第303話 プーリーと最強怪人
あぁ~、ようやく柚月のオルタネータ作業も、佳境に入ったよね。
後は取り付けだけだから、もう山場は超えたでしょ。
え? 本来は、取り付けが山場なんだって?
優子さ、それはリビルド品を買ったり、新品を取った人の場合でしょ。
今回は、面倒なオーバーホール作業こそが、一番の山場なんだよ。
だから、もう山場は超えたと言っても過言じゃないよ。
「でも、もし取り付けでユズがミスっちゃったらどうするの?」
もう、優子もホントに要らない心配が得意だね。
柚月だってさ、今までどれだけの作業こなしてきてると思ってるんだよ。エンジンの載せ替えですら2回やってるんだからさ、オルタネータの交換なんて朝飯前に決まってるじゃん。
だって、優子の車の時だって、オルタネータは交換してると思ったよ。
それにミスるったって、どんなミスが考えられるのさ。
せいぜいネジを落とすとか、力加減を間違えるレベルでしょ?
確かに後者は結構ヤバいけど、それでも事前のチェックがあればなんとかなるし、もしミスっちゃったとしても……。
「しても?」
サクッと見捨てて、私らだけで帰っちゃえばいいんだよ。
アイツにはエアロバイク置いていけば良いんだしさ。
「マイのバカー!」
柚月が背後から襲ってきたが、今朝の私は一味違うから柚月をかわして逆に壁に押し付けちゃった。
うるさいな。
大体、アンタがさっさと成功させればいいだけの話なのに、なに、失敗する前提での話に乗ってきてるのよ。
それとも柚月は、作業できる自信が無いの? そういう事なの?
私は柚月をグイグイと壁に押し付けながら意地悪く言った。
「そんなことないやい!」
じゃぁ、やればいいじゃん。
まぁ、私としては、柚月がほえ面かきながら、エアロバイク漕いでる姿見る方が楽しいんだけどね。
「覚えてろ~!」
柚月はお馴染みのセリフを残して、自分の席へと消えていった。
◇◆◇◆◇
遂に放課後がやってきた。
久しぶりに放課後連日でガレージに来ると、なんか現役のような気分になってきちゃうね。
「先輩たちは現役っスよ!」
いや、名目上は春まで籍は残ってるけど、実質はもう燈梨や、アマゾン達の世代の部活だよ。
「私はアマゾンじゃないっス!」
嘘だぁ、もう忘れちゃったの?
ななみんという人は昨日で死んで、昨日からここにいる人は、セニアカーマン・アマゾンだって、ななみんも頷いて納得したじゃん。
「それは、頷かないと縄を解かないって言ったからっス!」
でもって、私が知ってたななみんは、そんな脅しに屈する人じゃなかったから、やっぱりここにいるのはアマゾンなんだよ。
紗綾ちゃんはどう思う?
「私は、先輩の意見に同意です。七海は、昨日アマゾンに改造されたんだと思います」
「沙綾っちめ~、覚えてろよ~!」
さっすが、マゾヒスト部員だなぁ、今朝の柚月と同じ捨て台詞吐いてるよ。
「マゾヒスト部じゃないっス!」
アマゾンでマゾヒストか、なんか語感が似てて、ごっちゃになりそうだな。
まぁ、頑張れアマゾン! 最強怪人アキオンを倒すんだ!
「倒しません!」
なんだと、怪人アキオンに地球が征服されても良いのか?
「マイ、その話はいいから、今日は、そっちの怪人の件をどうにかするんだろ」
悠梨に後ろから掴まれて見ると、柚月が1人でエンジンに対峙していた。
なんだよ、優子も結衣も行ってくれなかったのかよ、冷たいな。
「あの2人が作業に役立つタマか?」
悠梨ったら、毒舌なんだけど、言い得て妙だ。
優子は頭でっかちなだけだし、結衣は腕力はあるんだけど、作業の流れが分かってないから、空回りしそうだからね。
さて、仕方ないなぁ。
今回はオルタネータの交換なんだけど、ついでだからベルトも交換しちゃおうって事で、柚月には用意させたんだ……ってさ、前にハイキャスの誤作動の一件の時、私ベルト換えろって言わなかったっけか?
