第305話 ベルト張りとライバル
あれ? なんかベルトがあと1本しかなくない?
柚月、もう1本は何処にしまってあるの?
「2本しかないよ~」
なんで? 私、3本買って来いって言ったよね。
「だって~、オルタネータのと、パワステのベルトは不調だけど~、エアコンは不調じゃないからさ~」
バカっ!
“ビシッ”
「痛いよ~!」
当たり前だろ。
最初に言っただろ、3本買って来いって。
今日、このままベルト交換無しで過ごして、半年後とかにエアコンのベルトが切れたらどうするんだよ。
当然の事だけど、その時は私ら、見捨てるよ。
ついで言うと学校も卒業してるだろうから、ガレージも借りられないからね。
大体さ、結衣のエアコンの時も、優子の載せ替えの時も、ベルトは3本とも新品にしてただろー。
じゃぁ、みんなゴメンね。今日の作業はここで中止ね。
ベルト買って来てから、改めて明日仕切り直しするからね。
オイ、柚月も頭を下げろ!
「いたたた……痛いったら~!」
という事でその日は解散することになっちゃったよ。
ゴメンね、燈梨も部車もう1日借り出すことになっちゃって。
「大丈夫だよ。逆にそうでもしないと動かす機会がないからね」
この数日で、ナンバー付きの部車を、ほぼローテーションのように柚月に貸し出していた。
シルビアとセフィーロを使ってたから、今日はサファリか。
そう言えば、今後の部車について、水野はなんか言ってきたの?
「う~ん……あんまりかな? 一応、今の部員数だとマックスの台数を20台っていう事で、学校と話はできてるよ」
今って、運搬用のトラック入れて14台か。
でもまだあと6台キャパがあるんだね。
「一応、明日1台と、近いうちにもう1台。更に教習車の増車も決まってるよ」
え? 明日新しい部車が来るんだ。
ななみんとか沙耶ちゃんが浮き足立ってるように見えたのは、それが原因なんだね。
「燈梨ちゃん~、このサファリ、カセットしか聴けないの~?」
柚月め、誰のせいでこうなってるのかもわきまえずに、部車に不平不満を述べやがってぇ。
“バシッ”
「痛いよぉ~!」
うるさい! セニアカーやエアロバイクで帰らずに済んで、本来なら涙を流して感謝するところなのに、文句を言うなんて、どれだけ盗人猛々しいんだよ。
とっととディーラーに寄ってから帰れ!
「覚えてろよー!」
まったくもう。
◇◆◇◆◇
翌日の放課後、結衣がバイトでいないため、悠梨と柚月とガレージの前に行くと、そこには人だかりができていた。
「なんだろね~?」
あぁ、燈梨が今日新しい部車が入るって言ってたから、きっとそれのお披露目じゃないかな?
「どんな車~?」
そう言えば聞いてないな。
聞こうと思ったところで、サファリのオーディオに不満を述べてる人に邪魔されたから。
「くぅ~……」
まぁ、なんにしても、行けば分かる事じゃん。
でもって、柚月はまず自分の車の作業を終わらせてから、新しい部車に乗るんだからね。
私らが近づいていくと、人垣が分かれて、自然に新しい部車が姿を現したよ。
そのシルエットに私はとても見覚えがあったんだよね。
「おお~!」
「これって……」
柚月と悠梨が口々に言っていた。
確かに、今までの部車に比べると、みんなの期待度が爆上がりなのは分かっちゃう気がするな。
そこには、くすんだガンメタのFC3Sがあった。
結構ボディはガリガリだし、左の後ろを大きく凹ましてるけど、走行には影響のないものだった。
燈梨、FC3Sだったんだね。
「うん、先生が見つけてきたんだよ。確かに、ロータリーもあった方が、メカを覚えるのにも良いって、前から思ってたんだ」
それにしても、結構ベコベコで、色がくすんでるね。
「そうなんだ……どうも部品取り車だったんだって」
なるほど、また部品取り車か。
しかし、どうしてうちの部には、元部品取り車が、こうもやって来るんだろうね。
「マイ先輩! このFCは、なんと書類付きっス!」
じゃぁ、登録は可能なんだ。
でもってこの外観と機関だと、公道復帰はまだまだ遠そうだね。
「そうなんですよね……」
よし、じゃぁ……って、どしたの悠梨?
