第296話 ドッジボールと遠征秘話

 あの後、柚月の車にジャンピングをしてスタートさせてから、甘味屋さんにみんなで集合したんだ。

 柚月にも、なるべく3000rpm以上をキープして走らせて、余計な電気を使わないようにさせて向かわせたんだよ。


 アイツったらさ、そう言ったら


 「えー! ヒーターも使っちゃダメなの~?」


 とか言うからさ、思わず引っ叩いちゃったよ。

 この緊急時に無駄な電気を使って良い訳ないだろっての! 少しは考えなさいよ!

 バッテリーの覗き窓は相変わらず真っ白だから、ちょっとヤバいかな……と思っちゃうけど、とは言え、甘味屋さんの駐車場で無闇にアイドリングさせる訳にもいかないしね。


 甘味屋さんは、色々楽しかったよね。

 創作メニューが結構リニューアルされてて、超美味いんですけど。

 こういうお店だと餡子オンリーみたいなイメージが強いんだけどさ、さすが昔はイケてる観光地だっただけあってさ、和洋折衷の絶妙なブレンドってやつ? とにかくサイコーだったんだよ。


 和風創作パフェを食べながら、私は柚月に訊いたんだよね。

 あのバッテリーって、いつ買ったの?って。

 そしたら、車を買った段階で付いてた物だから、いつのだか分からないって言うんだよね。


 仕方ないなぁ……、どうせ帰りもエンジンかからないから、電気分けるとしても、ホムセンに寄ってバッテリー買って付けるしかないよ。


 「気が進まないよー」


 なに、この非常時にそんな事言ってるのよ。

 このままバッテリー無しで過ごすんなら、明日、身動き取れなくなっても、電気分けてあげないからね!

 帰り道で強制的にホムセンに寄って、バッテリーを買わせてつけたんだよ。

 自分でつけ外しができるなら、カー用品店よりも、ホムセンが断然お得なんだよね。

 その場でつけ外しして、その場で外したバッテリーは引き取って貰ったんだよ。


 よし、エンジンをかけてみよう。

 “キュルルルル……ヴオオオオオオーー”

 これで問題なしだね。

 一件落着したし、寒いから早く帰ろうよ~。



 翌朝学校に行くと、柚月が始業ギリギリに入ってきた。

 いつも何のかんの言って、学校に来るのだけは早い柚月にしては珍しいな。

 次の時間は選択授業なので、私は柚月と結衣とは別の授業に行ったんだ。

 なんで、あの2人は選択授業で体育とか取るのかね? あれは小中学校までで終わりにしとこうよ。夏は暑いし、冬は寒いんだからさ。

 それに、本気で身体を動かすにしては、物足りないしさ。


 選択授業が終わると、今度は古文だよ。

 古文の太田は眠くなるから嫌なんだよね。2年の頃の、古文の巴みたいにさ、少しは面白い授業を目指そうよ。

 

 ……あ、古文終わったの?

 そうか、じゃぁ、業間休みはドッジボールを……。


 「マイ、なに寝ぼけてるの?」


 え? 優子、どうしたの? 私、寝ぼけてたの?

 ドッジボールの話なんて、してないよぉ、イヤだなぁ……。

 さぁ、次の授業の準備を……って、結衣、何見てるの? また廃墟動画見てるの?『難攻不落の悪魔城 ホテルロ-〇ル』とか見てるよ!


 「いいじゃん! 邪魔するなよ!」


 もう、私は結衣がそのうち、そういう事をし始めるんじゃないかと思って心配してるんだよ。

 結衣がさ『カメラが重くて手首が疲れた』とか『焦らすぅ~』とか『朽ちてるなぁ~』とか、言い出して、挙句はTシャツに名言集とか書き始めるんじゃないかと思ってさ。

 いい? そのロー〇ルだって、隣の県で、車もあるからって、行っちゃダメだからね!


