッカーを信じるならGT-Xみたいだね。私は、一応FCのグレードについては網羅してるんだよ。小学生の頃、やたら兄貴がうるさく言ってたからね、覚えさせられちゃったんだよ。

 後期は基本が3つ、派生して4つグレードがあったんだけど、GT-Xは真ん中に位置するんだよ。


 「どんな感じのグレードだったんですか?」


 若菜ちゃんか、そうか、知らないもんね。ちなみに、GT-R、GT-X、GTリミテッド、GTリミテッド・スペシャルエディションの4つね。

 リミテッド系は豪華グレードなんだ、ヘッドレストの高さ調整ができて、サンルーフとフルオートエアコン、クルーズコントロールが標準で、ガラスまで違うし、電子可変式ダンパーや、サイレントパッケージなんてものも付いていて、大人のスポーツなんだよね。まるで私にピッタリな感じかな……って、痛っ!


 「マイが大人な訳あるか~!」


 やかましいやい、柚月、いつもいつも邪魔ばかりしやがって! やってやるぞぉ~!


 「ズッキー先輩を取り押さえろっ!」

 「ハイッ!」


 ななみんの号令で、周辺の1、2年生に柚月は取り押さえられた。


 「なにするんだよ~!」

 「ズッキー先輩。みんながマイ先輩の、ありがたいFCの知識に聞き入ってるのに、邪魔しないでくださいね?」


 ななみんが、柚月にニコニコしながら怖い声で言ったよ。

 あんな怖いななみん初めて見たよ、もしかしてアマゾンが覚醒したのかな?


 「アマゾンじゃないっス!」

 

 ちぇー、ノリの悪い奴。


 「ちなみにリミテッドと、スペシャルエディションの違いは何ですか?」


 紗綾ちゃんが質問してきたよ。

 この2つの違いは、オーディオのランクと、スペシャルエディションは本革シートなんだよ。


 ただ、GT-Xは走りのグレードで、エアロパーツやビスカスLSDなんかが標準装備されてるから、豪華装備の要らない、大人じゃない層にはGT-Xが最適なんだよね。


 「RX-7って、ハイパワーなのに、LSD付きのグレードが1つしかないんだ……」


 あぁ、燈梨。

 一応そういう事だね。GT-R買うような人は、社外品つけるだろうからって事なのかな? リミテッドに乗る人は、大人だから荒い運転をしないっていう考えだったんだろうね。


 早速、あちこち見ていこう。

 エアロは外れかかってるけど、これは一度外してつけ直してあげれば、問題なしだね。

 よしっ、エンジンを見てみよう……って、分かったぞ! この車の取られた部品が!


 「ええっ! 何が取られてるの?」


 燈梨、それはね、ボンネットだよ。


 「ええっ!? でも、このボンネット凹んだり曲がったりしてないし、塗装も綺麗だよ」


 うん、でもね、GT-Xはアルミボンネットなんだよ。

 今、持ち上げてるボンネットは重さからみて、鉄のボンネットなんだよね。


 う~ん、これだと他にも取られてるものがありそうだね、ちょっと走らせてみてチェックしてみよう。

 燈梨、行こう!


 “バムッ”

 うんうん、ドアは下がってきたりしないでスムーズに閉まるね。

 そこまで程度は悪くないみたいだね。


 「そうなんだ~」


 って、なんで柚月がいるんだよ! 私は、燈梨に一緒にいこうって言っただろーが!


 「燈梨ちゃんは用事があるんだよ~」


 嘘つけ! どうせ燈梨を押し退けて、無理矢理乗り込んだに決まってるんだよ。

 柚月なんか、このFCになんて一生乗らないで良いんだよ! さぁ、出ていけ、このっ! このっ!


 「や~め~ろ~!」


 ああっ、燈梨が電話してるよ。

 柚月のせいで、燈梨に邪魔が入ったじゃないか~!

 くそっ! 柚月め今に見てろよ!


 私は、みんなの期待の視線が集まる中で、FC3Sをスタートさせた。


 うんうん、この独特な感じがロータリーっていう感じがするよね。 ぶっちゃけ言うと電気モーターみたいなんだ、エンジンの回転に山や谷がなくて、どこまでも回っていきそうな錯覚に陥っちゃう、そんな感覚がロータリーって感じだね。

 でも、電気モーターと違うのは、電気モーターは、初速からパワーが出るのに対して、ロータリーは低回転が細いんだよね。

 この低速の弱さは、R32にも一脈通じるものがあるよね。


 「マイ~、スピード出てるよ~!」


 当たり前だろ、機関のチェックなんだから。

 ブーストをきっちりかけてあげて、かかった瞬間に白煙を吹いたりしないかチェックしてるんだよ。

 柚月も助手席にいるんだから、きちんとチェック業務に協力するんだよ。


 そして、この音が独特でイイ感じだよね。

 まるで電気モーターみたいな感じでさ、まさにロータリーだよね! 走らせるのは初めてなんだけどさ。

 正直、RX-7なんてさ、一番EVにしても違和感が無い車種だよね。このフィーリングは、EVにも似た感じがあってさ、もし、エンジンがダメになったら、リーフのシステム使ってEVにしてみたら面白いかもね……でもって、あれはFFだから、ミッドマウントって手もあるね。


 「そうなの~?」


 まぁね。

 エンジンのチェックは取り敢えず大丈夫そうだね。

 次に旋回走行させて、足回りやブレーキのチェックをしてみよう。

 ……やっぱり、ハンドルを切っていった時の反応が良いよね。スカイラインもかなり良いんだけどさ、エンジン自体が軽いってのは、ここまでハンドリングに影響を及ぼすんだね。


 スカイラインよりスパッと鼻が入るから、私の運転が上手くなったような錯覚を受けちゃうんだよね。


 「そうだね~、マイの運転は上手くないからね~」


 言ったな、柚月。

 まぁいいや、今からする旋回性能チェックで、柚月が泣きっ面になるのは分かってるからさ。


 私は言うと同時に、ブレーキをつんっと一瞬だけかけると同時に、サイドブレーキを力一杯引いた。

 あぁ~、サイドのワイヤー伸びきっちゃってるね。なかなかロックしないや。

 そして、FCのサイドブレーキは、左ハンドルを前提にしたのか、助手席側にオフセットされてるから、操作しづらいんだよねぇ。


 「ぎゃぁぁぁぁぁ~~!」


 柚月、うるさいな。

 旋回性能チェックの邪魔するなよ。


 そう言うと、アクセルをハーフまで踏み込んでみた。

 おおっ! きちんとLSDが効いてるねぇ……取られてなくて安心したよ。

 まぁ、純正のビスカスLSDなんか取らないか……でも、思うんだけど、このLSDさ、ビスカスにしては結構“ドドドドッ”って、効いてる感じの動きなんだよね。

 もしかしたらさ、機械式入っちゃってるんじゃないの?


 よしっ、こうなったら、振りっ返ししてみよう。

 昔、兄貴が言ってたよ『ビスカスやヘリカル? と、機械式の違いは振りっ返ししてみれば分かる』って。

 ここでブレーキングして、逆にスライド開始だぁ~!


 「いやぁぁぁぁぁ~~!」


 うるさいぞ、柚月! 気が散るんだよ!


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『FC3Sのグレード展開について、勉強になった!』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 次回は 

 FC3Sを振り回す舞華、その走りは次回も続きます。


 お楽しみに。

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