「言ったね~」
バカっ
“ビシッ”
「痛いよぉ~」
どうして、私に泣きついてきたくせに、私のアドバイスを無視するんだよ!
そんな奴は叩かれて当然だろ。
まぁいいや。
じゃぁ、まずはベルトを緩めるんだけど、その前に邪魔になりそうなものを全撤去しよう。
どうせ、端子を外してあるバッテリーなんかは、台座と一緒にちょっと退けておこう。
後はエアクリーナーや、インテーク周りも、外せるものは外していっちゃおう。そして、外したパイプには、使わないウエスや軍手を詰めておこうね。
「なんで?」
悠梨、それはね、インテークパイプにゴミとか、ボルトとかが入ると大変なことになっちゃうからだよ。
埃とか砂くらいならちょっとだったら、問題ないけど、間違ってボルトやナットなんかが入っちゃったら、エンジンは一発でパーだからね。
「怖いね……」
あぁ、燈梨か。
そうなんだよ、怖いんだよ。だから、インテークパイプには忘れずにウエスを詰めておいて、終わったら取ったかを忘れずに確認するんだよ。
せっかく作業中にウエスで異物の侵入を防いでも、ウエスを入れっ放しにしたままだと、さっきのボルトが入ってるのと同じ状態になっちゃうからね。
だから、取り忘れ防止のために、ウエスの代わりにガムテープを貼るっていうのもアリだよ。
その時は、黒い色のじゃなくて、目立つ色のガムテにしておいた方が、剥がし忘れも無くなるよね。
「なるほど」
そして、ベルトを緩めていくんだけど、最初は位置的にパワステベルトからだね。
まずは、アジャスターボルトを止めてるボルトを緩めるんだよ。
「え? アジャスターボルトじゃなくて?」
そう、アジャスターボルトを固定しているボルトを緩めて、それからアジャスターボルトを緩めるんだよ。
この見え辛いのが、そのボルトなんだけど、見え辛いだけに手も入り辛いから、工具は慎重に選んだ方が良いよ。
私のお薦めは、ストレートになってるメガネレンチかな。それも、なるべく薄型のやつで。
よし、これである程度まで緩めてあげれば、今度はアジャスターボルトが緩むようになるから、今度はまた見え辛いけど、このアジャスターボルトを緩めるんだよ。
こっちは結構緩めちゃっても問題なしだから、ガシガシいっちゃおう。
そうすると、外れてこない? パワステポンプ本体を緩めるって方法もあるけど、余計な作業が増えると大変だろうし、それに柚月の怪力で引っ張れば外れそうだからさ。
「マイ~! 聞こえてるんだよ~!」
柚月、減らず口叩いてないでさっさと外す!
私の指示が無ければ、どうせベルトの外し方だって分からなかったでしょ!
「ううっ……」
次は、エアコンのベルトなんだけど、これは、下からやった方が楽かもね。
エアコンに関しては、緩めるボルトが最初から2本だけだから、そこまで難しくないんだけど、取り付けられてる位置がちょっと下だっていう点はネックなんだよね。
まずは、正面にあるボルトを緩めたら、脇にあるアジャスターボルトを緩めてあげるんだ。
充分緩むと、プーリーが上にずらせるようになるから、ずらしてあげればベルトは自動的に外れるってわけ。
現状2本ベルトが外れた訳なんだけど、このベルトって一体いつ交換したんだろうね?
なんか、番号が消えてるのは前に確認した通りなんだけど、よく陽に透かして見ると、結構ひび割れみたいなので表面が覆い尽くされちゃってるんだよね。
よくこんなので今まで切れなかったね……ってか、車検の時、何も言われなかったの?
「言われたけどぉ~、次回の点検の時で良いって言って、断っちゃった~」
このバカぁ
“げしっ”
まったく、なんてやつだ!
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『ベルト交換って、簡単なようで結構面倒臭いんだ!』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
遂にオルタネータ本体の交換に入ります。
お楽しみに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます