第306話 展望と予定と昔話
そうか、遂に部車にもロータリーが加入したのか。
そして、因縁の対決ってやつだね。
このFCって、スタッドレス履いてたんだね。
でもって、もう少しみんなでFCの余韻に浸っててよ、私は柚月と今後の予定について話し合うからさ。
「私は、向こうに行きたい~!」
ダメッ!
オルタネータも終わったところで、今後の柚月の車の電気系に対するビジョンを決めておかないとね。
ちなみにビジョンで良いんだよ。ヴィジョンじゃなくてね。下唇を噛まなくていいビジョンだよ。
「発音講座の話はしてない~!」
柚月め、ノリの悪い奴だな。
さて、もう1回エンジンルームを見てみようね。
「FCに乗りたいよ~」
いいの、柚月には縁がない車なんだから、まずは自分の車!
オルタネータと、ベルトも新しくはしたんだけどさ、基本的に配線なんかも古くなってるから、色々と今後に備えての事はしておいた方が良いと思うよ。
「今後に備えるって~?」
例えば柚月は、ライトは今後どうしていくの? 今は私の所から行ったハイワッテージだけど、これでずっといくんだったら
「一応、LEDの予定だよ~」
LEDは今ほど電力を喰わないから、ライトの配線の増強は必要なさそうだね。
それ以外にも、R32の場合はダイレクトイグニッションコイルだとか、結構電気が絡んでくる基本装置が多いんだよ。
だから、電気に関してはバカにできないものがあるんだよね。
確か、柚月の車の場合は、ダイレクトイグニッションとか、そっちに向かうハーネスなんかも交換してないハズだよね。
「そうだけど~」
となると、柚月の車はいつ止まっちゃってもおかしくない状態って事だね。
「そんな事、ないやい!」
いーや、そんな事あるんだよ。
今までは、電装品が経年劣化で均等に弱ってたんだけど、オルタネータが死亡して今回復活してきたでしょ。
すると、今まで劣化して少ない電流しか流れてなかったところに、急に新車時くらいの強い電流が流れるようになるんだよ。
恐らくライトなんかは明るくなって、それはそれで良くなるんだけど、下手に点火系の所がその状況になると、死にかかっていたけど弱い電流だったためにもっていた部品が、強い電流が流れた事によってご臨終って事も考えられるんだよ。
「ううっ……」
どう? 分かった?
分かったら、喫緊で点火コイルに行くところのハーネスは交換した方が良いだろうね。本当はイグニッションコイルも、交換といきたいところなんだけど、予算の問題があるからね。
ただ、電流も血流とかと一緒だから、流れていないと健康とは言えないんだよ。よって、流す方法を考えよう。
「流す方法って~?」
まぁ、私も詳しい方じゃないから、あまり正確で高尚な事は言えないんだけど
「だけど~?」
なんか、柚月が顔をこっちに寄せてきながら訊いてきた。
何故だかムカつくぞ
“ビシッ”
「デコピンするなよ~!」
うるさい、柚月め!
少しは考える癖をつけろっての。
随分前に流行った事なんだけど、アーシングなんかも効果的だって聞いたことがあるよ。
「ア-シングって、車のアース線を太くして数を増やすやつだよね~」
そう。
車の純正の配線っていうのは、結構ビックリしちゃうほど細かったりする上に、R32なんて結構古いから、経年劣化で電流が流れにくくなってたりするんだよね。
だから、そのアシストをするのがアーシングって訳だね。
もし、上手くすれば
「上手くすれば~?」
R32系の共通の悩みである、低速トルクの細さが若干なりとも解消できるようになるんじゃないかって思う訳よ。
「なるほどね~」
まぁ、色々な可能性もあるし、ある程度楽しむ感じで、目を吊り上げて必死になる必要はないよ。
ただ、最初に言っておかないといけないのは
「いけないのは~?」
電気に関する作業は、生半可な気持ちでやると危ないって事を肝に銘じるんだよ。でないと最悪は車両火災にも繋がるからね。
今みたいに、作業中に別の事に関心がいっちゃって、早く終わろうとして確認もしない……とかだよ。
終わった作業は、面倒でもダブルチェック、トリプルチェックくらいやって、ようやく終了なの。
という事で、今から私と最終チェックするの。
「え~~~~! 今から~~?」
あのさ、今作業してるのは部車じゃなくてアンタの車だよ。
帰りにベルトやオルタネータ本体が外れたらどうするの? 私らはもう帰った後だろうから、レッカー呼ぶか、エアロバイクで帰るしかなくなるんだよ!