「マイ、私さ、今日はこっちに外装の打ち合わせ入ってもいい?」
あぁ、このFC3S結構ボコボコで塗装も逝っちゃってるしね。
こっちは最小限で済むから良いよ……って、柚月はこっち!
「え~~! 私もFC見たい~!」
あのね、誰のせいで、作業が今日まで長引いたと思ってるんだよ!
ガレージを快く貸して貰えて、更には3人も人員を割いてくれた現役の運営に感謝して、さっさと作業を終わらせるんだよ。
じゃぁ、昨日はファンベルトまで張ったから、今日は残りの2つを張りつつ、原状復帰を目指していくよ。
柚月! ブーたれてるなら、作業やらないよ!
まったく、1、2年生の前で情けない姿見せないんだよ!
なんで、柚月はさっさと終わらせて、FCの作業にその後合流するって頭の切り替えができないかね?
さて、ここからの作業は昨日と逆に進めていけば良いから、難しいところはないんだよね。
張りの調整も、昨日までやったのと同じだから、同じ要領でやっていけば良いし、そして、後は、作業スペース確保のために外したインテークパイプなんかを元に戻していくんだ。
最初にインテークパイプを予定地までもって来て、位置を間違えていないかをチェックしたら、ウエスを外して、両方のパイプに異物の混入がないかを確認した後で、パイプを取り付けていくんだ。
外れたらまずいから、きちんと入ったかをしつこいくらいに確認するんだよ。特に見え辛い、下側なんかは嵌まってない事が多いから、きっちりチェックしようね。
その後、ホースバンドでしっかりと締め込む。
次は、バッテリーの台座、バッテリーの順で取り付けていくんだ。
R32のバッテリーステーは、片方がボディに共締めになってるけど、他の車の場合は、両方ともバッテリーの台座に固定するようになってるのが多いんだ。
バッテリーは、作業の間に充電しておいたから、満充電になってるね。
よしっ! じゃぁ、これで動作チェックしよう。
“キュルルルルル……グオオオオオオオオーー”
よし、かかるのは間違いないね。
よし、チェッカーで電圧を数ヶ所の地点で測ってみよう。
うん、各箇所高い数値で安定してるね。
「なんで数ヶ所で測るんですか?」
電気も発電地点から近い箇所、遠い箇所があるからね。
そこでバラつきが出てると、他にもトラブルの兆候があるって事なんだよ。
だけど、この車はその兆候もないから、やっぱりオルタネータのオーバーホールが、正解だったって事だね。
よし、チェックのためにバッテリーのマイナス端子を外しておこう。
……ホラ、問題なくエンジンが回ってるね。
これで、今回の作業は終了したよ。
みんな、ゴメンね、そしてご苦労様。こんな奴のためにさ。
「誰が、こんな奴だよ~」
あれ? 柚月いたの?
なんか存在感がないから、てっきり帰っちゃったのかと思ったよ。
「くそぅ、覚えてろ~!」
さて、あんなのは忘れて、みんなも新しい部車に興味津々でしょー、向こうに行こうね。
あ、ななみんが来た。
「ズッキー先輩の作業終わったんっスね!」
ななみんもありがとね。
おかげさまでようやく終わったよ。
「それよりも、終わったんなら、早速、ライバル対決といきましょうよ!」
あぁ、そういう事?
FCとR32は当時ライバル関係にあったもんね。スペックも均衡してたしね。
柚月のGTS-4で、あの部車のFCと対決か、面白いね。
ななみん、覚悟しとくんだよ。私が部車のFCを立ち直れないくらいベコベコにしてあげるからね。
「やめろー!」
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『新部車のFC3Sって、一体どんな車?』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
作業終了後のお遊びタイムに突入します。
お楽しみに。
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