第304話 ベルトと整流の妙
まったく、柚月め、なんて奴なんだ。
そもそも、柚月のせいでこんな事になってるのにだ。
「オルタネータがダメになったのは、私のせいじゃないもん~!」
いーや、それも柚月のせいだ。
きっとこいつがベルト交換をサボった事によって、妙な放射能が発生して、それがオルタネータの寿命を早めたんだ。
「どういう理屈だよ~」
“ゲシっ”
うるさい! 口答えしないでさっさと手を動かせ!
「マイ先輩の、ズッキー先輩に対する容赦ない感じが、たまらないっス!」
だからさ、ななみん。
そういう、とんでもない性癖をオープンにし過ぎるのはどうかと思うって、前にも言わなかったっけ?
「あれ? 自分の事はアマゾンと呼ぶって言わなかったっスか?」
え? そのネタまだ引っ張るの?
紗綾ちゃんが、なんかアイコンタクトを送ってきてるから、ノッてあげた方が良いのか?
まったく、どうしてウチの部には、こういう厄介なのばかりが集まってきちゃうんだろうね?
さて、作業に戻るよ。
最初に下に潜ってアンダーカバーを外すんだけど、これってさっきも下に潜ったから外してあるんだよね。
「なんで、アンダーカバーがあるんっスか?」
いくつか理由はあるよ。
埃や泥の侵入防止だったり、跳ね飛ばした石や異物がエンジンルームに入っちゃってベルトや可動部に当たると損傷しちゃうから、それらの防止だったり、エンジンルーム内の気流を安定させて、水温上昇を防ぐためってのもあるよね。
ちなみに石は結構危ないらしくて、兄貴が一度走行中にエンジンがストップしちゃった事があったんだって、跳ね石が配線を切断してたんだってさ。
「でも、マイ先輩。カバーが無い方が空気が入って来て、水温が下がる気がしませんか?」
紗綾ちゃん、それは素人考えってやつなんだよ。
常に向かい風が入って来るようなエンジンルームの場合は、空気を上手に整流してやらないと、空気が抜けなくなっちゃうんだよ。
紗綾ちゃんの言う通り、イメージ的にはその方が空気が入りそうになるんだけど、今度は、入ってきた空気が乱気流を起こして、エンジンルームの中の整流された空気を乱すんだ。
すると、排熱されるはずの空気が乱気流によって外に出て行けずにエンジンルームに留まっちゃって、結果的に水温上昇に繋がっちゃうんだよ。
「なるほど」
R34GT-R以降は、空気を整流させるって考えが、メーカーだけでなく一般ユーザーの間でも広く認識されるようになったから、アンダーカバー外しはあまり行われなくなってきたよね。
「……ってことは、昔は違ったの?」
そうなんだよ、燈梨。
昔はね、結構車高を低くすると擦っちゃったり、整備の時に邪魔になるからって、ドリ車乗りを中心にアンダーカバー外ししてる人が結構いたんだよね。
でもって、ある時期から、オイルパンをヒットさせてエンジンブローさせる人が出るようになったから、それを防止させる意味で、鉄やアルミのアンダーカバーが流行り始めて、以降はその流行りは廃れたよね。
本題に戻って、カバーを外したら、オルタネータの下側にあるボルトを緩めるんだ。
まだ緩めるだけで、外しちゃダメだからね。次に、上側にあるボルトを緩めて抜いちゃうんだ。
「マイ~、上にいるんだから、ボルト緩めて抜いちゃってよ~!」
私は、みんなにやり方をレクチャーしてるから忙しいの。
柚月先生? 何か言う事忘れてるんじゃなくて?