「エアロバイクなんか乗らないやい!」
お説教中にいちいち口答えしない! 芙美香だったらその場でビンタだからね。
“ビタンッ”
「してるじゃないか~!」
私だから1発で済んでるの、芙美香だったら最低3発は飛んでくるからね。
さて、無駄口叩いてる暇があったら、さっさとやっちゃおう。
◇◆◇◆◇
ホラ見ろ柚月!
やっぱり、あちこち増し締め忘れてるじゃないか!
こんな状態で、帰ろうとしたら、本当に車止まっちゃうんだからね。
オルタネータの固定ボルトだって締め忘れてさ、よく私にあんなデカい口、叩けたもんだね。
「ゴメンなさい~!」
まったくもう、だから、こういう時の柚月は油断ならないんだよ。
新しいおもちゃが来ると、すぐに今やるべきことを放り出してそっちに行っちゃうんだからさ。
よし、ようやく新しい部車のFC3Sを見に行けるね。
練習場の所にみんな集まっている中心に、FC3Sがいたよ、見慣れたフォルムだ。
兄貴が4台乗ってたからね。
「ええっ!? そんなに乗ってたの~?」
柚月は、子供の頃からウチに出入りしてたんだから、全部見てたはずだよ。
最初は兄貴が高校生の頃に乗ってた青、次は赤で、その次が深緑、最後はガンメタだよ。
「ああ~、青と赤はそう言われてみればあったような~」
赤は、柚月乗せて貰ったことがあるはずだよ、遊園地行くのに、優子と3人で。
「マイ、緑のってアンフィニだったんじゃないの?」
そうだよ、優子は知ってたか。
2人乗りで、ハイパワーなバージョンなんだよね。GT-Rニスモみたいなやつね。
最後に関しては、聞かぬが花ってやつだよ。
「どうなったんっスか?」
あぁ、ななみんったら、みんなが察して聞かなかったのに、聞いちゃったかぁ……。じゃぁ言うよ、兄貴が140キロでドリフトしながら、祠に後ろから突っ込んじゃったんだよ。
「マイ、祠って……まさか」
そう、結衣の家に向かうところにあるやつね。
あの祠の中で、1つだけ妙に綺麗なのがあるでしょ、あれ、兄貴がFC3Sでぶつかってなぎ倒しちゃったから。
ちなみに、貴重なFC3Sのアンフィニは『く』の字と言うよりもLの字に曲がっちゃったから、上から見るとレクサスのマークみたいになっちゃってたからね。
ホラ、みんな蒼い顔になっちゃったでしょ。
私だって知ってるんだよ、アンフィニがFC乗りの間でも特別なもので限定車だってことくらいさ。
それを兄貴は再起不能にしちゃった上に、ヘラヘラしてたからね。
それで、兄貴は懲りもせずもう1回アンフィニ探そうとして、芙美香に怒られてたよ『アンタの手に渡ると、貴重な限定車が産廃になる』って言われてた。
だから、最後のFCはアンフィニにならなかったんだよ。芙美香の行動によって、貴重なアンフィニが絶滅の危機から救われたんだよ。そう考えると、あの芙美香でも、世の中の役に立つことがあったんだよね。
だから、私もそれなりにはFCについては知ってるんだよ。
兄貴の影響ってやつだね。正直、私は認めたくないんだけどね、あんなのの影響を受けてるなんてさ。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『新部車のFC3Sって、一体どんな車?』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
遂に、FC3Sがベールを脱ぎ、R32との比較が始まります。
お楽しみに。
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