 「行かないったら!」


 なにせ、あのタレントショップ跡ですら探索してたからさ、ちょっと油断ならないわけだよ。

 『あそこじゃ、ちょっと残留物が少なくてな~』とか言って、もっとディープな廃墟を追い求めて、手始めにこの辺の廃旅館を全制覇とかしちゃってさ、それに味をしめて、近隣各県の温泉街をさまよいかねないんだよ。

 そうだよ! 結衣なら廃墟探索にかこつけて、沿道沿いの某漫画の舞台の峠とか走ってきてさ『伝説のハチロクを探しに行ってきた』とか、寝ぼけた言い訳しかねないよ。

 早く目を覚ますんだよ、結衣~!


 「目を覚ますのはマイの方だろー! 大体、なんでロー〇ルが隣の県だって、知ってるんだよ!」


 そりゃぁ、兄貴がこの近隣の峠は全て遠征に行ってたからね。

 青いFC3Sと言えば、近隣各県ではかなり名の知れた存在だったらしいよ。

 ロー〇ルの入口付近は、峠道沿いだから、兄貴はいつも廃墟になったロー〇ルへの分かれ道に潜んで、速そうな車を待ち伏せてたって言ってたからね。


 「さすがマイのお兄さん! 凄いなぁ~」


 あぁ、優子が釣れちゃったよ。

 ちなみに、そのFC3Sは、学校の桜の木を倒した車だからね。

 つまり兄貴は、高校生の頃から、そんな馬鹿な真似をしてたって事だよ。


 あ、次の授業が始まっちゃったよ……。

 しかし、次の休み時間も、結衣と優子に絡まれて困っちゃったよ。

 優子は、そんなに兄貴の昔の失態に興味があるのかなぁ? ただただ、目の前にある車をぶっ潰していっただけの、ただのカークラッシャーだよ。

 正直、カースタントレベルの車の潰し方だよ。


 そして、結衣にも困ったもんだよ。

 別に私はロー〇ルになんて興味が無いんだよ。ロー〇ルにA館とB館があった事なんて知らないよ。

 それから、他の周辺の廃墟の話をするなっ! サン〇ルズなんて知らないからっ!


 もうっ! 柚月に話を聞けないまま、午前の休み時間が終わっちゃったじゃん!


 ようやく、お昼休みになって柚月に話を聞けるぞ。

 なんでアンタは、今朝遅かったのよ。


 「また、エンジンがかからなくなったんだよ~!」


 あぁ、なるほどね。

 それで、ジャンピングしてたから、遅くなったってわけね。

 しかも、ただジャンピングしてるだけならこんな遅くなるわけないから、ジャンピングケーブルも持ってなかったんじゃね?


 「ううっ……」


 柚月さ、少しは学習しようよ。

 夏休みに悠梨の車がバッテリー上がった時も、昨日だって、私がケーブル持ってたから、どうにかなったんじゃん、恐らく今朝は、おじさんかおばさんに借りたんだと思うけど、もし、1人きりの場所で上がっちゃったら、柚月はどうしようもなくて、ダンゴムシみたいに、丸まるしかないんだよ。


 「ダンゴムシみたいになんて、ならないやい!」


 いーや、柚月はいざとなったら、周辺に助けを求められなくて、ダンゴムシみたいに丸まるからね。

 柚月は小学3年の頃、1人で山道を自転車で走っていた時に、チェーンが外れちゃって、助けを求められないし、自転車を置いて山を下りることも出来ないし……で、最終的にダンゴムシみたいに丸まってるところを、探しに来た優子に見つかった事があるんだよ。


 「そうなのか……」

 「昔の話だろ~!」


 悠梨の反応に柚月が反論した。

 いやいや、柚月なら怪しいもんだね。


 さて、柚月の相手は、結衣と悠梨に任せるとしてだ、確か昨日柚月は、新品のバッテリーに交換したはずなんだよね。

 それが、放電しきっちゃったって言うと、考えられる理由は大体に絞られるよねぇ……。


 「マイ、私もあそこじゃないかと思うよ」


 やっぱりだね。

 私達は放課後を待つことにした。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『バッテリー替えても上がっちゃうの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 次回は

 再び襲って来た柚月の不調。

 その原因を探ります。


 お楽しみに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る