「お願いします~!」
よろしい。
こっちのボルトを抜くんだよ。
すると、さっき柚月が緩めたボルトが軸になって、オルタネータ本体が動くようになるから、その間にベルトを外すんだ。
「結構、ボロボロなんですね」
若菜ちゃんと七菜葉ちゃんが、外したベルトを見ながら言った。
そうなんだよ、さっきも言ったけど、エンジンルームという高温と低温を繰り返すような過酷な環境で、何万キロも使い続けていると、こういう感じに劣化していっちゃうんだよ。
特に最近の車は、エンジンルームがギッチギチに詰まってるから、過酷さに輪がかかってるよね。
さて、オルタネータ作業なんだけど、さっき下側のボルトを緩めた事によって、結構動くようになった本体をずらして、下の裏の方にある端子を抜いて、更にその横にあるボルト留めされている端子を外してあげるんだ。
そして、配線が止めてあるのも外してやると、遂にオルタネータ本体が外れるんだよ。
どう?
「外れない~!」
まぁ、これだけ古い車だし、そもそも今まで外してなかったんだったら、相当固着してるはずだしね。
柚月が下から叩いて外すか、私らが上からバールでこじって、柚月の顔面の上に落とすかなんだけど、どっちの方が良いと思う?
私は、柚月の顔面狙う方が良いと思うな。
さぁ、1、2年生のみんな、オルタネータをこじって外してみよー!
「私が、上に行く~!」
ダメだよ柚月。
オルタネータ床に落とすわけにいかないだろ、下でキャッチする人が必要なんだよ。
さぁ、みんな、柚月の顔面を狙っていってみよー!
そぉ~れぇ~!
「やめろ~!」
“ガコっ”
なんか外れたっぽい感触があったよね。
あっ! オルタネータが柚月に奪われた。
なんだよ柚月ー、今から柚月の顔面に向けて落とすところだったんだから、邪魔するなよ!
「そんな必要ないだろ~!」
こちとら、サニトラ、柚月の整備不良のせいで起こったしょーもない交換作業の手伝いしてるんだから、このくらいのレクリエーションはあって
「そんなのいらないやい~!」
ちぇー、ノリの悪い奴。
まぁ、GT-R用のオルタネータだけど、中身は一緒でも、外観は変わらないから、取り付けはさっきと逆の要領でいけるね。
難しい事もないでしょ。
「目に砂が入った~!」
アマゾン、園芸部から砂1袋貰って来よーよ。
上からガンガン撒いてやろうぜ。これこそ、上から舞華だねっ!
「全っ然、上手いこと言ってない~!」
なんだよ柚月、面白くないな~。
せっかくだから、アーバンチャンピオンみたく、上から植木鉢落としてやろうかぁ?
そして、今度は新しいベルトを張ってみよう……って、こっちがファンベルトだね。
「ちなみに、ファンベルトと、オルタネータベルトは、どう違うんですか?」
おおっ、陽菜ちゃんの質問が冴えるねぇ、さすが1年はピュアだね。
この車に関しては同じものだよ。
この車はファンとオルタネーターのベルトを共用してるからね。今の殆どの車も、共用してるのが一般的だよ。
呼び方に関しては、ファンベルトっていう方が、一般的になってるから、そっちで良いのかな。
今回は、オルタネータ不調があったから、オルタネータベルトなんて言ってるだけで、その不調箇所によって、呼び方も変わっていくようなイメージで良いのかな?
まだオルタネータが固定されてないから、プーリーに先にベルトをかけておこう。
下の固定作業は終わったみたいだね。
よし、結衣がいたから上のボルト締めは任せたよ。
それで、結衣が締め込んで固定しているボルトの90度下側に長めのボルトがあるのが見えるけど、これが張り調整のボルトなんだよ。
「どのくらい張ればいいんですか?」
うん、難しいけど、ビンビンに張ってる必要はないよ。
それなりにしなやかでいながら、張ってるって感じのね……正直、数値化したものがないから、ざっくりした感覚の話になっちゃうんだけど……。
……よしっ、こんな感じだね。
張り具合の目安は、部車のベルトの張りをチェックしてみれば分かると思うよ。
よしっ、あとは、残りの2本のベルトだ……って、あれ?
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『アマゾンの今後の活躍に期待!』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
遂にオルタネータ交換が終わり、ベルト取り付けと張り調整に作業は移行する中、舞華はある事に気が付きます。
お楽しみに。
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