第297話 トラブルシューティングと押しがけ
放課後になって、部活に行く前に柚月の車を見に行くと、やっぱりバッテリーは弱っていたよ。
「どういう事だよ~!」
うるさいな、柚月は。
初めて車に乗った人じゃないんだから、少しはトラブルシューティングくらいしなさいよ。一応、自動車部員でしょ?
「なんだよ、『一応』って~」
マゾヒスト部との掛け持ちで、名義だけ貸してる部員だって事だよ。
「マゾヒスト部なんかじゃ、ないやい~!」
じゃぁ、さっさとトラブルシューティングしてみなよ。
少なくとも、私と優子は、既に2ヶ所くらいにまで絞り込んでるよ。
一応じゃないんだったら、できるよね? それとも、マゾヒスト部だって認める?
「認めない~!」
私は優子と一緒に後ろに下がって、柚月だけを前に押し出してみせたが、案の定、柚月はオロオロするだけで、どこにも手がつかなかった。
ほら見ろ柚月、やっぱり分からないんじゃん!
こりゃぁ、柚月はマゾヒスト部で確定だね。
「違う~!」
さて、役立たずの柚月は放っておいて、優子と私は、まずベルトのチェックを始めたんだ。
車のエンジンに掛かっているベルトは、ファンベルトと、パワステベルトと、エアコンベルトの3本だね。
後の2本は、その名の通りの働きだから、それらが付いてない車には、付いてないんだよ。まぁ、最近は付いてない車なんて滅多にないけどね。
まぁ、結衣は、この辺の構造に詳しいよね。
「あぁ、エアコンの交換したし、エンジンの載せ替えの時、交換もしたからね」
まずはサクッと目視チェックなんだけど、もうこのベルト、詳細は分からないけど、結構古いものだってのは間違いなさそうだね。
「なんで分かるんだ~?」
悠梨、それはね、ベルトって新品は真っ黒なんだけど、目視しただけでくたびれた感じが分かるじゃん。
「うん、まぁねぇ~」
それに、新品のベルトにはメーカー名や、品番名みたいな文字が“これでもかっ”ってくらい、表面に印刷されてるもんだよ。
それがすっかり消えちゃってるんだよ。
「ちなみに、新品に近いとこういう感じだよ」
優子が自分の車のエンジンルームを、悠梨や結衣に見せていた。
それと柚月の車のベルトを見比べて
「あぁ~、実際に見比べると一目瞭然だな~」
「ホントだな、新品には、緑や黄色や白の鮮やかな文字が、たくさん書かれてるもんな」
と、口々に言った。
すると、悠梨が言った。
「でもさ~、なんでベルトが古くなるとダメなんだ? 別に切れてないじゃん!」
確かに切れては無いんだけどさ、このベルトって、一応ゴムが含まれてるんだよね。だから、長いことエンジンルームの熱に晒されていると、微妙に伸びたり縮んだりしてきて、スリップしちゃうんだよ。
そうすると、発電に必要な動力をロスしちゃって、きちんと充電されなくなっちゃうっていう原理なんだよ。
「なるほどな~」
さて、実際どれぐらい緩んでるかなんだけど、私は軍手持ってないし、ばっちいから、他の人チェックお願い。
「柚月だろー」
「そうだな~、柚月しかいないな~」
「言うまでもないわよね」
結衣、悠梨、優子の順で、口々に言われた。
さて、これでチェック役は柚月に決定したね。逃げようとして、結衣に羽交い絞めにされてエンジンルームに向かい合わされた。
「さぁ、押せー!」
「イヤだ~!」
柚月、自分の車でしょ?
トラブルシューティングも出来ない上、汚れ役まで拒否するって、アンタ一体何様のつもりなの?
やらないなら、私らこのまま部活に行くけど、それで良いのね?
「ううっ……」
ようやく柚月が、ベルトをチェックするんだけど、予想通りちょっと伸びちゃってるんだよね。
「こりゃぁ、結構いっちゃってるよね……」
悠梨が珍しく興味津々に見ていた。
一体どういう風の吹き回しだろう?
え? 最近見てなかったけど、自分の車のベルトもこんな感じで文字が消えてたような気がするって?
悠梨の車の場合は、ベルト交換だけで大丈夫だと思うよ。
今のベルトの状態から見て、新品にすると、シャキッとすると思うよ、特にハンドル切った時なんかはね。
「マイ、私の場合はって、じゃぁ、柚月の場合はどうなるんだ?」
うん、恐らくだけど、かなり高い確率で次のステップが必要になると思うんだ。
「次のステップって?」
まぁ、見ててよ。
これから見てれば分かるからさ。
じゃぁ、柚月の車をガレージに運んじゃおう。
帰りのホームルームの前に燈梨に頼んでおいたからさ。
フフフ、2年生の教室に行って、後輩たちから『あっ、3年生の美女、マイ先輩だ』って感じで見られてきて、とってもいい気分だったよ……って痛っ!
「ウソ言うなよ~、マイが美女な訳ないだろ~!」
この野郎! 柚月!
私が誰のために動いてるのかも忘れて、その失礼三昧、すしざんまいな態度は一体どういうつもりなんだぁ!
このっ! えいっ! やぁっ! とりゃぁ!
はぁはぁ、ようやく柚月を倒したぞ。
どうだっ、私には敵わないって事がよぉ~く分かっただろう!
さて、本題に戻って、この車をガレージに運んじゃおう。
「誰の車からジャンピングさせる?」
優子、それなんだけどさ、他の車も動かすわけじゃないし、短距離だからさ、今回は押しがけにしようかと思うんだよね。
「なんだよ、その押しがけって?」
結衣、それは聞いての如く、字の如く、みんなで車を押してエンジンをかける方法だよ。バッテリー上がりなんかの時に有効なんだよ。
方法は、1人が運転席に乗って、キーをオンにした状態で、クラッチを切っておく、そしてみんなで車を押して速度が乗って来たところで、2速か3速に入れてクラッチを繋いでアクセルを踏むんだよ。
ちなみにオートマにはこの技は使えないからね。
じゃぁ、柚月が運転席に乗って……って、なんで結衣の後ろに隠れてるんだよ。
「イヤだ~。どうせ失敗したら怒るんでしょ~!」
そりゃぁ、みんなただでも重たい車を押した直後だから、気が立ってるのは事実だろうね。
「イヤだーー!」
あぁ、また駄々こね始めたよ。
もう、置いて帰りたいところだけど、そうするとガレージに来て騒いだりしそうだから、コイツには押させることにしよう。
それじゃぁ、私が運転席の作業やるから、みんなは押してもらって良い?
よしっ、はじめるよ~。
やり方は調べたし、昔、兄貴がやってるのを見た事はあるんだけどさ、やるのは初めてなんだよね。
よしよし、スピードが10キロくらいになったね、柚月がいるとこういう時に楽なんだよね。
よしっ! 今だっ。
“ガツンッ”
“ドッドッドッドゥオン”
やったぁ、かかったぞ。
それじゃぁ、私はこのままガレージに向かうから、みんなは後から走ってついて来てね~。
「待てよぉ~!」
オーホッホッホッホッホッホッホッホ。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『押しがけなんて方法があるの?』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
ガレージに運び込まれた柚月のGTS-4。
舞華がズバリ指摘したトラブル解決の策とは?
お楽しみに。
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